第2話《小さな違和感》
仕事の様子とかも架空と思ってください…()
午前中は、いつも通りだった。
電話応対。
依頼内容の聞き取り。
探が話し、耀がメモを取る。
耀はまだ、探偵助手としては駆け出しだ。
聞き逃しも多いし、要点をまとめるのも時間がかかる。
「……すみません。
今の、もう一度いいですか?」
探が横から補足する。
「つまり、最後に見たのは──」
「はい、その通りです」
耀は慌ててキーボードを叩いた。
(難しい……)
ふと、机の端に置かれたファイルが目に入る。
昨日まで、
どこに何があるか分からなかった資料。
──なのに。
「……あれ?」
自然と、声が漏れた。
索引。
付箋。
ページの折り方。
「……こんなに、見やすかったっけ」
探がちらりと視線をやる。
「気づいたか」
「……はい」
耀は首を傾げる。
「私…こんな整理してない…です」
「だろうな」
探は、さらっと言った。
それ以上は説明しない。
「……」
耀はモヤっとしたまま、作業を続けた。
昼前。
依頼人が帰ったあと、
探は別件の電話対応に入る。
「耀、ちょっとこれ頼めるか」
「はい」
言われた通りに資料を探す。
……が。
「あれ?」
棚を見ても、
引き出しを開けても、
目当ての書類が見つからない。
「……え、なんで?」
昨日、確かにここに置いたはずだった。
(私、場所間違えた?)
焦りながら探していると、
探が電話を切って戻ってきた。
「どうした」
「この件の資料、
ここに置いたはずなんですけど……」
探は一瞬だけ考え、
別の棚を指差した。
「そこだ」
「え?」
言われた通りに開けると、
きちんと揃えられた書類があった。
「あ……」
「内容別に分け直してある」
耀は、思わず手を止めた。
「……私、そんなことしてないです」
「知ってる」
探は淡々と言う。
「だから、助かってる」
「……」
胸の奥が、少しだけざわつく。
(……あの人?)
朝、ソファーで寝ていた男。
だらしなくて、態度が悪くて、
最悪だったあの人。
(……仕事、してた?)
すぐに、首を振る。
(いやいやいや)
資料を触るなって言ったし。
勝手なことしてるだけだし。
そう思おうとした、その時。
電話が鳴った。
「……あ、はい」
受話器越しに、
依頼人の声。
話を聞きながら、
耀はメモを取る。
だが途中で、
言葉に詰まった。
「……すみません。
今の、どういう意味ですか?」
探が助け船を出そうとして──
いつの間にか、
探の横に置かれていたメモ。
端的で、分かりやすい要点。
探がそれを見る。
「……ああ、そういうことか」
耀は、ぎょっとした。
「え……?」
探は受話器を押さえ、
小声で言う。
「さっきの依頼人の話、
これが要点だ」
「……」
耀は、喉が詰まった。
(……私じゃない)
この字は、自分じゃない。
でも、探のものでもない。
(……誰?)
探は何事もなかったかのように耀から電話を受け取り、
依頼人と話を再開する。
耀は、そのメモを見つめたまま、
しばらく動けなかった。
胸の奥に、
小さな違和感が沈んでいく。
最悪な男。
迷惑な居候。
態度の悪いフリーター。
──本当に?
答えは、まだ出ない。
ただ一つ確かなのは。
"いないはずの誰か"が、
確実に仕事をしている
ということだけだった。




