Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 02
「……なんだ、お前ら、なんなんだ!?」
マツバラは戸惑いながらも、声にまだ抵抗の色を滲ませる。
「単刀直入に言います。去る09月07日に発射された弾道ミサイルの、軌道観測データを見せていただきたいんですが」
「な……なんでそんなものが必要なんだ?というか……出せるわけがない。
そんなものを外に漏らしたら、俺は本当に終わりなんだぞ」
「今さら罪が1つ増えるくらい、どうってことないだろ?」
と、やや離れた位置からアシュリーが口を挟む。おせちと同じく、覆面をかけた彼女の声には、はやし立てるような明るさがあった。
「もしかして取引のつもりか?だとしても罪の重さが違う。わかってるだろお前たちも」
「はい、その通りです」
おせちは頷きながら、淡々と続けた。
「でもこれは、その“無理”を呑んでもらうための交渉なんです。
誤解がないように、こちらの方針をはっきりさせておきますね。
データさえ渡していただければ、あなたのやっていることは、私たち2人の胸の内に留めておきます。
別に正義感を満たすためにやっているわけことではありませんから。本当に、ただの交渉です」
「……つまり、“司法取引”か」
マツバラは絞るような声でつぶやき、
1拍置いてから、じつにありふれた手口を持ち出す。
「――家族がいるんだ。なぁ、俺にも……」
つまりそれは、少しばかり切り出すのが早く思われる「泣き落とし」の札だ。
しかしもちろんおせちは、こんな程度でほだされる安っぽい人情などこの場には持ち合わせてきておらず、
「安心してください。あなたがすでに離婚しているのも知っています。
そして、養育費をきちんと払い続けているのも。それは……偉いですよね?――」
と、逃げ道をにべもなく断った。
「――でもね、ひとつ聞いてください“イマムラ”さん。
データを渡すのは、むしろあなたにとって都合がいいことなんですよ?」
……“イマムラ”というのは、この男、マツバラの旧姓である。
こうしたさりげない一言からも、おせちは、彼の個人情報を自分たちがどれだけ正確に把握しているか
抜かりなく印象づけていく。
「はぁ?……てか、旧姓まで掘ったのかよ」
これは、話す側の想定したよりずっと効果のある指摘だったらしく、いつの間にか座り込んでいたマツバラはあからさまに臆した。
「もちろんです。あの……ひとついいですか?防衛省の方ならその~、“相互確証破壊”って言葉は、ご存知ですよね?――」
おせちは続ける。声は静かだが、その音色は徐々に凄味を増していく。
「――もし私たちにそのデータをお渡しいただけるなら、仮に将来、あなたのキャリアに何かの不利益が生じた場合、その報復措置として、私たちを『特定秘密の不正取得』あるいは『漏洩教唆』の容疑で通報することができるようになります。
国家機密の漏洩ともなれば、単に『今日ここで脅された』なんて曖昧な証言をするよりも、
警察だって、もっと本腰を入れて捜査してくれるわけでしょう?
つまり、あなたが首を縦に振ることは、むしろ、
自分の身を守るための新たな交渉カードを手に入れるということになるんです。
反対に、今この場でデータの受け渡しを拒まれた場合はどうでしょう?
その瞬間から、あなたは私たちに一方的に弱みを握られたままになります。
私たちだけが選択肢を持ち、あなたは一生の間その心配に翻弄され続けることになります。
……お分かりいただけますかね、この論理?」
……それは、対等な立場での交渉ではない。
すでに追い詰められた者を相手に、出口をひとつだけ提示してやる詐術の一環だった。
だが、それでもおせちの言葉は、的確に相手の論理と恐怖心を突く、よく練られた理屈だった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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