Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 03
マツバラは黙りこくった。彼女たちの言動をひとつひとつ吟味するためだった。
「相互確証破壊」などという専門用語を、自分のような立場の人間に対して平然とちらつかせてくる。
そのふてぶてしさには虫唾が走る思いすらしたが、と同時に彼女たちの発言には、ある1点の、
素性にまつわる手がかりが見え隠れもしていた。
(……こいつらの正体は多分だが……「一般人」。逮捕拘留のリスクが交渉の材料として成り立つっていう考え方は、
そういうリスクは避けたいって当たり前に思ってるくらいの倫理感の持ち主から出てくるもんだ。
……そのあたりの話をしてた時の、コイツの口ぶりに何かを演じてる風はなかった!だったら、
殺しや暴力で口を封じてくるってことも……多分ない。テロや過激派みたいな連中でもないだろう。昔見たことのあるアイツらとは全然雰囲気が違う。
だったら……)
マツバラはこのような見当をつけていたのである。
しかし、まさにこうした推論の先にあるものこそが、おせちの望む彼の思考の着地点にほかならない。
おせちは、明示的なヒントこそ相手に何ひとつ与えなかったが、
それとは逆に、何気ない語り口や沈黙の間合いにこそ、
マツバラの思考を、ある方向へと自然に誘導する言語的な罠を多く織り込んでいたのだ。
人間という生き物には、みずからの力で導き出した答えを無垢な真実だと信じ込んでしまう、根深い愚かさがある。
その傾向が特に露呈するのは、相手との口論や、マインドゲームの最中で得た結論においてだ。
そうしたとき、人はそれを“相手が隠したがっている真実”だと、検証もせずに確信してしまう。
マツバラは、気づかぬうちに、彼女たちの正体を過小に評価し始めていた。
少なくともその時点では、少女たちを「覚悟の決まったテロリスト」のようには考えなかった。
もしも……もしも彼が、その仮面の奥に潜むものを見抜いていたならば、
彼女たちが、ただの反体制思想の持ち主でも、突発的な暴力犯でもない――ある意味でそれ以上におぞましく、度し難い存在、
すなわち「どのような法規を踏み越えてでも、みずからの手で戦争を止めようとする狂気の集団」であると見抜いていたなら。
そのときだけは、彼という人間に残されたひと握りの大義心が、
最後の警鐘として鳴り響いたかもしれなかった。
そうなっていれば、この交渉は、ここまであっさりとは進まなかったはずなのだ。
「……何のために?」
念のため、といった口調でマツバラは問うた。
「ミリオタの好奇心、と思ってくださって構いません――」
ここでの、目出し帽をしたおせちの語り口は、セオドア・ルーズベルトの言葉にある――“大きな棍棒を携えながら、穏やかに語る”――を地でゆくものだった。
いくら無害を装って声を柔らかくしてみても、結局のところそれは、相手の生殺与奪権を9割方握っているからこその鷹揚さなのだ。
「――たまたま、あなたという“セキュリティホール”が防衛省に存在することを知ってしまったので、
今回は、少しばかり踏み込んだワガママを言わせてもらいました。それ以上は何もお答えできません」
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