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《ついて行った》

夕方。

事務所の時計が終業時間を告げていた。

「今日はここまでだな」

探の声。

「はい」

耀は鞄を肩に掛ける。

有哉はそれより少し早く、

ジャケットを羽織っていた。

「……」

玄関で靴を履きながら、

何も言わずに出ていく。

耀はそれを横目で見送った。

(……)

数秒。

(……別に)

(……気にしてないし)

そう思ったはずなのに。

気づいたら、同じタイミングで事務所を出ていた。



外はネオンが灯りはじめている。

耀は無意識に足を動かしていた。

(……あれ)

視線の先。

少し前を歩く背中。

見覚えのある、長身。

「……有哉さん?」

思わず足を止める。

(……この前の道)

繁華街。

ホストクラブ。

バー。

ホテル。

前に一度、見てしまった通り。

(……いや、違う)

(……別に、ついていくわけじゃない)

耀はすぐに自分に言い訳をした。

(……探偵助手なんだから)

(……尾行の練習、とか)

(……たまたま同じ方向なだけで)

言い訳がどんどん増える。

でも、足は止まらない。


有哉は一定のペースで歩いている。

振り返らない。

迷わない。

耀は、距離を保ちながら人の影に紛れる。

(……見失わない)

(……いや、見失ってもいいんだけど)

心臓が、

少し速い。

(……これ……練習だから)

そう思い込む。


通りの奥。

地下へ降りる階段が見えてきた。

派手なネオンの看板。

眩しく光る建物。

賑やかな音楽。


耀は、

思わず足を止める。

(……え)

有哉は迷いなくその階段を降りていく。

背中が、地下の闇に吸い込まれる。

「……」

耀の喉が、

ひくりと鳴る。

(……入った)

(……ホストクラブ!?)

胸の奥が、ざわっとした。

(……やっぱり)

(……昼間寝てて)

(……夜は、こういう仕事……?)

一気に、

今までの点と点が

勝手に線になる。

態度が悪い。

夜に出る。

昼にいる。

繁華街。

(……ホスト……)


ああ、そうか。

(……納得しちゃうのが一番ムカつく……!)


耀は、

階段の手前で立ち尽くした。

(…追いかけない)

さすがに、そこまではしない。

ただ、

見てしまった。

それだけ。

(……最低)

誰が、じゃない。

自分が。

「……」


一瞬だけ地下の方を見る。

当然、有哉の姿はもう見えない。


「……」

耀は、

強く唇を噛んだ。

(……ホストだったんだ)

そう思った瞬間、

なぜか

胸の奥が

ひどく重くなった。


帰り道。

耀は、来た道を戻る。

ネオンがやけに眩しい。

(……別に、関係ないし)

(……ただ事務所に居座ってて)

(……仕事、何してようが)

頭では、

そう思っているのに。

(……何で……こんな気になるの)


理由は、分からない。

でも、

一つだけ確かなのは──

あの男を「ただの最悪な男」だと

思えなくなっているということだった。


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