issue#04 I I I Tales from Topographic Oceans CHAPTER 01 06
蛇蝎山の地下に存在するテラー・スクワッドの研究施設は、いま、焦燥と不満の空気で
むせかえっていた。
マクロブランクが彼らにもたらした超技術、新型マルチバーサル・ゲートの設計――
その実務作業が、絶望的なまでに遅滞していたからだ。
……2話において取り上げたトポロジカル・コンコード(トポコン)式のマルチバーサル・ゲートは、
次元結合術における古典的かつ第1段階の技術と見なされている。この方式は異世界から漂着した「エキゾチック物質」を物理的なアンカーとして利用するがゆえに、その入手性に依存し、接続先も物質の故郷、あるいはその「近傍」という不確定さをともなう受動的な手法にすぎなかった。
これに対し、より高次の次元結合術として位置づけられるのが――
「……『クォンタム・フレーム・シンセシス(Quantum Frame Synthesis:量子的時空構造合成)』、通称QFS式と呼ばれるマルチバーサル・ゲートでちゅ。
この技術は、トポコン式とはその根本原理を異にしていまちゅ。
QFS式の最大の特徴――それは物理的なアンカーに一切依存しない点にありまちゅな。代わりに、目標とする宇宙を構成する、根源的な“情報”そのものを座標として利用するのでちゅ。
具体的には、光速、プランク定数、重力定数といった基本物理定数から、時空の曲率、さらには宇宙創成時の量子ゆらぎのパターンに至るまで、その宇宙を唯一無二たらしめる全てのパラメータが、接続先を指定するための“住所”となるのでちゅ!――」
「――その起動は、ひとつひとつのプロセスを着実に踏まえながら行われていきまちゅ。
まず、術者が目標宇宙の物理パラメータ群、すなわち『宇宙の設計図』をゲートに内蔵されたコンピュータに入力いたしまちゅ。
するとゲートは入力された設計図に基づき、目標宇宙の時空構造を極小規模にシミュレートし、その量子
波動関数をゲート内部に完璧に再現しまちゅ――」
「――次に、再現された仮想時空と、多次元宇宙に実在する目標宇宙との間に、
高次元的な量子もつれによる架け橋を強制的に作ってしまいまちゅ。
この時、宇宙全体に遍在する真空エネルギーそのものを励起し、
触媒として利用するワケでちゅ。もつれによる量子的なリンクが確立・安定した瞬間、
その繋がりは巨視的なスケールへと一
気に拡大され、安定したワームホールとして現実空間に展開されまちゅ――」
「――この方式は、次元航海に革命をもたらちまちた!
もはや不確定な物質アンカーなんて要りまちぇん。既知の宇宙へピンポイントで接続できるだけでなく、
このマルチバースに存在する“主流型”の次元――つまり、『量子的に成り立っている』すべての宇宙、
次元分類学でいうところの『α(アルファ)型次元』なら、設計図の描き方ひとつで、どこへでも能動的に航海できるようになったんでちゅ!――」
「――しかぁし!その絶大な能力は、致命的なリスクと表裏一体となってもいまちゅ!もし術者が入力した宇宙の設計図が、マシンの性能上の感知限界を逸脱したパターンだった場合――ゲートはシミュレーションの段階で暴走し、仮想時空は瞬く間に崩壊。
結果、『シンギュラリティ・メルトダウン』と呼ばれる小規模なビッグバンを誘発してしまうのでちゅ!
これは単なる装置の爆発ではありまちぇん。そのエネルギーの暴走は、ゲートが存在する宇宙の時空連続体そのものを永久に汚染・破壊し得る、まさしく“宇宙的自壊”とも呼ぶべき大災厄となるのでちゅ――!」
「うぅんっ!――」
マクロブランクが大げさに咳払いをし、
ホログラフィック・スクリーンに映る数式群を軽くひと撫でして消した。場の空気がひと息で整う。
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