結婚して6年、妻は俺を実家の使用人だと言い張った
交際六周年の記念日に、俺は莉子を驚かせようと、久しぶりに休みを取って汐見市へ向かった。夕方から手料理を用意し、帰りを待つ。午後十一時を過ぎた頃、ようやく玄関の鍵が回る音が聞こえた。
俺は慌ててリビングの電気を消した。二人分の笑い声が近づいてきたところでスイッチを入れ、両腕を広げる。
「サプラーイズ!」
明かりがついた瞬間、笑顔が消えた。
莉子は見知らぬ男と抱き合い、唇を重ねていた。俺が目の前にいることにも気づかないまま、二人はしばらくキスを続けていた。
1
広げた腕を下ろすこともできず、俺は二人を見つめた。先に気づいた男が莉子から離れ、警戒した様子で俺を見る。彼はスマホを取り出し、声を荒らげた。
「誰だよ、あんた! なんでここにいるんだ?」
莉子は一瞬だけ顔をこわばらせたものの、すぐに男の腕をつかんだ。俺に向けた目には、まるで勝手に家へ押し入った不審者でも見るような冷たさがあった。
「どうしてここにいるのよ? お母さんの面倒を見るのが、あんたの仕事でしょ!」
男は莉子を振り返った。
「知り合いなのか?」
莉子は彼の腕に寄り添い、声を和らげた。
「実家で雇っている手伝いの人よ。普段はお母さんの世話をしてくれているの。用事があれば、こっちにも来てもらうことがあるのよ」
それから、俺に向き直った。
「給料を払っているからって、好き勝手に動いていいわけじゃないわ。お母さんの世話を頼んでいるのに、勝手にこっちまで来るなんて。料理を作ったなら、キッチンを片づけて帰ってちょうだい」
莉子は玄関を指さした。
男は俺の服装と、テーブルに並んだ料理を見比べた。どうやら彼女の説明を信じたらしい。スマホをしまい、莉子の肩に腕を回した。
「そういうことか。びっくりしたよ。てっきり、君が何か隠してるのかと思った」
男は笑いながら、莉子の肩を軽くたたいた。
「まさか、ただの手伝いの人だったなんてな」
莉子は首を振り、誓うように右手を上げた。
「信じてよ。あなたを裏切るようなこと、するわけないでしょ? 仕事で出張するときや、たまにお母さんに会いに帰るとき以外、私はずっとあなたと一緒にいるじゃない」
男は機嫌を直したように笑い、俺に手を差し出した。
「成瀬湊です。わざわざ来てもらってありがとうございます。お母さんにも、お礼を伝えておいてください」
俺は差し出された手を見た。指は長く、肌もきれいだった。家事や介護で荒れた俺の手とは、ずいぶん違って見えた。
俺は握手に応じず、莉子を見た。せめて一言くらい、事情を説明してくれると思った。
けれど、莉子は俺から目をそらし、代わりに湊の手を取った。
「そんなに気を遣わなくていいのよ。仕事で来ている人なんだから」
莉子は湊をテーブルまで連れていき、椅子を引いて座らせた。肩に手を添える仕草も自然で、彼の好みに合わせて世話を焼いている。俺が知っている彼女は、自分の身の回りのことさえ面倒がる人だった。
湊はテーブルいっぱいの料理を見て、目を輝かせた。
「すごいな。お母さん、君のことを本当にかわいがってるんだね。こんなに用意してくれるなんて。今日は何かのお祝い?」
莉子は財布から紙幣を取り出しかけ、ふと思い出したように答えた。
「母が昔から、私の誕生日には何かと料理を作ってくれるの。離れて暮らすようになってからも、こういうことをしてくれるのよ」
湊は楽しそうに笑った。
「お母さん、いい人だね」
莉子も笑顔を返したが、すぐに俺へ紙幣を押しつけた。
「もういいでしょ。これで切符を買って帰って。お母さんには私から話しておくから。次からは勝手に来ないで。あなたの仕事は、あの人の面倒を見ること。それだけよ」
湊に聞こえないよう、莉子は俺の耳元で声を落とした。
「余計なことを言わないで。妹さんの透析費を誰が払っているのか、忘れたわけじゃないでしょうね」
そう言い終えると、彼女は何事もなかったように湊の隣へ戻った。
窓の外で雷が鳴り、激しい雨が降り始めた。莉子が玄関を指していた手を止めると、湊は彼女を見て眉をひそめた。
「莉子、こんな雨の中で帰らせるの? お母さんに頼まれて、わざわざ料理を作りに来てくれたんだろ。仕事を探すのだって大変なんだから、そこまで冷たくしなくてもいいじゃないか」
湊は俺の肩に手を置いた。
「匠さん、客間があるから、今夜は泊まっていってよ。明日、雨がやんでから帰ればいい。それに、この料理、本当においしいね。俺にも作り方を教えてくれない?」
