issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 31
……宇宙の終焉が始まった。カンノアキノの自己否定が、宇宙の恒常性をあまねく凌駕したのだ。
窓の外、空が巨大な ステンドグラスのように、無音で砕け散る。
その瑠璃色の破片は、落下することなく、意味を失ったカラフルなボクセルとなって崩れ、
虚空へとばらけていった。
大地は粘土のようにねじれ、街行く人々の輪郭は、宇宙の基底を成す記号へと還元され、
その記号は蚊柱のように乱れ散り、やがて、ただの背景へと塗り潰されていく。
*
――崩壊した時空の中心。
アキノの自室だけが、奇跡のようにその隅々までを保存されたまま、
内部が透けて見える直方体として孤独に漂っている。ガラクタと、
虚構の情報の瓦礫でできたその狭い空間で、アキノは、それさえもてあますかのように、
こじんまりと身を縮めていた。彼女は、みずからが望んだ「無」の世界の、孤独な女王だった。
だが、その黒1色の調和は、唐突に引き裂かれた。
空間そのものに、1条の光が、斜めから流星よりも激しく降り注ぐ。
その炸裂の余韻から、この黒1色の世界にあるはずのない、生命力に満ちた輪郭が溢れ、
1歩前へとその姿を押し出した。
アキノと同じく、己の内に宇宙を宿す少女――進化の極みに達したスヌープキャット。
彼女が虚無へと足を踏み出すたび、その爪先を起点にして「正常な現実」が、
まるで1輪の鮮やかな花がほころぶように波紋となって広がっていく。
青々とした草木の息吹、温かな土の感触、陽だまりの光。それらが歩みのリズムに合わせて足元で次々と美しく開いては、彼女が通り過ぎる端から再び元の黒い虚無へと解け、幻のように儚く消え去っていくのだ。
スヌープキャットは、斜め後ろに手をかざした。すると、その1点に口を開けていく光は、
安定した円形の道となり、そこを通って、残る3人が、この暗黒の世界に唯一の色彩と秩序を放つ存在として立った。
「……何しに来たの」
彼女の瞳は、目の前に立つ4人の少女たちを映してはいるが、その焦点は、
はるか遠くの虚無を見つめている。
「もう、どうでもいいでしょ。全部嘘だったんだから。私が信じてた世界は、私が作り出した、
ただのデタラメだった」
彼女は、自嘲するようにか細い声で続ける。その指先は、力なく膝の上で組まれていた。
「――私は、もうしばらくしたら消えるから。そんな力があるんなら、世界はそっちで勝手に直して」
その、あまりに突き放した言葉に、ホットショットの眉がぴくりと動く。
だが、彼女が何かを言う前に、スヌープキャットが、
す、
と前に出た。
彼女は、宇宙そのものの絶望にくれた少女の真隣へと、音も立てぬまま、
彼女とまったく同じような膝を抱える姿勢で座り込んだ。それは非難でも同情でもない。
ただ、同じ孤独の地平に立つ、という、無言の意思表示だった。
「うん。嘘だったのかもしれないね」
スヌープキャットは、目の前に広がる混沌の虚無を見つめながら、静かに言った。
そして、ゆっくりとミス・パラレルワールドの方へ向き直る。
「でも。あなたが、ずっと独りで、寒くて、怖かったのは、ほんとのことなんでしょ?」
その言葉が、彼女の心の、最後の壁をじわりと溶かした。
「……っ!」
完璧な無表情を保っていたその瞳から、耐えきれなくなった涙が、1筋、こぼれ落ちる。
それは、20年分の孤独が凝縮された、あまりに重い雫だった。
「そうよ……!怖かった……!ずっと、怖かった!
だから、誰かに、信じてほしかったのに……!でも、でも、本当は私が悪かった……!」
彼女は、子供のように顔を歪め、叫んだ。
「私が、勝手な思い込みで世界をデタラメにしてた……!真実がっ!そういうことだったなら、
どうしようもないじゃない……!」
ミス・パラレルワールドの嗚咽は、やがて、狂乱の叫びへと変わった。
「……来ないで!」
彼女は、その壊れかけた心で、唯一の理解者となったはずの少女を、激しく拒絶する。
その細い腕を振り上げ、スヌープキャットを、その優しい真実ごと、突き飛ばそうとした。
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