issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 33
アキノの、か細い承諾の言葉が引き金だった。2人が触れ合った手を中心に、眩いばかりの光が、声もなく、渦を巻いて溢れ出す。それは絶対に物質的な光景ではなかった。
意識のもっとも深い場所で、2人の魂が、互いの宇宙を解き明かし、融解し合っていく、
観念の風景だった。
はちるの心に、アキノの孤独が、20年という途方もない時間を伴って流れ込む。
誰にも理解されず、部屋の隅で、ただ1人世界の“真実”を探し続けた、果てしない時間。
モニターの光だけが友達だった、凍えるような夜の記憶。
アキノの心に、はちるの記憶が、やわらかい繊維となって流れ込む。
仲間たちと交わす、他愛もない会話。くだらないことで笑い合った、陽だまりの暖かさ。
そして、自らが“人間”になった時の、あの根源的な喪失感と、それでも、何ひと
つ変わらなかった姉妹たちの絆。
――ああ、そうか。世界は、嘘でできてなどいなかった。
ただ、そこにある、温かいものや、冷たいものに、ただもっと純粋に触れるだけでよかったんだ。
ふたつの対極的な力は、互いを永遠に打ち消し合い、そして、ひとつの答えへと昇華されていく。
それは、「世界は、すでに完全な姿でそこに在る」という、
あまりにもシンプルで、月並みな真理だった。
*
その光の中で、おせち、アシュリー、さなの3人の脳裏にも、ひとつの光景が、共有された記憶として流れ込んでいく。
それは、アキノの、まだ幼い頃の記憶だ。
――夜。自分の部屋の窓から、少女は、息を殺して外を見ていた。
月明かりが、道路の隅に立つ、1つの影をぼんやりと浮かび上がらせている。
おそらくは道に迷ったか、あるいは、ただ夜風にあたっていただけの、
体格のいい、見知らぬ大人。
しかし、暗闇への恐怖と、生まれ持った過敏な感受性は、そのありふれた人影を、
何か得体の知れない「人ならざる者」――“クマ人間”として、彼女の脳裏に焼き付けた。
「――そんなん、いないって」
翌朝。食卓で、少女は必死に、昨夜の恐怖を母に訴えた。だが母は、スマホから目を離すこともなく、子供の空想として、その決死の訴えを一笑に付した。
昼休み。母に信じてもらえなかった少女は、最後の望みをかけて、校庭の隅で、
数人の友達に震える声で打ち明けた。
「……きのうの夜、クマ人間、見たの」
だが、返ってきたのは、無邪気な嘲笑だけだった。
「えー、クマ人間?アキノちゃん、また変なこと言ってる!」
「こわーい!食べられちゃうかもー!」
友達は、面白半分にそう言ってはやし立てると、すぐに別の遊びに駆け出していく。
たった1人、賑やかな校庭の中心に取り残された少女の、握りしめた拳が、小さく震えていた。
この世で最も信頼する母からの拒絶。そして、勇気を振り絞った告白を、
からかいの対象としてしか見ない友人たち。その無念こそが、彼女の心を、深く、音もなく、
しかし
決定的に歪ませたのだ。
瞬間、少女の世界で、何かがぷつりと切れた。
本当に怖かったのは、夜の闇に立つ影ではなかった。気が置けない人々に、
自らの「真実」を、いとも容易く否定された、その絶望的な孤独感。
……彼女の内に眠っていた現実改変能力が、初めて産声を上げた。
彼女が、たった1人、意固地になって「そう信じた」ことで、世界には、本当に「クマ人間」という概念が綻びのようにして生まれた。ハヤカワの人生を狂わせた、あの理不尽な規制。その一切の始まりは、身内の少女の、純粋な誤解と、誰にも理解されなかった悲痛な叫びだった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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