俺はうつむいたまま、返事ができなかった。
この三年間、莉子は仕事が忙しいと言って、電話もビデオ通話もほとんどしてこなかった。連絡といえば、そっけないメッセージばかり。毎月振り込まれる生活費も、少しずつ減っていた。
それなのに、目の前の二人は、まるで長年一緒に暮らしてきた恋人同士のように寄り添っている。
莉子には俺以外の男がいた。
莉子は少し迷ったような顔をしてから、口を開いた。
「でも、お母さんの体調がよくないから、そばにいてあげないと……」
湊は不思議そうに莉子を見た。
「何言ってるんだよ。昨日、俺はお母さんとビデオ通話したんだぞ。普通に歩いていたし、元気そうだったじゃないか。誰かがつきっきりで世話をしなきゃいけないようには見えなかったけど?」
背筋が冷たくなった。
三年前、莉子は、女手ひとつで自分を育ててくれた母親の千代が病気で半身不随になり、日常生活にも支障が出ていると話していた。ちょうどその頃、俺の妹の美咲にも腎機能の低下が見つかり、定期的な透析治療が必要になった。
看護を学んでいた俺は、仕事を続けながら美咲の世話をするか、仕事を辞めてそばにいるか、毎日のように悩んでいた。貯金も十分になく、治療費を払い続けるのは簡単ではなかった。
そんなとき、莉子が給与の振込先を教え、俺の手を握って言ったのだ。
「匠、お金のことは心配しないで。お母さんと美咲のことは、あなたが見てあげて。ほかのことは私に任せて。しばらく離れて暮らすことになるけど、今だけ頑張ってほしいの」
俺は、家庭のことを一緒に背負ってくれる相手に出会えたのだと思った。莉子が生活費を出してくれるおかげで、俺は千代と美咲の世話に専念できる。そのことをありがたく感じていた。
ただ、千代は気難しい人だった。俺が少しでもそばを離れると機嫌を損ね、いつも目の届くところにいるよう求めた。何を言われても、俺は我慢するしかなかった。
それなのに、湊は千代が元気にしていると言った。
千代の病状について、俺が聞かされていた話は本当なのだろうか。湊の言葉だけで決めつけることはできない。それでも、三年間信じてきた説明に疑問が生まれた。
今回、俺は結婚記念日を一緒に過ごすため、美咲の通院に付き添うと嘘をついた。臨時の介護スタッフを手配し、千代を任せて家を出てきたのだ。出発前、千代は俺が二日も家を空けることに腹を立て、いつものように文句を言っていた。
これまで何度か、莉子に自分の気持ちを伝えようとしたことがある。寂しいこと、恋人なのだからもう少し一緒に過ごしたいこと。けれど、千代は近所の人に聞こえるほど大きな声で俺を罵った。
「女が恋しくてたまらないのかい。そんなに寂しいなら、自分で何とかしな!」
「うちの娘が、あんたの妹の医療費まで払ってやってるんだよ。恩返しのつもりで、私の世話くらいちゃんとしな!」
「娘は都会で働いて苦労してるのに、あんたは自分のことばかり。少しは莉子の立場も考えな!」
千代は、近所の人が顔を出すまで怒鳴り続けることもあった。恥ずかしくて身の置き場もなくなり、俺は次第に何も言えなくなった。
莉子も、そんな俺を慰めるだけだった。
「匠、私だって会いたいよ。時間ができたら帰るから。今はお母さんの精神状態が不安定なの。お願いだから、私のためだと思って、もう少し我慢してくれない?」
莉子も一人で家計を支えているのだから、これ以上負担をかけてはいけない。美咲の治療費も必要なのだから、俺が我慢すればいい。そう考えるうちに、離れて暮らすことが当たり前になっていた。
だからこそ、六回目の記念日くらいは一緒に過ごしたかった。休みを取ってここまで来たのも、手料理を振る舞い、二人で穏やかな時間を過ごしたかったからだ。
それなのに、俺が目にしたのは、長年隠されてきた秘密だった。
莉子は俺の視線に気づいているはずなのに、何事もなかったように湊の隣に座っていた。
湊は俺の様子にも気づかず、楽しそうに話を続けた。
「お母さんは俺のこともかわいがってくれてるんだ。都会育ちで田舎の生活に慣れてないって分かってるから、帰省しなくても怒らないし。二日くらい手伝いの人を借りたって、いいだろ?」
湊は莉子の腕を揺らし、甘えるように笑った。
「それに、匠さんの料理、本当においしいんだよ。俺だって莉子に手料理を食べさせたい。毎日、外食や出前ばかりじゃ体にもよくないだろ?」
莉子は困ったようにため息をついた。
「はいはい、分かったわよ。あなたの好きにして」
それから俺に向き直り、淡々と言った。
