Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 02 06
「忘れただと!?……それと、この条件分岐、if (target = 0)だと?この作業に数日もかかりきりで、なお等価演算子が理解できんのか!」
「ああ――いやぁ……本当にすみませんです。次はちゃんとやりますから!だから減給だけはどうかナシでおねがいしますよ……」
弥縫策ももうこれ以上は施しようがないと悟ったか、ハヴォックは、一転して媚びへつらうように両手を揉み始めた。言うまでもなくその仕草は、犬が主人に腹を見せるのとまったく同じことを意味している。
「調子のいいことを言いよって!もうよいわ、この失敗は吾輩が直々に正す!
1字の修正あたり10円を引くからな!」
「ひいぃ~ッッ!!!」
と断言されれば、大の男たちは、抱き合って震え上がるしかなかった。
*
ディスプレイともう1度相対したシャカゾンビが、己の指をキーボードに差し伸べると、
画面に映る無数の行が、彼の視線に追われるようにして次々とスクロールされていく。
「……先に言っておくが、飲み物ひとつでも取りに行く素振りを見せようものなら、その瞬間クビにするからな!そこに突っ立って、己の無能を噛み締めていろ」
シャカゾンビの声は、四方から染み入る暴風の音をも圧する力で制御室の空気を震わせたが、
甲冑をまとった指が本格的に動き出すと、黒い鍵盤の上で打ち鳴らされる音が、次第に硬質なリズムを刻みはじめ、その連続性が、まるでこの場全体の呼吸であるかのように、絶え間なく室内に反響し続けた。
シャカゾンビの入力は、まるで機械が直にコードを打ち込むかのごとく正確で、よどみなく、
コードの連なりがモニターを埋め尽くしていくそのさまは、あたかも雫の落とされた水面に、
波紋が瞬く間に広がっていくように連綿としている。
「杜撰と怠惰のチリが積もって出来た山、デジタル化された自動車のスクラップヤードのようなコードだな。まったく……これでは最初から仕事をするのとなにも変わらんわ!」
と2500歳のチーフエンジニアが思わずボヤけば、
「へっへ!いやぁ、ボスったら本当にひとりでなんでも出来るんだからたまらねえや!」
プロディジーがおべっかを使い出し、
「あっ、”ここ”こうすりゃよかったのか!なるほどなぁ!」
ハヴォックは、向学心をようやく目覚めさせて、照れ隠しに頭をかきはじめる。
するとその途端――
「なァ~にを笑っておるかぁっ!吾輩の仕事ぶりを大人しく見とれい!
次、けしておなじ轍を踏まんようにな」
部下の態度に見え隠れする、場を笑い話で締めくくろうとする浅ましい根性を、
シャカゾンビは叱咤によって容赦なく押さえ込む。
「あっ、はぁい……」
特大の身体をそろえてすぼめた獣人たちは、いよいよもって肩を落とした。
「……でもボス、結局この基地で俺たち何するんです?」
それから何拍かの間をおいて、プロディジーが尋ねる。
「あぁ――」
シャカゾンビは、うがいをするような声でまずはその問いかけに反応すると、
「たしかに、そろそろ作戦の全容を教えてやるべき時期か。機密保持の観点からこれまでお前たちには『中国語の部屋』の状態で作業をさせておったが、もう後には『実行』のフェーズしか残ってはおらんわけだから」
「『中国語の部屋』って?」
ハヴォックは、この世界に新たな謎を見い出した5歳児と同じ顔をした。
「フン!……それは後で自分で調べろ。まあ、とにかく見ておるがよいわ、
これまで欺瞞の上に欺瞞を塗り重ねることでのみサピエンス社会が保ち続けてきたかりそめの平和と均衡を、吾輩が徹底的に暴きだし、粉砕するところをな!
”提出物”の点数を考慮せんとしたら、この仕事の半分はお前たちの成果でもある。まあ、そこだけは
遠慮なく誇るがいい!」
シャカゾンビが骨の顔でやれる限りの悪い笑みを作ると、
ほめ言葉の理解についてはすこぶる早いプロディジーとハヴォックは、ふたりして顔を見合わせ、
「……なるほど!いいことあるってコトか!」
「てことは、宝くじが毎日当たるよりやばい話ってわけですね!?」
と、気分を上々にして口々に問うた。
「ある意味ではその通り、その通りだ、プロディジー、ハヴォック!ヒィーヒヒヒヒ!!」
自分自身、昂揚をおさえきれなくなり出したシャカゾンビは、声の調子を青天井に上げながら、
キーボードを叩く手を加速させる。
「……もう7、80年間も挑発ばかりで、それ以上はどんな踏み込んだアプローチも
敵国に対し仕掛けようもしない、かの弱腰の国に、吾輩が仕えたウルジクスタンの首脳ほどの
気骨を与えてやるということだ――ただし無理やりな!……よし間に合った!軍部からのリークでは、もう5分もないはずだ」
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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