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第3話《できていないのは、どっちだ》

翌朝。

光墨探偵事務所のドアを開けた瞬間、

耀は嫌な予感しかしなかった。

──いる。

昨日と同じ場所。

応接ブースのソファー。

今日は寝ていない。

肘掛けに片腕を乗せ、足を組み、

資料をめくっている男がいる。

「……」

耀は深く息を吸ってから、

ずかずかと近づいた。

「有哉さん」

「……あ?」

有哉は顔も上げない。

「昨日のことなんですけど」

「知らねぇ」

即答。

「まだ何も言ってません!」

「言わなくても分かる」

有哉は資料を閉じ、

ようやく耀を見る。

「また文句だろ」

「文句です!」

耀は指を突きつけた。

「昨日、

 資料の整理とか、

 付箋とか、

 まとめ直しとか──

 やりました!?」

「……は?」

「やりましたよね!?」

有哉は一瞬だけ黙り、

それから面倒くさそうに言った。

「だから何だよ」

「だからじゃありません!」

耀は声を荒げた。

「勝手に触らないでくださいって、

 昨日言いましたよね!?」

「触るなって言ったか?」

「言いました!」

「記憶違いだな」

「違いません!!」

有哉は鼻で笑う。

「……うっせぇな」

その一言で、耀の堪忍袋が切れた。

「何なんですかその態度!!」

「お前ができてねぇだけだろ」

ぴし、と空気が割れた。

「……は?」

「話が長ぇ

 要点がねぇ

 無駄が多い」

有哉は、淡々と続ける。

「整理も甘い

 見る側のこと考えてねぇ」

「……」

「だから直しただけだ」

耀の拳が、震えた。

「……それを、

 勝手にやっていい理由にはなりません」

「仕事だからだろ」

「…あなた、

 ここで働いてませんよね!?」

「だから?」

有哉が、少しだけ目を細める。

「探さんは助かってる」

「……っ」

「結果出てんだろ」

耀は、一瞬言葉に詰まった。

だが次の瞬間、

感情が爆発する。

「それがムカつくんです!!」

「は?」

「全部!

 勝手で!

 偉そうで!

 何も説明しないで!」

耀は、もう止まらなかった。

「こっちは新人で、

 分からないことだらけで、

 一生懸命やってるのに!」

「だからって、

 見てられねぇ仕事すんな」

「有哉さん!!」

耀は机を叩いた。

「…じゃあ教えてくださいよ!

 そんなに分かってるなら!」

一瞬。

有哉の表情が、

ほんの少しだけ変わった。

「……面倒くせぇ」

「は!?」

「教える義理ねぇ」

「……っ」

「仕事は結果だろ。

 感情でやるな」

耀の目が、かっと熱くなる。

「……もういいです!」

「あ?」

「触らないでください!

 話しかけないでください!

 ここに来ないでください!!」

完全にブチ切れだった。

有哉は、しばらく耀を見ていたが、

やがて肩をすくめる。

「はいはい」

「はいはいじゃありません!!」

「……ほんと、

 ガキだな」

──ぷつん。

「出て行ってください!!!」

事務所に、

怒鳴り声が響いた。

奥から、探が顔を出す。

「……耀?」

「ごめんなさい、父さん!!」

耀は振り返り、

そのまま言った。

「でもこの人、

 本当に無理!!」

有哉は舌打ちし、

ソファーに座り直す。

「……だから、

 うるせぇって言ってんだよ」

火花が散る。

この二人は、

まだ分かり合う気など一切ない。

ただ一つ確かなのは──

同じ仕事をしているのに、

"見ている景色"がまるで違う

ということだった。


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