「しばらく泊まっていけばいいわ。客間を使って。湊に頼まれたことはやってあげて。追加のお金は、働きぶりを見て考えるから。それと、余計なことを言ったり聞いたりしないで」
「ありがとう、莉子!」
湊は嬉しそうに手をたたき、彼女と一緒にテーブルへ戻った。
俺は並んで座る二人を見つめた。喉の奥が詰まったようになり、言葉が出てこなかった。
2
食事が終わり、湊がシャワーを浴びに寝室へ向かうと、莉子は俺をキッチンへ呼びつけた。湊の前で見せていた柔らかな表情は消え、目には怒りが浮かんでいた。
「匠、誰の許可を得て、勝手にここまで来たの?」
俺は彼女を見つめた。長い間信じてきた相手が、まるで別人のようだった。
「説明してほしいのは俺のほうだ。莉子、俺を裏切ったんだな?」
莉子は唇を結んだ。
「私たちは正式に婚姻届を出していないのよ。それなのに、どうして裏切ったなんて言えるの?」
聞き間違いかと思った。
「どういう意味だよ?」
「言葉どおりよ。あなたに渡した結婚証明の書類は偽物だったの」
莉子は何のためらいもなく言い切った。
「専門学校を出ただけのあなたが、私に釣り合うと思っていたの? 私は有名大学を卒業して、修士号まで取っているのよ」
俺は彼女の顔を見た。莉子は腕を組み、冷たい声で続けた。
「あなたには看護の知識があったし、家のことも任せられそうだった。私が仕事に打ち込んでいる間、実家でお母さんの面倒を見てもらうには都合がよかったのよ」
息が詰まった。
「じゃあ、俺と一緒にいたのは……」
「利用価値があったからよ」
莉子はあっさり答えた。
「私のパートナーになるなら、人に紹介して恥ずかしくない人じゃなきゃ困るの。湊は都会育ちで、学歴もあるし、見た目だっていい。私は彼と正式に結婚しているのよ」
彼女は俺をまっすぐ見た。
「あなたは自分の立場をわきまえて、私の言うとおりにしていればいいの。逆らったら、妹さんの透析費はいつでも止められる。それだけは忘れないで」
俺はエプロンを握りしめた。指先に力が入り、声まで震えた。
「何年も俺を騙していたのか? 夫婦だと思わせておいて、今さら書類が偽物だったなんて……。自分が何をしているのか、分かってるのか?」
莉子は肩をすくめ、俺を頭の先から足元まで眺めた。
「訴えたければ訴えればいいわ。でも、その先のことも考えたほうがいいんじゃない? 何年も仕事から離れていたあなたに、今さら何ができるの? 社会から離れていた人間を、誰が雇ってくれると思う?」
彼女は一歩近づいた。
「私と別れたら、妹さんの治療費どころか、住む場所だって困るかもしれないわよ」
唇をかみしめた。胸の奥がじわじわと痛んだ。
莉子は少し間を置くと、声を和らげた。さっきの暴言など、口にしていなかったかのようだった。
「でも、匠。私の言うことを聞いてくれるなら、悪いようにはしないわ。毎月、今までより多めにお金を振り込んであげる。食べるものにも着るものにも困らないようにしてあげるから」
彼女は手を伸ばし、俺のこめかみのあたりの髪を整えた。
「あなたが寂しいのも分かってる。月に一度くらいなら、時間を作って帰ってあげてもいいわ。何を優先するべきか、あなたなら分かるでしょう? 私だって、あなたに情がないわけじゃ――」
最後まで聞くことはできなかった。
寝室から飛び出してきた湊が、俺の頬を思いきり平手打ちした。
頭が横に振られ、頬に熱い痛みが走った。湊は莉子を引き寄せ、怒りをあらわにして俺をにらんだ。
「何してたんだよ! 俺がシャワーを浴びてる間に、莉子を口説いてたのか?」
口の中に鉄のような味が広がった。
莉子はすぐに湊の手を取り、怪我がないか確かめながらなだめた。
「違うのよ、湊。明日の朝ごはんに、あなたの好きな卵雑炊を作ってもらうように話していただけ。手は痛くない? 私が悪かったわ。あなたを不安にさせるようなことをしたくなかったのに」
湊は疑わしそうに俺を見た。
「本当にそれだけ?」
莉子は彼の頬をつまみ、笑った。
「私がどうして、わざわざ手伝いの人を誘惑するのよ。あなたみたいに若くて素敵な恋人がいるのに?」
湊はようやく納得したらしい。俺に向き直り、少し申し訳なさそうに言った。
「ごめん、匠さん。俺の勘違いだったみたいだ」
俺は頬を押さえたまま、何も言わなかった。
莉子は湊の腰に手を添えた。
「もういいから。あとでちゃんと埋め合わせするわ。髪もまだ乾いてないじゃない。部屋に戻って。私が乾かしてあげる」
彼女は湊を連れて寝室へ戻りかけたが、ドアの前で振り返った。
