issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 32
だが、その指先が、スヌープキャットに触れることはなかった。
ミス・パラレルワールドの無意識が、最後の防衛機構として作動する。
スヌープキャットを突き飛ばそうとする、その焦燥に駆られた動きの最中、
何の予兆もなく、瞬時にして2人の間に空間が歪み、永い隔たりが生まれたのだ。
再構築された世界で、ミス・パラレルワールドは、半透明の光のフレームで組まれた、
巨大なピラミッドの頂上――その玉座に、縋りつくような姿で現れた。
スヌープキャットは、虚無すら揺らぎ始めたこの世界を、ただまっすぐに、彼女の元へと歩いていく。
「来ないで!」
自らが作り出した混沌の中心で、ミス・パラレルワールドが絶叫する。
その恐怖が、世界の法則を喰い破った。
地が裂け、世界の法則が悲鳴を上げた。現実の傷口から、逆しまの黒いピラミッドが冒涜的な墓標のようにせり上がってくる。
虚空の空は、その純粋な闇さえ失って色褪せた紙幣のようになり、その向こうから、
インクで描かれたプロビデンスの目が、太陽に成り代わって世界を冷たく見下ろした。
時そのものが、壊れたフィルムのように逆回転を始め、太古の恐竜が、
忘却の彼方から咆哮と共に灼熱の火を噴く。
忘れ去られた神話、否定された仮説に証明式、子供の悪夢――あらゆる「あり得ない現実」が、
今や、カンノアキノの歪んだ信念によって、意志を持つ奔流と化していた。
それは、生成と消滅の終わりのない循環、その理自体を凶器と化した究極の攻撃。
想像力のるつぼからあふれ出したあらゆる種類の“かたち”が、
救済者を名乗る少女――スヌープキャットという、この狂った世界における唯一の「矛盾」を滅し得る「正解」となるべく、
何度も、何度も、何度も、宇宙を無限に開闢し、無限に破却する決意でもって彼女に殺到し続ける。
繰り広げられる光景はつねに、ひとりの少女が思い描く悲壮な意図と、示唆と、傑作の的確な色彩に満ちあふれていながら、その実この戦いに形而下の要素はなにひとつなく、
すべては、概念と概念による、互いの消滅を賭けた闘争だった。
それでも、スヌープキャットは平然と歩いた。
彼女が1歩、また1歩と歩む間、その全身からは、純白のオーラが立ちのぼり続ける。
その聖なる波紋に触れたものは、破壊されるのではない。否定されるのでもない。
逆さまのピラミッドは、砂の1粒にさえ還ることなく、ただ、その存在が「無かった」ことになる。
恐竜の咆哮は、声になる前に、永久の闃寂へと還る。
それはひとつの絶対的な力が、本質を歪められ、はてには呼吸の仕方さえ忘れた万象を、
あるがままの「虚無」へと、ただ優しく収束させていく、そんな、神の調停そのものだった。
ついにスヌープキャットは、玉座にもたれるアキノの目の前に立った。
しかし、その瞳には怒りも憐れみもなかった。ただ鏡のように、目の前の、
涙に濡れて震える少女の姿を、ありのままに映しているだけだった。
アキノは、その瞳の中に、生まれて初めてただの「自分」を見た。
スヌープキャットは、呆然とする彼女の、冷たく震える手を、気取らない仕草でそっと両手で包み込んだ。
そして、まるで大事な言葉を口にする前に、心を決める子供のように、無邪気に、大きく息を吸う。
「……ともだち!」
歪んだ世界の中心で、その、あまりに場違いで、あまりに純粋な単語が唐突に響いた。
アキノの肩が、びくりと震える。
「――として!ウチらに頼んでみて。今から」
「なにを?」
アキノの声は、かろうじて音になった、ささやきだった。
「『助けて』って――」
スヌープキャットは、ただ、優しく微笑んだ。その微笑みが、
20年分の孤独な感情を、跡形もなく溶かしていく。
長い、ながい沈黙。やがてアキノの唇から、ほとんど空気のような、か細い声が漏れた。
「……うん」
「――たすけて」
涙を流したアキノは、まるで引力に引かれるように、その指に、指を震えながら絡ませた。
――その瞬間。ふたつの宇宙が衝突した。
高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。
https://x.com/piku2dgod
本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256




