Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 03 11
「まずい!」
おせちもあわてて部屋の窓を乗り越える。
寺の横庭から見上げた空には、ジェットの轟音を残して垂直に駆けのぼる人型の火光がある。
空は、このとき明らかな2層に色分けされていた。
山々の稜線に接した低空には、わずかに緑みを帯びた初夜の層がたゆたっており、
その上方では、藍色にけぶった星々が、深い沈黙のもとでかすかに瞬いている。
天蓋は隅々まで洗い清められたかのように遠く澄みわたり、そこには、1筋の雲の存在すら許されていなかった。
一方、地平線の向こうでは、白走のビル群が、かすかにその輪郭を滲ませながら静かに浮かび、
高速道路には、自動車のライトが絶え間なく曲がりくねって走っている。
街の灯はひとつ、またひとつと控えめに明滅し、人々の営みの残り香は、そんな夜気の底に、まるで呼吸するように漂っていた。
これらの風景は、それ単独では、どこか他人事のような距離を保っている。
だが、そこへアシュリーの燃え盛る姿が、空を裂いて飛び込んでくると、
その閃きが、都市と星空のあいだを貫いて風景をひとつに結ぶのだ。
すると、それまでは単なる不動の背景でしかなかったパノラマは、
天頂へと昇り詰めていく彼女のうごきにしたがって、まるで長時間露光で撮影される写真であるかのように、光と影の1筋ずつを、一斉に下方へずり落ちさせていくのだった。
「ロケットマンがスターマンにキスしたら?……エルトンもボウイも、あの世でハイタッチだよな!」
アシュリーの発火には、全身を磁気閉じ込めの力場と化すことで達成される霊的な核融合――
そういった、科学と魔術の交点に立った原理がある。
魔力のかぎりその飛距離には限界がなく、放っておけば、もちろん宇宙にも達するだろう。
「消火器取った!」
壁がなければ、そのまま前に転びかねない勢いで窓から身を乗り出したさなが叫び、
消火器を差し出す。はちるがそれをバケツリレーのようにして受け取り、即座に振り返った。
「おせち、お願い!」
叫びとともに、彼女はそれを全力で空へと放り投げる。
その段取りのよさというと、どうやら、こういった事態は過去にも1度や2度ではなかったらしい。
やたらに直情的な性格と、そしてその性格を常人に万倍するスケールで物理的に表現してしまえる存在を、身内として抱える者たちの苦労が、その無駄のない連携からは否応なく偲ばれる。
はちるが投げ放った消火器は、アシュリーが欲すがままにしていた夜空の支配圏をたちまち脅かし、
さらに激しく上昇して、彼女とほぼ同じ高度にまで達した。
「うん!」
その瞬間を逃さず、おせちは膝をつき、ガンブレードを迷いなく真上へと構える。
照準が定まれば、引き金は至極冷静に弾かれた。
マズルフラッシュとともにこの世に生まれ落ちた1発の弾丸が、この世界でもっとも空を速く駆ける光の種子となって、
赤塗りの鉄筒――すなわち、宙を行く消火器の腰から胸にかけてを鮮やかに貫いていったのである。
ホットショットが、自分を猛追する異物の存在に気が付いた瞬間、
「――ヴェッ!!」
消火器は、潰れた声で悲鳴を上げる彼女の、腰の高さで、白く乾いた爆発を起こし、
夜空には、ふたつの航跡がはっきりと枝分かれしていくさまが描きだされた。
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