「テレビ台の下に救急箱があるから。食器を洗い終わったら、自分で手当てして。嫌な思いをさせたことは謝っておくわ。追加のお金も、あとで振り込むから」
そう言い残し、彼女は振り返りもしなかった。
寝室のドアが閉まってから、俺はずっと涙をこらえていたことに気づいた。頬はひどく痛んだが、救急箱を取りに行く気力もなく、客間の簡素なベッドに横になった。
隣の部屋から、二人の声が聞こえてくる。
「ねえ、さっきあいつと近づきすぎだよ。俺、嫌だったんだから。俺のことが一番大事だって、ちゃんと分からせてよ」
莉子は楽しそうに笑った。
「いいわよ。どうしてほしいの?」
しばらく静かになったあと、衣擦れの音がした。やがて湊のくぐもった声と、莉子の荒い息遣いが壁越しに伝わってきた。
俺は目を閉じ、枕に顔を押しつけた。莉子は俺が眠れない夜を過ごしていることを知っている。それなのに、隣で好き放題に振る舞っていた。
涙が止まらなかった。
隣の部屋が静かになったのは、午前三時を過ぎた頃だった。いつ眠りに落ちたのかも分からないまま、俺はノックの音で目を覚ました。窓の外は、まだ薄暗かった。
首筋に新しいキスマークをつけた湊が、何事もなかったかのように俺をキッチンへ連れていった。
「匠さん、昨日は本当にごめん。莉子には、あとで給料を上げてもらうように言っておくよ。それより、卵焼きの作り方を教えてくれない? 莉子、あれが大好きなんだ。昨日は疲れさせちゃったから、起きたら驚かせてあげたいんだよね」
そう言って、湊は頬を赤くした。
俺は彼の手を振りほどき、莉子がどんな人間なのか教えてやりたかった。だが、美咲の治療費を考えると、感情のままに動くことはできなかった。
俺は黙って、湊と一緒にキッチンへ入った。
フライパンを火にかけ、油を引き、卵を割る。湊は料理を覚えたいと言いながら、俺のそばで莉子との生活について楽しそうに話し続けた。
「匠さん、あんまり眠れてないみたいだね。昨日、俺たちの声がうるさかった? ごめん、この部屋がこんなに音を通すとは思わなかったんだ。でも、恋人を選ぶなら莉子みたいな人がいいよ。稼いでくれるし、優しいし、何でもできる」
湊は俺の顔をのぞき込んだ。
「匠さんは結婚してるの? パートナーとはうまくいってる?」
俺が答える前に、彼はまた話し始めた。
「俺、性と愛情は切り離せないと思うんだ。相手が自分をどう思ってるかって、そういうときにも出るだろ? 海外の動画もいろいろ集めてるから、興味があれば見せてあげるよ」
あまりに露骨な話に、胃のあたりがむかついた。手にしていたフライ返しが震え、俺は流し台に手をついて前かがみになった。
湊が心配そうに近づいてきた。その拍子に彼の腕がフライパンの柄に当たり、コンロの上で鍋が傾いた。跳ねた熱い油が、俺の手の甲にかかった。
皮膚がみるみる赤くなった。湊も自分の手首を押さえ、悲鳴を上げた。
「熱っ、痛い!」
声を聞きつけ、莉子が寝室から飛び出してきた。キッチンへ駆け込むと、彼女は俺を押しのけ、真っ先に湊のもとへ向かった。
十八時間も普通列車に揺られて汐見市まで来た。まともに食事も取れず、別の男の前では手伝い扱いされ、夜は客間で二人の声を聞かされた。朝早くから湊に起こされ、料理を教えろと言われ、心も体も限界だった。
莉子に押された拍子に足元がふらつき、俺は床に尻もちをついた。腰がキャビネットの金具にぶつかり、目の前が暗くなった。
それでも莉子は俺を気にも留めなかった。湊の手首を確かめると、俺を振り返って怒鳴った。
「何をしたの? わざとでしょ!」
説明する間もなく、彼女の手が飛んできた。昨夜叩かれたのと同じ頬に、鋭い痛みが走った。
頭がくらくらした。
「俺が不注意だったんだ。匠さんを責めないでよ!」
湊は莉子の腕をつかみ、なだめようとした。しかし、彼女は荒い息をつきながら俺を指さした。
「まともに鍋ひとつ扱えないなんて、何ならできるのよ!」
莉子は湊の手首を確かめた。赤くなってはいたが、目立った傷はない。それでも、彼女は大げさなくらい心配していた。
「病院へ行きましょう!」
莉子は湊を抱えるようにして家を出ていった。俺のそばを通り過ぎても、一度も振り返らなかった。
しばらく床に座り込んでいたが、やがて体を起こし、散らかったキッチンを片づけた。自分の傷を手当てする間もなく、莉子から電話がかかってきた。
「今、市内の病院にいるの。湊がお腹を空かせてるから、卵雑炊を作って持ってきて。家に材料はあるでしょ。卵はふんわりさせて、味つけは薄めにしてちょうだい」
