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《来ない日》

翌日。

光墨探偵事務所のドアを開けて、

耀は無意識に応接ブースを見た。

──いない。

「……」

別に期待していたわけじゃない。

(……昨日は、たまたま)

そう思って、いつも通り席に向かう。

探はすでに来ていた。

「おはよう」

「おはようございます」

それだけ。

午前中。

電話。

資料。

来客。

仕事は、普通に回る。

……はずだった。

「……あれ?」

耀は棚の前で足を止めた。

(……これ、どこだっけ)

昨日まで、

なんとなく"分かっていた"場所。

探に聞くほどでもない。

でも、自分一人だと

少しだけ手間取る。

「……」

(……別に、あの人がいないからって)

自分に言い聞かせる。

でも、

机に戻ると

視界の端に

ぽっかり空いたソファーが映る。

(……来ない日もあるんだ)


昼過ぎ。

「耀」

探が声をかける。

「今日、有哉来ないのか?」

「……さあ」

即答できなかった自分に、

少し驚く。

「まあ、顔出さない時もあるか」

探は、それ以上何も言わなかった。

「……」

耀は、

なぜか胸の奥が

すっと冷えるのを感じた。

(毎日来てたのはここ最近だけだし…)


夕方。

片付けをしながら

ふと、昨日のことを思い出す。

コーヒー。

一口。

「悪くねぇ」。

(……何だったんだろ)

ただの気まぐれ?

たまたま?

(……深く考えることじゃない)

そう思うのに。

流しの前で、

手が止まる。

自分と探が使ったマグカップ。

耀は、それを洗って元の場所に戻した。



その夜。


有哉は、探偵事務所とは別の場所で動いていた。

無駄のない判断。

即応。

疲労を感じる暇もない。

頭は、冴えている。

(……)

一瞬、

事務所の匂いが脳裏をよぎる。

コーヒーの香り。

(……別に)

すぐに切り替える。

やるべきことは、

目の前にある。

ただ──

動きは、

いつもより少しだけ

鋭かった。



数日後。

光墨探偵事務所。

耀は、

また一人で資料をまとめていた。

(……もう、慣れた)

慣れた、

はずだった。

でも。

(……来ない)

理由を聞くほどでもない。

聞く資格もない。

ただ、

"いない"という事実だけが

そこにある。

「……」

耀は、

コーヒーメーカーの前で

一瞬だけ立ち止まり──

何も淹れずに、

席に戻った。


来ない時もあります

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