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1つめ

 今でもあの日のことは鮮明に思い出せる。

 冬も深まったこの季節の王都は、一面が雪化粧に覆われる。

 私はまるで、真っ白な絨毯についた小さな染みのような姿で道端にいた。

 倒れ付した体から、私が流れ出ていく。

 雪は今や、私を凍えさせる凶器のようで、しかしもはや体が震わすことすらままならぬ。

 空腹は極限を通り過ぎ、痛みすら感じられない。

 降り積もっていく雪が、ただシンシンと、無表情に、私から命を奪おうとする。

 全ては遠い残響のようだ。

 遠ざかり行く喧騒の中で、指先一つ動かせぬ体の中で、緩慢な思考だけが鮮やかだった。

 『私は死んでしまうのか』とすら思わぬ。

 ただ『これで全てが終わる』という諦観にも似た安堵ばかりが流れてくる。

 必死に生きていたときにはあれほど怖かった『死』が、いざ目の前に這い寄ったときには得難い『幸福』にも見える。

「もう頑張らなくてもいいんだ」

 声にならない囁き。

 全てが溶けて広がっていくような感覚に身を委ね、静かに目を閉じる。

 緩慢な思考は、もはや必要ない。

 なにもかもが遠ざかっていく中で、唯一つの音だけが耳元で煩わしい。

 全身の感覚はなく、まるで浮いているような不確かさを覚えていると、ふいに頬に温もりが感じられた。

なんだろう。

 何かわからぬそれは、けれど『死』の『幸福』よりも縋りつきたくなるような暖かさを持っていた。


 私の命を救い上げてくださった大牛たいぎゅう様。

 私に一枚の毛布と暖かな御粥をくださった大牛様。

 私に寝床と仕事を与えてくださった大牛様。


 その大牛様が、お亡くなりになられるなんて……。




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