電話の向こうから聞こえるのは、冷たい指示ばかりだった。
俺は少し黙ってから、口を開いた。
「莉子、俺も怪我をしてるんだ」
電話の向こうが静かになった。直後、スマホに入金通知が届いた。
「追加で払うから、早く持ってきて」
それだけ言って、電話は切れた。
俺は痛む手をかばいながら雑炊を作り、保温容器に詰めて病院へ向かった。
病室に入ると、湊は莉子にもたれかかっていた。看護師が彼の手当てをしながら、莉子に声をかけていた。
「湊さん、大事にされているんですね。ご家族からも、治療費のことなど細かく相談されていると伺いました」
俺は足を止めた。
莉子は湊の治療に、まとまった金額を用意していたらしい。
実家で千代の世話をしていた頃、莉子が毎月振り込んでくれた生活費は八万円だった。そのうち五万八千円ほどは、美咲の治療にかかる自己負担分に消えた。残りだけでは二人で暮らしていくのも厳しく、俺は日々の出費を切り詰め、ときには不用品を売って生活費の足しにしていた。
千代からは、何かにつけて金食い虫だと罵られた。それでも、莉子が毎月八万円も送ってくれることに感謝していた。
汐見市のマンションについても、会社の福利厚生で長期間無料で住めることになったのだと聞かされていた。待遇のいい会社に入れたのだと、俺は素直に喜んでいた。
だが、今となっては何もかも疑わしかった。
結婚証明の書類まで偽造する人間が、収入や仕事について嘘をついていたとしてもおかしくない。
ぼんやりしていると、湊が俺に気づいて笑顔を向けた。
「匠さん、来てくれたんだ!」
莉子は顔を上げ、不機嫌そうに言った。
「来たなら、ぼんやりしてないで雑炊を出してよ」
俺は目を伏せ、保温容器をベッド脇に置いた。ふたを開け、湯気の立つ雑炊を取り出したところで、莉子のスマホが鳴った。
彼女は画面を確認したものの、すぐには電話に出なかった。湊は気遣うように笑った。
「会社から? だったら、先に出てきなよ」
莉子は少し迷った顔をした。
「あなた、自分で食べられるの?」
「大丈夫だよ。匠さんに食べさせてもらえばいいし。仕事は大事だろ? 莉子が稼げなくなったら、俺まで誰かの家で手伝いをしなきゃいけなくなるかもしれないしね」
湊は言ってから、慌てて口元を押さえた。
「匠さん、手伝いの仕事が悪いって意味じゃないよ。俺が自分でやるのは嫌だなってだけ。気を悪くしないでね」
俺は首を横に振った。
「気にしてないよ」
莉子は俺の顔色をうかがってから立ち上がった。
「じゃあ、お願いね。追加のお金は約束するから。湊、電話が終わったら戻ってくるわ」
彼女は湊の額に軽くキスをして、病室を出ていった。
3
莉子の姿が廊下の向こうに消えると、湊は俺を見た。
「じゃあ、匠さん。悪いけど、食べさせてもらえる? 右手が痛くて、うまく動かせないんだ」
俺はうなずき、雑炊をすくった。少し冷ましてから湊の口元へ運んだが、彼はなかなか口を開かなかった。
次の瞬間、湊が俺の火傷した手をつかんだ。指先が、水ぶくれに食い込む。
鋭い痛みが腕を駆け上がった。俺の手が震え、器が床に落ちた。雑炊が飛び散り、床一面に広がった。
湊は俺の手首を握りしめ、険しい顔でにらみつけた。
「匠さん、ここまでされても、まだ我慢するのかよ! 俺が何をしても、どうして反抗しないんだ!」
床に散った雑炊がズボンにかかり、熱がじわじわと伝わってきた。手の甲では破れた水ぶくれから体液がにじみ、血の粒と混じって手首へ流れていた。
全身が震え、歯を食いしばった。それでも、俺は声を上げなかった。
湊は俺の手首をつかんだまま、目をそらさずに言った。
「聞いてくれ。俺はある役目を与えられて、この本の世界に入り込んだんだ。いわゆる、転生者みたいなものだよ」
彼は口元を引きつらせ、苦しそうに笑った。
「お前に反抗してほしかった。あの女がどんな人間か気づいて、離れてほしかったんだよ。なのに、どうしてそこまで我慢するんだ? ここまでひどい目に遭っても、まだあの女が好きなのか?」
言い終えると、湊は急に体を強張らせた。見えない何かに電流を流されたかのように指が痙攣し、額には冷や汗が浮かんだ。歯を食いしばる音が、静かな病室に響いた。
彼は苦しそうに俺の手首をつかみ、爪を皮膚に食い込ませた。体の震えを抑えようとしても抑えられないらしく、息をするのもつらそうだった。
「頼むよ……。もう恋愛に振り回されるのはやめてくれ。お前は、ひどい目に遭い続ける恋愛小説の主人公なんだ。お前が目を覚ませば、この世界だって変わるはずなんだよ」
