Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 04 01
CHAPTER 4
あくる日、09月29日。
陽射しの角度がわずかに変わったこの日は、街の輪郭までもがそれに合わせていくらか静かに息を潜めていた。
「東京特別市」と「関東州埼玉」の文字が、矢印を向かい合わせに並べた1枚の青看板に刻まれ、
昼の光の中で淡く浮かび上がるように輝いている。
看板の背後では、道路がゆるやかな弧を描いて奥のビル街へと延び、遠くの音をかすませながら車の列がそこを流動している。
中央分離帯にはやや雑草が目立ち、舗装のつなぎ目には細かな影が落ちて、アスファルトの路面は初秋の熱気を孕んで白く乾いていた。
渋滞には至らぬまでも車列は途切れることなく、人影のまばらな歩道が、かえって静寂の濃度を際立たせている。
*
そういった場所からほど近い、コンクリート造りの河川敷。
そこの橋下のトンネルには、ラッカースプレーをひたすらに振るう男がいた。
我々も1度目にしたことがある、ストリートファッションに身を包んだ、あの男だ。
スプレーのカラカラという音が、暗がりの中に澄んだ残響となって広がっている。
道は、両側からわずかな光が差し込むものの、この空間を作業の場とするのに
十分な明かりを提供できていたのは、床に置かれた小型のバッテリー、
それとケーブルで繋がれた1灯のワークライトだけだった。
男は、スプレーの放つ音の「かたむき」――それそのものを指針として、
己の“作品”へと刻々と線を加えている。色も形も、瞬く間に姿を変えてゆくその壁面に、
彼は焦がれるような眼差しを向けながら、一向に手を止めずにいた。
――そこに、横合いから閃いたのはカメラのフラッシュだ。
1度目で男の体が硬直し、2度目の閃光には慌てて顔を手で覆った。
突発的な状況に悪意の所在を直感した彼は、スプレー缶を放り出してしゃにむに走り出す。
だが、暗がりにあらかじめ仕掛けられていたさなの呪符が足首をとらえ、
「……うっ!!」
派手に、腕を投げ出すような形で転倒してしまった。
うつぶせになった彼の視界に、ひとりの人物の影がちょうどよく差し込んでいく。
そこにいたのはおせち――ただし、その素顔は誰にもわからない。
目出し帽をし、その上からフードまで深く被る。そうした、人相を消し去るための格好をしていたからだ。
そして、撮影者を務めたアシュリーもまた、同様の姿をしていた。
薄暗いトンネルの中、アシュリーの持つカメラのレンズがじっと男をとらえたままでいる。
「突然すみません――」
おせちは1歩、彼に近づいた。
「――いきなりなんですが、司法取引に興味はありませんか?」
……そして彼女は、このように続ける。
「ここ、私有地じゃありませんよね?――」
その声音は驚くほど落ち着いていて、まるで水が流れるように、言葉は次に移っていく。
「――マツバラショウゴさん。……防衛省にお勤めの方ですよね?あなたのSNS記録、すべてバックアップ済みです。
情報漏洩に該当する発言も抑えていますし、省の端末で株取引や違法なオンラインカジノをしていた履歴もあります。それにこのグラフィティ、常習性が明らかなら器物損壊罪で十分に立件可能です」
彼の罪状を、おせちは淡々と読み上げていった。声に抑揚はなかったが、それがかえって重く響いた。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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