issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 30
パソコンの駆動音も、階下の息遣いも、自分の心臓の鼓動さえも。
一切が絶対的な真空に吸い込まれる。壁を埋め尽くす無数の記事の切り抜きも、
赤い糸で結ばれた相関図も、今や、壮大な独り芝居のための、空しい舞台装置にしか見えなかった。
彼女の存在意義そのものが、木っ端微塵に砕け散る。後に残されたのは、
宇宙の広さにも等しい、絶対的な虚無感だけだった。
「……ああ」
声にならない声が、乾いた唇から漏れる。
「ぜんぶ……わたしの、せい……」
罪悪感。自分が、この世界を根拠のないデタラメで汚し、歪めてきた。
その途方もない罪の重さが、彼女の精神を内側から押し潰し始める。
――その暗黒の精神に、世界が呼応した。
「私の訴えは、なんだったの?みんな、私の力を知ってて、黙ってたの?……いや、ちがう。
みんな私が操ってたんだ」
自分以外、誰もが耳を塞いで真実を知ろうとしない、そんな愚かな世界で、孤高の生き方を選んだサバイバリスト――その、彼女を支えてきた最後の自認が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
「ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい……」
彼女は、床に散らばる雑誌やケーブルの山の中で、ただ、子供のようにうずくまり、
その言葉を、壊れたレコードのように、繰り返し、繰り返し、呟き続けるだけだった。
窓の外で、空が急速に光を失っていく。ネガポジ反転した奇怪な色彩が、さらに深い絶望の色へと沈み、部屋の中の影が、まるで生き物のように不気味に蠢き始めた。
アシュリーが咄嗟に掌に炎を灯そうとするが、そこに宿ったのは、色も熱も持たない、
ただ揺らめくだけの、幽霊のような白焔だった。部屋の中のモニターの光も、
壁に貼られた無数の記事も、その色彩を奪われ、モノクロームの染みへと堕していく。
次に、音が歪んだ。キィン、と、ガラスを引っ掻くような高周波が空間を切り裂いたかと思うと、
次の瞬間には、腹の底に響く、低く、不快な通奏低音が、どこからともなく響き始める。
世界の調律が狂い、あらゆるものが不協和音を奏で始めた、存在そのものの軋みだった。
せちが何かを叫ぼうとするが、その声は、異様な音の壁に吸い込まれ、意味をなさなかった。
そして、存在が揺らいだ。せちたちが感じていた、あの現実が書き換わる時の、水の中にいるかのような奇妙な感覚。それが今、家全体を、街を、そして世界そのものを、ゆっくりと、しかし確実に侵食し始める。さなは、自らの指先が、一瞬、半透明に透けるのを見た。
すべての輪郭が、熱せられたアスファルトの陽炎のように、曖昧に、ぼやけていく。
それは、世界の終わりを告げる、静かで、しかし抗いようのない、崩壊の序曲だった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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