そう言い終えると、湊の目から力が抜けた。俺の手から指が滑り落ち、そのままベッドに崩れ落ちた。
俺は彼を見つめた。
役目、転生、本の世界、恋愛小説の主人公。聞いたことのない言葉ばかりだった。なぜ湊がそんな話をしたのか、どうして急に苦しみ始めたのか、何ひとつ分からなかった。
廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。電話を終えた莉子が戻ってきて、床の惨状と意識を失った湊を目にした途端、顔色を変えた。
彼女は床に散らばった器をまたぎ、俺の傷ついた手など見向きもせず、湊を抱き起こした。
「湊! 湊、どうしたの!」
莉子は彼の肩を揺さぶったあと、勢いよく俺を振り返った。
「匠、何をしたのよ!」
彼女は俺の説明を聞こうともしなかった。俺が腹いせに湊を傷つけたのだと決めつけ、声を荒らげた。
騒ぎを聞きつけた看護師たちが病室に駆け込んできた。湊の状態を確認し、すぐに対応を始める。
「意識がありません。すぐに医師を呼んでください!」
担架が運び込まれ、医療スタッフが湊を乗せた。莉子は立ち上がり、胸を大きく上下させながら俺をにらみつけた。
「散々、我慢してあげたのに! 人を傷つけるなんて、どういうつもりよ!」
「俺じゃない」
喉が乾き、声がかすれた。本当は、さっき湊から聞いたことをすべて話したかった。だが、言葉にするのをためらった。
役目だの、本の世界だのと話したところで、精神的に追い詰められた人間の妄言だと思われるだけだろう。莉子に精神状態を問題視されれば、美咲の治療まで止められかねない。
莉子は鼻で笑った。
「あなたじゃない? 私が出ていったときは何ともなかったのよ! どうせ、あなたが余計なことを言って刺激したんでしょう!」
彼女は一拍置き、冷たい声で言った。
「自分のしたことの責任くらい取りなさい。今日から妹さんの治療費は払わない。湊が目を覚ますまで、一円も出さないから!」
俺は痛む手をかばいながら、一歩前へ出た。
「莉子、そんなことをする権利はない! 美咲の命がかかってるんだぞ!」
「その命を支えているお金は、私が出してるのよ」
彼女は俺の血まみれの手を一瞥しただけだった。
「出ていって」
担架が俺の横を通り過ぎていった。血の気を失った湊の顔を見送りながら、胸の奥が重くなった。手の甲は焼けるように痛み、これまで頼りにしてきたものまで崩れかけていた。
莉子は医療スタッフのあとを追い、俺を振り返りもしなかった。そのとき、ポケットの中でスマホが何度も震えていることに気づいた。
病室には、俺一人が取り残された。傷口からはまだ血がにじんでいたが、スマホは再び激しく震えた。
取り出すと、画面には実家の市立病院からの着信が表示されていた。俺は深く息を吸い、震える指で通話ボタンを押した。
「榊原匠さんのお電話でしょうか?」
受話器の向こうから、医師の声が聞こえた。
「はい、俺です。妹に何かあったんですか?」
「いいえ、よいお知らせです。妹さんに適合する腎臓の提供が決まりました!」
俺はその場で固まった。聞き間違いではないかと思い、思わず聞き返した。
「……今、何とおっしゃいました?」
声が震えていた。医師は落ち着いた口調で説明してくれた。
「臓器移植の調整が進み、妹さんに適合する腎臓が見つかったのです。提供者の方は、臓器提供の意思を示されていた方で、必要な検査も進められています」
医師は少し間を置いてから、続けた。
「提供者のご遺族は、妹さんのご家庭の事情を知り、療養を支援したいと申し出てくださいました。手術費用や、その後の治療にかかる費用についても、支援を受けられる見込みです」
俺はスマホを握りしめた。
「本当ですか……?」
「はい。まずはできるだけ早く病院へ戻ってきてください。手術前の検査や日程について、担当チームと相談しましょう」
「分かりました。すぐに帰ります」
電話を切ったあとも、しばらくその場から動けなかった。
美咲の治療に、ようやく道が開けた。莉子に透析費を盾に脅される必要も、妹を生かすために屈辱を飲み込み続ける必要もなくなるかもしれない。
病室の入口へ目を向けると、莉子の足音は遠ざかっていた。彼女はまだ、自分が俺を好きなように操れると思っているのだろう。
俺は傷だらけの手を見下ろした。火傷はひどく痛んだが、あの女の顔色をうかがい続ける暮らしから抜け出す道は見えてきた。湊が口にした奇妙な言葉の意味は分からない。それでも、ここから離れることはできる。
