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第4話(後悔)

「待って!!!・・・ユキ!!!!」



僕は細いユキの腕を掴んだ。


「いいよ。家で待ってるから、戻りなよ。」


ユキは僕の顔を見ようともしなかった。


「ごめん・・・バイト終わって、から揚げの練習してたんだ。それで、あそこで食べてただけだよ。」


「・・・あれがさゆりさん? 綺麗な人だね。勝手な想像だけど、さゆりさんっておばちゃんだと思ってた。」


ユキの声は、今にも泣き出しそうな弱々しい声だった。


「ごめん・・誤解させるようなことして・・。」


「もういいよ。来なきゃ良かったね。来なきゃあんなハル見なくて済んだのにね・・。今日は、実家に帰る・・ごめんね。」


「ちょっと・・待てよ。ちゃんと仲直りがしたい。」


「・・・ごめ・・ん。明日の夜、また話そう。今日はハルとは、一緒にいられない。あんなに嬉しそうに話すハル・・・誤解だって言っても私にはわかるよ。」


ユキは、目に涙を溜めながら、作り笑顔で僕を見た。


「誤解だって!!ほんとに・・」


コンビニの灯りと、時折通る車のライトだけの暗さの中、僕は必死にユキの目を見た。


「ハルが誰と話してるかわからなくて、歩きながらずっと見てたんだ。そしたら・・・さゆりさんに、何か食べさせてあげてたよね?・・誤解かどうか知らないけど、私の目に見えたものは事実だから・・。今日は、本当に・・これ以上ハルの顔見たくないから帰る!!」


ユキは、顔を真っ赤にしながら涙を拭りながら一気に気持ちを吐き出した。

もう僕が何を言っても、嘘にしか聞こえないだろう。


「待って!!送るよ、車で!」


僕の声は、すれ違う車のエンジン音に消されたように、ユキの心には届かなかった。


ユキは、そのまま駅へと走り去った。



ハルノカオミタクナイ・・・



ユキの言葉が胸に突き刺さる。


当たり前だ。



さゆりさんは、どう見てもコンビニの仲間という雰囲気ではなかった。

特に今日のさゆりさんは、夜なのにどうしてそんなに気合入れているのかと思う位だった。



その理由は、コンビニへ自転車を取りに行った時知る事となる。



「じん君、フラれてやんの〜!!なぐさめてあげよっか?ふふふ。」


さゆりさんは、僕を元気付けてくれようとしてるのか、本当に楽しんでるのかわからないようなハイテンションだった。


「・・・もう僕帰ります・・・。また明日。」


僕は、頭の中が整理できないまま自転車に鍵をさす。


「な〜んだ。もう帰るの?あたしに会いたくなったらここに来て!」


そう言って、さゆりさんが差し出したのは・・・名刺だった。


僕はそのへんの事は詳しくないのでわからないが、キャバクラなのか、風俗なのか。


明らかに、夜の香りのする名刺を受け取った僕は、そこに書かれた名前を見た。


『さゆり』



「さゆり・・って本名じゃなかったの?」


「本名な訳ないじゃん。あたし指名しに来てよね。じゃね〜!!」



僕を残し、高いピンヒールで走り出したさゆりさんは、あっと言う間に夜道に消えていった。




「はぁ・・・」



僕は、頭の中がぐちゃぐちゃで、混乱していた。


ユキとのことをどうしようかと悩む僕の脳に、さゆりさんの名刺がぐるぐる回って僕の脳をかき乱す・・・。




僕は、真っ暗な部屋の鍵を開ける。


部屋の中には、いい匂いが漂っていた。


僕の大好物、クリームシチューが鍋の中で悲しそうにしていた。



さっきまで着けていたエプロンは、戻ってくるはずのユキを待っているようだった。



僕はその時・・・ハッとした。



思い出した・・・。




僕は慌てて、携帯を取り出した。



バイトが終わってから、ユキからメールが来ていたことを思い出した。


僕はさゆりさんからのメールを先に見て、そのままから揚げを揚げに行き・・ユキのメールを忘れていた。




・・・・・・・・・・・・・



≪おつかれさま。日記を見ていて思い出したよ〜! 今日は2人の付き合い記念日★駅前のケーキ屋さんにケーキ買いに行こうと思うので、バイト終わる時間にケーキ屋さんで待ってるね。ハル、だ〜いすき!!!≫



僕は、なんて馬鹿な男・・・。




そのまま、床におでこを付けて僕は泣き出した。


ユキ。


ユキ。




ごめん、本当にごめん。ユキ・・・。





泣きながら、僕はコンビニでバイトをしたことを後悔した。


初めて芽生えてしまったかもしれないユキ以外の女性への淡い恋心。


僕は、それを封印するしかないことはわかっていたが、自分に自信がなかった。


時間が戻って欲しかった。


僕が、ユキ以外誰のことも興味がなかった、ほんの10日前に・・・。




その夜、ユキにメールも電話もしなかった。


何を言っても言い訳にしかならないと思ったから。




メールを見ていなかったことは事実だけど、見なかった理由はやはり僕にある。


ユキからのメールをなぜ先に見なかったのだろう。



ユキからのメールを先に見ていたら、僕は急いでケーキ屋さんに向かっていただろう。




夜中に目が覚めて、僕はユキの言葉を思い出す。


何日か前にトイレの前でユキが言った『浮気したら、私消えるよ』



僕は、怖くなってユキの携帯に電話をしようとした。

時計はもう深夜の3時を回っていた。


とりあえず、明日の朝まで待って電話しよう。



僕の一番大事な人は、誰なんだ・・ハル?


僕は・・ユキを愛している。


ユキと結婚するんだ。



僕は、ユキ以外の人と生きていくなんて考えられない。



ユキが好きだ。




なのに、夢にはさゆりさんが出てきた。


さゆりさんは、夢の中で僕を誘惑した。



僕にはユキ以外の恋の免疫がない。

だから、こんな少しのことで風邪を引いてしまうんだ。


時間が経てばすぐに治る。

ちょっと新種のウイルスが僕の周りに飛んでいるだけだ。


また、いつもの僕に戻る。







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