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第5話(突き放せない存在)

目覚めてすぐに、僕はユキに電話をかけた。


何度も何度もかけた。


だけど、ユキの声を聞くことはできなかった。



あの日のことを思い出す―



遠い記憶が甦る・・・・




ユキが僕の前から突然消えたあの日・・・



繋がらない電話に、僕の心は消えそうになった。




僕は、朝食を用意しようと立ち上がり、冷蔵庫を開けた。



・・・・・・・!!!!



僕は、大声で泣いた。


「うぅ・・ユキ・・・ごめん・・ユキ・・」



冷蔵庫の中にチョコンと置いてあったのは、ケーキの上に乗せようとユキが作ったプレートがあった。



ホワイトチョコの上に、チョコペンで書かれた『祝★4周年!!ハルLOVE』の文字。



僕は、車に飛び乗り・・・無我夢中でユキの家へと車を走らせた。



・・・どうか、会えますように・・・



時計は、AM9時ちょうど。


ラジオからは、懐かしいメロディが流れ出す。


高校の時、ユキがハマってたドラマの主題歌だった。

僕に歌って欲しいとせがむので、必死にカラオケで練習したっけ。


2人きりのカラオケボックスで、僕の歌ってる姿を何枚も携帯のカメラでパシャパシャ撮ってたな・・。


ユキの携帯の待受が、歌ってる僕の写真になってることに気付いた時すごく恥ずかしかったけど、嬉しかった。


ユキは、いつも僕を褒めてくれた。


僕をヒーローにしてくれた。



ユキ、僕はどうかしていた。


見えないくらいの小ささだけど、僕はユキじゃない女の人へ好意を持ってしまった。


だけど、僕が愛しているのは、これまでもこれからもユキだけなんだ。


ラジオから流れるその曲は、今でもユキの着うただった。

いつまでも変わらない気持ち。


僕は、車の免許を取って初めてユキの家に来た日を思い出す。


そういや・・あの時2度目の告白をしたっけ。




またこんな風に3度目の告白をしにくるなんて、僕は情けない男だ。


もう最後にしよう。


ユキに謝るのは、これで最後。



『ピンポーン』



ガチャ・・


「あら〜〜?いらっしゃい。どうしたの?」


出てきたのは、ユキのお母さんだった。


「ユキさん、いますか?」


僕は、もし帰ってなかったらどうしようと不安になった。


「え?ハル君と一緒じゃないの?うちには、もう1週間以上顔出してないけど・・何かあった?」


「・・・すいません。ちょっとケンカしちゃって。多分ユミちゃんとこだと思います・・。」


「ケンカなんて珍しいわね。ユキは、怒ると怖いからちゃんと大事にしてもらわないと・・。私からも連絡しとくわ。ごめんね、わざわざここまで・・」


僕は、車の中でユキへの気持ちを整理して、改めて、ユキしかいないと思った。

今なら言えた。


だけど、ユキには会えなかった。



それから、僕の携帯にユミちゃんから連絡が入り、しばらく泊めると冷たく言われた。


僕は、ユキと話したかった。

早くこの気持ちを伝えないと、取り返しが付かないことになりそうで怖かった。



電話をしても、出てくれなかった。



結局、僕はその日も1人の夜を過ごすことになった。


ユキの作ってくれたクリームシチューの残りを温めながら、ユキへの気持ちが溢れそうになる。



一口ずつ味わって食べた。



ユキの愛情が伝わってくる・・・。


ユキは毎日毎日、僕の為にご飯を作ってくれる。


どんな気持ちで僕にご飯作ってくれていたのだろうか。



それなのに、僕はちょっとした好奇心か、興味なのか・・・


他の女性を女として意識した。



「怒られて、当然か・・」


僕は、もうバイトをやめるつもりでいた。


バイトを続けている限り、さゆりさんと顔を合わすことになる。


今後、またユキに誤解されたくないし、僕自身ももうさゆりさんを知りたくないんだ。


これ以上、さゆりさんの存在を大きくしたくはない。



僕は、インターネットでバイトを探しながら、携帯を気にしていた。


かかってこないユキからの電話・・・



僕は、学校帰りに寄れる場所にあるガソリンスタンドのバイトを見つけた。


時給も結構良いし、体動かすのは得意だし、愛想笑いもうまい方だ。


善は急げ。


早速電話をかけると、後日面接に来るようにと言われた。


こういう時、自然に手が携帯でユキにメールを打とうとしてしまう。


返事がないことはわかっているけど、送信。


≪学校の近くのガソスタのバイト見つけた。今度面接行ってくる。コンビニは今月でやめるよ。元気かどうか、心配。メールください。≫