涙を拭い、スマホをポケットにしまった。床に散らばった雑炊や破片を避け、俺は一度も振り返らずに病室を出た。
「匠! どこへ行くのよ!」
背後から莉子の怒鳴り声が飛んできた。湊が救急処置のために運ばれていくのを見届けた彼女は、俺が立ち去ろうとしていることに気づき、命令するような口調で叫んだ。
俺は振り返らず、歩みを止めなかった。
「待ちなさい! 湊はまだ処置を受けてるのよ! 勝手に帰ったらどうなるか分かってるでしょうね!」
莉子の足音が近づいてきた。俺は急いでエレベーターに乗り込み、閉ボタンを押した。
4
重い扉が閉まり、怒りに歪んだ莉子の顔が見えなくなった。エレベーターが下降し始めてから、俺は冷たい壁にもたれ、長い息を吐いた。
火傷した手の甲は少し触れただけでも痛み、頬にも鈍い痛みが残っていた。それでも、胸を締めつけていた息苦しさは和らいでいた。
病院を出ると、そのまま駅へ向かい、最も早く乗れる普通列車の切符を買った。改札を通り、ホームへ急ぎ、列車に乗り込む。足を止めれば、また莉子に引き戻されるような気がした。
古びた車両には、弁当やコーヒーの匂いが漂っていた。席を見つけて座ると、列車は揺れながらホームを離れた。窓の外では高いビルが遠ざかり、代わりに田畑や低い家並みが広がっていった。
俺は冷たい窓ガラスに額を寄せ、流れていく景色を眺めた。
この六年間、いったい何を我慢してきたのだろう。
妹の透析費を払うために、看護の仕事を辞めた。家に残って千代の世話をし、家事をこなし、罵声を浴びても耐え続けた。莉子は遠くで働き、連絡もろくに寄こさなかった。それでも、いつか一緒に暮らせる日が来ると信じていた。
最後に分かったのは、結婚証明の書類さえ偽物だったという事実だった。
俺は、嘘の上に築かれた関係を守り続けていたのだ。
これまでは、美咲さえ生きていてくれれば、多少の苦労は仕方ないと思っていた。何度も自分に言い聞かせ、不満を胸の奥に押し込み、莉子に弱みを握られたまま過ごしてきた。
ほかに選択肢はない。そう思い込んでいた。
妹の命が何より大切なのは変わらない。そのためなら、どんな屈辱だって耐えられる。そう信じてきた。
けれど、今は違う。
美咲には腎臓の提供者が見つかった。手術や療養にかかる費用についても、支援を受けられる見込みだ。これから先、莉子の顔色をうかがい、彼女の気分ひとつで生活を脅かされる必要はない。
俺も、自分のために選択していいはずだ。
あの女に踏みつけられたまま生きるつもりはない。これ以上、好き勝手に扱われるのもごめんだった。
列車は一定のリズムで走り続けていた。窓の外の景色が移り変わるにつれ、俺はあの街から遠ざかっていった。
実家のある町に着くと、俺はそのまま市立病院へ向かった。担当医から移植前の検査や手術の日程について説明を受け、必要な書類を確認する。美咲の体調を見ながら、医療チームが手術の準備を進めていった。
提供者のご遺族からの支援についても、病院の担当窓口を通して説明を受けた。支援の範囲や手続きは一つずつ確認する必要があったが、これまでのように莉子の送金だけを頼りにする状況からは抜け出せそうだった。
手術当日、俺は手術室の前で待ち続けた。時計の針が進むたびに、指先が冷たくなった。何度も立ち上がっては座り直し、廊下の奥に目を向けた。
やがて手術室のランプが消え、医師が出てきた。
「手術は無事に終わりました。これからは経過を慎重に見ていきます」
その言葉を聞いた瞬間、張りつめていた神経が緩んだ。足から力が抜け、俺は廊下の長椅子に倒れ込みそうになった。
美咲は術後の管理を受け、少しずつ回復していった。俺は面会のたびに顔色を確かめ、医師や看護師から説明を受けた。今後も定期的な検査や通院は必要だったが、これからの生活について考える余裕が戻ってきた。
提供者のご遺族は、医療機関を通じて紹介された支援制度を利用し、手術費用や術後の療養にかかる費用を援助してくださった。俺が医療の仕事を諦めきれずにいることを知ると、学校に戻るための費用についても相談に乗ってくれた。
何年ぶりかで学校へ通うと、周りの学生は俺より何歳も若かった。看護を学んだ経験はあったものの、生活に追われるうちに忘れてしまった知識も多い。考えた末、俺は医療経営の分野を学ぶことにした。
昼間は講義を受け、夜は図書館で本を読み、問題を解き、ノートを整理した。ほかの学生が休んだり遊んだりしている間も、俺は遅れを取り戻そうと勉強を続けた。
