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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#03 I I I I Dreamed A Dream

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issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 38

光が収まった時、そこは虚空の源泉でも崩壊の玉座でもなかった。

ただの薄暗い散らかった私室。壁には、陰謀論をまとめた無数の紙が貼られ、

床には、読みかけのオカルト雑誌が散乱している。その中心で、はちるが、深く安堵の息を吐いた。


気が付けばすべては、この小さな部屋の中で起こった出来事だったのだ。

宇宙的な闘争も、世界の再編も、すべては2人の少女の魂の中で完結した、一瞬の永遠。


カンノアキノは、呆然と自分の手を見つめる。

いまやその指先に、世界を捻じ曲げる力は宿っていない。隣には、同じように、

元の慎ましやかな「超人」に戻ったはちるが、大きな背伸びをしていた。


アキノは、何かの直感に引かれるようにゆっくりと立ち上がる。

そして、何年もの間、手ずから閉ざしていた部屋のドアを、おそるおそる開いた。


1階に降りると、廊下には、夕日に照らされて、買い物帰りの母親が立っていた。

その手には、身に不釣り合いなほど膨らんだ、スーパーの袋が提げられている。


「――!」


娘が、自分の意志で部屋から出てきた。その、信じられない光景に、ユキは目を見開いたまま硬直し、やがて、その手から買い物袋が、がさりと音を立てて滑り落ちた。


床に、ジャガイモと、タマネギが転がる。


次の瞬間、アキノは、子供のように声を上げて泣きながら母の胸に飛び込んでいた。


「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


「アキノ……ああ、アキノ……!ごめん、こっちこそ本当に今までごめんなぁ……!」


ユキは、痩せた腕で、何年も触れることのできなかった娘の身体を、壊れ物を抱くように、

しかし力強く抱きしめた。2人の間を隔てていた、長くて暗い時間が、涙と共に溶けていく。


「私ね、あのっ……!友達に助けてもらったの!だから、やり直すから、今度こそ、絶対頑張るから……!」

アキノは、母親の胸に顔を埋めたまま、しゃくりあげて叫んだ。

「だから……あと20年だけっ、私のこと、見守っててくれないかな!?」


それは、あまりに自己中心的で、子供じみた願いだった。だが、その言葉に応えるように、

アキノの身体から、最後の力が、淡い光となって溢れ出した。現実改変能力の、最後の残り火。


母は、娘を抱きしめたまま、ただ優しく、そして力強く頷いた。

「……そんなの――こっちが言わんといかんことよ!20年でも、30年でも、これからはもう、ずぅっと、一緒よ……!」


その言葉が、引き金だった。


桃色とも白ともつかぬ、温かい光が、2人を中心に広がっていく。

それは、世界を捻じ曲げるための、傲慢な力ではない。

たったひとつの、歪んでしまった歯車を、そっと正しい場所に戻すための、

優しく、そして切実な祈りの光だった。


光は家を包み、街を包み、そして世界全体へと染み渡っていく。


宇宙は、すべて元のあるべき姿に戻るだろう。しかし「クマ人間」のように、

すでに成り立ってしまった「いのち」とそれを取り巻く状況に関しては、

元は彼女の妄想とはいえど、そのままの形で据え置かれもする。


そしてごく近しい者たち――吉濱家やシノの一家だけが、カンノ家に関するすべての記憶を引き継いだ。それ以外の人々にとって、この孤独な親子は、最初から「17歳の女子高生・カンノアキノ」と、

「その成長を、時に厳しく、時に優しく見守る働き盛りの母親・ユキ」として、新しい世界に、

何ひとつ違和感なく組み込まれたのである。


……世界は、何も変わらなかった。だが、たったひとつの家族の宇宙は、たしかに救われた。

それは、誰にも知られることのない、ささやかで、しかし何よりも壮大な、奇跡の物語だった。



高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


https://x.com/piku2dgod


本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256

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