Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 04
「しかし、そこまでの情熱か? 女でミリオタってのも珍しい」
その発言からは、マツバラの疑念がまだわずかにくすぶっていたことが感じ取れる。
けれど、肝心なところで彼は結局それを深く掘り下げなかった。
彼女たちが結局のところ何者かという問いに、ほんの1歩だけ踏み込むことを避けたのだ。
「ええ。防衛省勤めで趣味がグラフィティなのと、おなじくらいには珍しいと思います」
おせちの皮肉まじりの返答に、マツバラはあからさまに舌打ちを返す。
「……ひとつだけ条件だ。週刊誌に売ったり、ネットで晒したり――絶対するな。
もしそんなことをしたら、その時は……俺のほうから“相互確証破壊”だ」
それが、彼なりの精一杯の防衛線であり、取引条件だったようだ。
……つまり、交渉は成立したのである。
*
戦後復興ののち、東京という街に交通量の少なかった日など、はたして1日でも存在しただろうか。
列島の中枢として、物と人と時間が最もせわしなく流れるこの都市。
アスファルトの轟きも、信号の点滅も、ビルの谷間を渡る風も、すべてが黙々と人間を急かし続ける。
そのなかを、マツバラは歩いていた。
まるでいくつもの夜を越えるような、途方もない気持ちで
横断歩道を渡り、交差点の雑踏を縫い、勤め先――防衛省の本庁舎へと向かって。
肩をすくめるわけでも、周囲を振り返るわけでもない。
しかし、わかっていた。
自分が、どこかから“見られている”ということを。
あの2人――あの小娘たちが、どこかでそっと監視の目を光らせているのだと、彼は理屈抜きで感じていた。
ビルの窓。背後を通り過ぎるバスの車窓。地下鉄の出口。
誰かがいてもおかしくない場所すべてが、不意に気配を宿してみえる。
実際に誰かがいたかは問題ではない。
マツバラにとって重要なのは、自分がもう、無辜の市民ではなくなったということだった。
*
マツバラの背中を遠巻きに追いながら、4人は一定の距離を保っていた。
群衆にまぎれ、ビルのガラスに映る影を確かめ、交通のながれに身をあずけながら、
あくまで目立たぬように、彼が防衛省の庁舎へ向かう道を“同伴”していた。
そこに、異変が唐突に訪れる。
「あれ、ちょっと……」
はちるが、雑踏の中、ふと立ち止まってしゃがみこんだのだ。
ニットセーターにサロペットという格好の彼女は、そのまま、自販機の下から小銭を掻きだす時の四つんばいの姿勢で、
獣のまるっこい耳を、舗装の上にへばりつくほど押し当てていった。道行く人々の目など意にも介さずに。
「下から……なんか来る!」
追って彼女がそう断言した瞬間、アシュリーの気だるげな眼差しが、反射的に変わった。
おせちもすぐさま小声でさなに指示を送り、わずかに距離を取る。
「ゆれてるゆれてる!」
さなの声には、物理的な震えと、心の動揺が重なっていた。
実際、足元から伝わってくる微細な振動は、交通や道路工事のそれらとは異なる
特有の性質をあらわにしつつある。
やがて、市民もその異常に気づき始めた。
「おっ……」
「地震……!?」
「でも、Jアラートなくね?」
そう口々にざわめき、誰もが動揺の正体を測りかねていた、そのとき――、
「来るかもッ!」
はちるが、まるで本能に突き動かされるように跳ね上がり、その場から飛び退いた。
続くように、アシュリー、おせち、さな――残る3人も即座に周囲との距離を取る。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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