熱い油を浴びた手の甲には、薄い傷痕が残った。ときどきそれを見ると、あの頃のことがよみがえる。それでも、以前のように怯えることはなかった。
5
数年が過ぎ、俺は無事に学業を終えた。専門知識を身につけたことが評価され、医療分野に投資する会社に就職することもできた。
仕事は決して楽ではなかった。門前払いを受けることもあれば、深夜まで残業する日もあった。それでも、目の前の課題に一つずつ向き合い、経験と人脈を積み重ねていった。
美咲の体調が安定してくると、俺は過去の出来事を証明するための資料を整理し始めた。偽造された結婚証明の書類の写し、過去のメッセージ、そして莉子から脅されたときに密かに録音していた音声。残っていたものを、一つずつ集めていった。
俺は莉子の勤め先に実名で通報し、偽造書類や虚偽の説明によって人を欺いていたことについて、資料を提出した。会社がどこまで調査を進めたのかは分からなかったが、その後、彼女の昇進にも影響が出始めたと聞いた。
ただ、資料を提出するだけで、すべてが解決するとは思っていなかった。そこで、信頼できる恋愛相談系のネット発信者に連絡を取り、俺と美咲の身元が分からないようにしたうえで、これまでの経緯をまとめて公開してもらった。
記事はすぐに広まり、大きな議論を呼んだ。莉子も注目を集めることになったが、今度は彼女が隠してきた一面が、多くの人の目に触れることになった。
世間からの批判が強まるにつれ、会社も彼女の問題を改めて調査するようになった。仕事上の規定に関わる問題も確認されたらしく、その後、莉子は高収入の仕事を失ったと聞いた。
その少し後、湊から別れを告げられたらしい。
莉子は簡単には受け入れられず、何度も湊に連絡し、過去の関係を持ち出して引き止めようとしたという。だが、湊の両親は息子がこれ以上騒動に巻き込まれることを望まず、莉子との間に入って対処したそうだ。
それ以来、莉子は以前のような勢いを失っていった。
俺は、彼女が自分の行動の結果と向き合うことになったのだと思った。
それでも、一つだけ、どうしても消えない疑問が残っていた。
湊のことだ。
人づてに彼の行方を探したが、有力な情報は見つからなかった。あの日、病室で湊は見えない力に苦しみながら、自分は役目を与えられた人間で、この世界は本の中だと言っていた。さらに、俺のことを恋愛小説の主人公だとも口にした。
あの言葉が、何度も頭の中によみがえった。
俺が六年間味わった苦しみも、美咲が耐えてきた病気も、すべて誰かが書いた物語の一部だったのだろうか。
何が本当で、何が嘘だったのか。
その問いに、答えが出ることはなかった。
6
ある夜、仕事を終えて帰宅した俺は、疲れ切って深い眠りに落ちた。そして、不思議なほど鮮明な夢を見た。
周囲は、果てしなく広がる柔らかな白い光に包まれていた。病室も、争いも、痛みもない。その光の中心に、湊が静かに立っていた。
かつての傲慢な態度は消え、穏やかな表情を浮かべていた。彼は俺を見つめ、かすかに笑った。
「別れを言いに来たんだ」
その声は、耳元を吹き抜ける風のように静かだった。俺は彼を見つめた。本の世界や役目のこと、あのとき何が起きていたのか、聞きたいことはいくつもあった。
だが、湊は小さく首を振った。
「何が本当で、何が嘘だったのか。もう、そんなことにこだわらなくていいんだ。どんな場所にいても、自分を見失わないでくれ」
彼は少し言葉を切り、俺の顔を見た。
「本当か嘘かなんて、そんなに大事なことじゃない。お前はもう、あの檻から抜け出したんだ。これからは自由に生きてほしい。自分で働いて、自分の力で暮らしていけるんだからさ。誰かにすがらなくても、自分の人生を大切にしてくれ」
言い終えると、湊の姿は少しずつ白い光に溶けていった。最後には、その輪郭も見えなくなった。
俺は勢いよく目を覚ました。胸が大きく上下していた。窓の外では夜の色が薄れ、東の空が白み始めていた。カーテンの隙間から差し込む朝日が、机の上に開いた本のページを照らしていた。
紙の上に広がる金色の光は、穏やかで温かかった。俺は手の甲に残る傷痕を見下ろした。傷はまだ消えていない。それでも、過去の苦しみを思い出すたびに怯える必要はなかった。
美咲は少しずつ回復し、俺には自分の仕事がある。誰かに依存しなくても、自分の人生を歩いていける。
俺は窓辺へ歩み寄り、カーテンを開けた。
朝日が部屋いっぱいに差し込んできた。
俺は机に向かい、今日やるべき仕事に取りかかった。
(完)




