Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 03 09
そのやり取りからしばらくして、はちるの部屋には、静かに冷気が巡っていた。
低めの温度に設定されたクーラーが、床近くの空気をゆっくりと掃き流している。
ベッドに腰かけていたおせちは、その流れの変化に気づき、視線をそちらへ向けた。
さなが外から戻ってきたのだ。両手は小さな木盆を抱え、その上には全員分の飲み物が整然と並んでいた。
……4人は、まずネットで情報を集めることにしたが、最初のうち、作業に進展はなかった。
おせちは、フラスコの中の液体を見極める化学者のように片目をつぶりながら、スマートフォンを片手に掲げ、ひたすら画面をスワイプし続けている。
だが、気づけばアシュリーはもうゲームを起動しており、胡坐を組み、うつむいた姿で指先だけを軽快に動かしている。
その画面をのぞいたさなが、「あ、それCOOP対応だよね!」と言い出せば、次の瞬間には『オーバーツーリズム』という、風光明媚な離島に押し寄せる観光客の要求を的確に満たしていくという主旨の4人協力型ゲームが全員の端末で立ち上がっていた。
気がつけば、おせちとさなはベッドにうつぶせで並び、足を互い違いにぱたぱたと揺らしている。
操作ミスに思わず声を上げるさなと、それに巻き込まれて笑うおせちの姿は、もはや戦略会議というより部活帰りの放課後そのものだった。
そのうち、はちるがどこからか運んできたうどん鍋がちゃぶ台の上に置かれ、
立ちのぼる湯気とともに部屋の空気はさらに緩みはじめる。
食べ始めの頃には、誰ともなくテレビをつけ、大きな音量のバラエティ番組が流れ出している。
食後、4人はその音を浴びるように聞きながら、何をするでもなくベッドや畳に身を投げ出していた。
それから15分後――帰宅時の熱意は、すでに取り返しのつかない遠いものとなりかけていたが、
ようやく作業が再開された。
……とはいえ、進捗は依然として芳しくない。
おせちなどはついに、ViewTubeのおすすめ欄に出てきた
「ミサイルの妹です、すべてをお話しします」というタイトルの、見るからに胡散臭い便乗動画にまで手を伸ばしかけていた。
そういった折、
「これ見て!」
さなが、自分のスマホの外枠を両指でつまみ、胸元で翻してみせる。画面では、09月07日、ミサイルの本土着弾直後に行われた大統領の記者会見が再生されていた。
『……飛翔体につきまして、防衛省は、排他的経済水域への着弾を想定しておりました。これは実際の結果と異なるものであり――』
「あっ」
おせちが、ひと呼吸遅れて何かに気づいたように声を上げる。
「どしたの?」
パソコンに向かっていたはちるまでもが、女の子座りを解いて身を乗り出してくる。
「これ? どういうことだ?」
畳の上へと無造作に投げ出したスマホで、プレミアリーグのハイライト集を流しながらの
腕立て伏せに熱中しているアシュリーが、顔だけをそちらに向ける。
「防衛省は、ミサイルの落下を“観測してた”ってこと。考えてみれば当たり前だけど……そのデータを見れば、何が起こったかわかるかも、だよね?」
「うん!」
さなが頷き、顔を輝かせる。
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