Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 08
「いいよ!」
イムノの要求に即座に応じたミーティスは、全身に1段階強い圧をかけ、ホバー移動を加速させる。
その背後、宙に浮かんでいた札群が、群飛するコウモリのごとくざわめき、前方へいっせいに放たれた。
それらは、ビル街の縁をなぞるほどに広く散開し、角度を変えながら滑空する。
そして次の瞬間、群れの先頭から順に高度を落とし、アスファルトの地表に限界ぎりぎりの距離まで迫った。
舗装面から数cmの空間を、札たちは風に翻弄されるビラのごとくさかんに縦揺れしながら滑走し、
車両や街灯、舗装の起伏をつぶさに回避していく。
そして、放置車両、ゴミ箱、ポスト、並木の生垣、コンビニの入った曲がり角のビル――
街のあらゆる構成要素を盾としながら、赤や青の光線を遠方へ放ち続けるドロイドの隊列へと、
一斉に突入していった。
――ドドドドドォォオオンッ!!!!
直後、狙いすました着弾点に火柱が続々と巻き上がっていく。
車の影に隠れていた敵兵が爆煙ごと吹き飛ばされ、札はさらに次弾を継いで、別角度から再突入――その1枚1枚がまこと生き物のように、最短距離で敵戦力を捕捉しては自爆した。
……そして札には、この激しい1群とは別に、まったく異なる役目を担うもう1群の存在がある。
彼らもまた、ひとたび宙に放たれれば速度を緩めることないが、ただしその動きは先の攻撃隊とは根本から異なっていた。
つまり、最初は攻撃部隊に紛れ込みながら飛翔していた札が、ある瞬間、鋭い転回とともに急降下したのだ。そして街の各所へ散開し、建物という建物の隙間をめざして滑り込む。
両開きドアの狭間、わずかな通気口や割れた窓、空いたマンホールの口元……。
ネズミが配管を伝うように、虫が壁の裏を這うように、その動きには、生き物の周到さと生々しさが宿り、都市の内部へと深く、ふかく、浸透していく。
札は、かすかに震えながら屋内の空中を滑り、壁や爆煙の向こうにある生命の気配に自然と吸い寄せられていく。
とある集団の先頭にある1枚は、火の粉の舞う瓦礫のあいだに、うずくまる老夫婦を認めた。
*
次の瞬間、護符の文様――紙の上で乾ききっていたはずの墨文字が、ふたたび滲み始める。
《わたしはミーティス。》
《いまからあなたを》
《あんぜんなばしょまでおおくりします》
《こわがらないで》
《まかせてください☺》
まさしく10代の女の子が書く、丸みのある柔らかな筆跡で、そういったつたない文言が、かわるがわる札面に浮かび上がっていった。
「……な、なんだいこりゃあ?」
老爺がかすれた声でつぶやく。不意に背後へと札の数10枚ががふわりと舞い降り、2人の周囲を円を描くように回り始めた。
「気持ち悪……でも……なんか……この感じ……」
老婆は身をすくめながらも、札から立ち上る霊気のぬくもりに、目を細めていた。
そのとき、札たちは意思を持つ生き物さながらに2人へと群がり、最初の1枚が勇気を出すようにぴたりと肌に貼りついた瞬間――ついで一斉に、残る札までが容赦なく全身へ殺到し、2人を頭の先から足の先まで強引に包み込んでいく。
わずかな抵抗の余地も許さず、肌も衣服もすべて紙の層で隠され、短い悲鳴すら閉じ込められてしまう。
「お、おい!ちょっと待って――」
地面を離れる間際、ミノムシも同然の存在にされてしまった男がかろうじて声を上げるが、それも一瞬でくぐもり、彼らの身体は塵と煙の帳の外へと滑るように運ばれていった。やがて安全な区域の歩道に、札ごとそっと降ろされる。
……こうした光景が、攻撃部隊の大規模な爆撃とまったく並行して――地上のいたるところにおいて同時多発的に展開されたのである。
呪符に全身を閉じ込められ、身動きも取れぬまま宙に浮かされた人々が、巨大な集荷センターのベルトコンベアに載せられた無数の荷物さながら、
途切れることなく、おどろくべき速度でこの砲火飛び交う通りを外れ、各所の曲がり角へとひとつひとつ滑り込んでいった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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