メールの返信を待つのが辛かった僕は、すぐにシャワーを浴びた。


いつもより、熱めのお湯で体中を綺麗に洗った。


僕は、昨日までの自分にさよならしたかったんだ。



シャワーを浴び終わり、期待せずに携帯に目をやると・・・


不在着信1件。



ユキからの電話だと喜んで、着信履歴を見る。




『さゆりさん』


僕の目に映った文字は、自分で登録したさゆりさんの名。



どうして、こんな時に電話なんてかかってくるんだろう。


生まれ変わった僕を、振り回すのはもうやめてくれ。



僕は、冷蔵庫からユキの作ってくれた麦茶を出し、グラスに注ぐ。



絶対にかけ直さない、と心に決めた僕だった。


しかし、もしバイトの事だったら・・・等と頭の片隅で誰かがささやく。



もう寝るしかないか。


僕は、一人ぼっちのベッドに寝転んだ。



その時、再び携帯に着信。


ユキからの電話は、音楽を変えてあるからすぐわかる。


きっと、さゆりさんからだ。


寝たふりをしようと、電話には出なかった。




しかし、それから何度も何度も1分もしないうちに電話がなった。


何か急用かもしれないと、僕はベッドから起き上がり、電話に出た。



『もしもし・・』


『じん君?・・お願い。今から会えない?』


電話の向こうで、さゆりさんは泣いていた。


何があったか知らないが、僕に頼るのはお門違いだ。


僕に彼女がいることも知っていて、どうして僕に電話をかけるんだ?


『ごめん。無理ですよ。もう11時だし、僕も困る。』


『・・・お願い・・・。少しでいいから。コンビニの横の公園まで来て・・』



僕は、女の人の涙に弱いのか、結局はさゆりさんを放っておけなかったのか・・・



ジャージ姿のまま、走って公園へ向かった。


走りながら、自分を正当化するためにいろんなことを考えた。


あの泣き方は、ただごとじゃない。

きっと、大変な事件に巻き込まれたんだ。

もしかしたら、変質者に追われているのかも知れない。


とか。


僕は、あと一歩というところで断りきれなかった。


あの時、ユキからメールの返信があったら、僕は絶対断ってた。

どんなにお願いされても、突き放すことができたと思う。


この自分の甘さを後悔してももう遅かった。



「どうしたんですか・・?」


僕は、薄暗い公園のベンチに座るさゆりさんを見つけた。


出勤前であることをうかがわせる服装と髪型だった。


紫のワンピースが、公園の灯りに照らされていた。


「ごめん・・・!!」


!!!!


さゆりさんは、僕を見つけるとすごい勢いで僕に抱きついた。


細い体が、震えている。


僕は、何がなんだかわからないまま、さゆりさんの肩に手を回した。


この状況で、他にどんな行動ができるというのか。



「何があったんですか?」


僕は、さゆりさんを落ち着かせる為にも、動揺を隠しながら声をかけた。


「あたし・・何も・・してないのに・・。お金なんて・・盗んで・・ないのに・・」


僕は、泣きながら話すさゆりさんの聞き取りにくい声を必死で聞き取る努力をしていた。


「え?お金??どういうこと?」


僕は、さゆりさんの肩を強く握り、顔を覗きこんだ。


「てん・・ちょうが・・・」


店長・・・その言葉を聞いて僕は状況が理解できた。


店長は、店のお金が合わないといつもぼやいていた。


店の休憩室にまで、隠しカメラを仕込む用意をしていた。


たまたま、僕のバイトの時間の後に店長が入ることが多かった為、僕に疑いの目は向けられなかった。


おそらく、さゆりさんが疑われたのであろう。


「僕から、店長に話しますよ。僕は、いつもさゆりさんの後に入ってたから、さゆりさんがそんなことしてないってわかります。それに、みんな友達が来たら、安くしたりって当たり前のようにしてたから、ピタっと合うなんて無理なんですよ。」


さゆりさんは、潤んだ目で僕を見上げた。


「・・じん君・・。あたし、じん君しか頼る人いなくて・・みんな・・どこかで・・あたしのこと、信用してくれてない・・だから・・ごめんね・・・」



「いいよ、そんなの。大丈夫だから安心してください。」



僕は、さゆりさんを抱きしめている自分に、ハッとした。


「あ、僕今から店行って来ます。店長まだいるでしょ?」


僕は、これ以上さゆりさんと一緒にいるのが怖かった。


僕は、胸の高鳴りを自覚してしまった。



僕は、さゆりさんを自分の意思で抱きしめていたんだ。



「いかないで・・お願い。まだここにいて・・」











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