issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 23
「状況証拠から見えてくる彼女の人物像。それは、1人きりで情報を集めている時は、意外とリテラシーがあるってこと。疑り深いっていうのかな?真偽不明の情報を、すぐには信じ込まない。
でも誰かとの対話が始まって、それが盛り上がってくると、途端に警戒心が緩むみたい。
その中で出てきた突飛な陰謀論を、まるで面白いゲームのルールみたいに、あっさりと信じ込んでしまう傾向があるんだ」
その分析を聞いていたアシュリーが、全てを理解したというように、腕を組み、的確な総括を口にした。
「……なるほどな。ようは、コミュ障で自尊心が強くて、んで陰謀論しか話のネタがないから、
それで会話を盛り上げるしかない。
しかも、それを披露することが、自分の賢さを表現する唯一の道具にもなってるってことか」
あまりに辛辣で、しかし誰も否定できないその表現には、部屋にいた全員が、思わず苦笑いを浮かべるしかない。
そこで生じた一瞬の静寂を、アシュリーが立ち上がる勢いで破った。
彼女は、じっとしていることに耐えられないとでも言うように、部屋の中を苛立たしげに歩き始める。
「理屈はわかった。じゃあ、やることは決まったも同然だろ。アキノの力の源になってる、
くだらないフォーラムやオカルト雑誌の供給を、根こそぎ断てばいいんだよ」
だが、そのあまりに直線的で、いかにもアシュリーらしい解決策を、おせちは静かに、
しかしきっぱりと首を横に振って否定した。
「それは、1番やっちゃいけない手だよ。もし、出版社自体が『真実だ』って本気で思って雑誌を出していたとしたら、話がこじれるだけでしょ?そ
れに何より、ミス・パラレルワールドという、この規格外の能力者の存在を公にすること自体が、
絶対にまずい」
おせちはホワイトボードに向き直り、そこに描かれた混沌の図の中心を、
ペンで強く指し示す。その声には、これまで以上の、冷徹な警告の色が滲んでいた。
「考えてみて。そんなことをしたら、すぐに100万の勢力が、100万通りのやり方で彼女に接触したり、力を利用しようとするに決まってる。
そうなったら、彼女が信じている“集団ストーカー”どころの騒ぎじゃなくなる。
世界中が、アキノさん本当の意味でストーキングし始める。
だから、あの人が現実改変能力者だってことは、誰にも、絶対に知られちゃだめなんだ」
「じゃあどうしろって言うんだよ?」
アシュリーが、行き詰まった状況に声を荒げる。
その問いに、おせちは少しだけ間を置いて、危険な光を瞳に宿しながら答えた。
「……ただ、フォーラムの方は、改変が可能かもしれない。危険な賭けになるけど、
成功すれば、一応は彼女の能力に手綱がかけられるようになる」
「よしきた!」
アシュリーは、待ってましたとばかりに拳を打ち鳴らす。
「ひとつずつ管理人を特定して、リア凸してくぞ!1回言ってみたかったんだよな。
『お前ネットで私のことバカにしてたよな?』ってやつ」
「そうじゃないよ」
おせちは、その短絡的な思考を、冷ややかにいなした。
「”彼”がいずれ、この事態に気付く。だから、先手を打って、こっち側に抱き込むんだ」
「……彼?」
はちるが、不思議そうに首をかしげる。おせちは、覚悟を決めたように、深く息を吸った。
「つまりね――」
*
はちるの部屋。ちゃぶ台の上で、PCと連動したホログラムディスプレイが不気味な緑の光を放ち、
そのぼんやりとした光の枠内に、下からスキャンラインが走るようにして、ひとつの光景が像を結んでいく。
――培養液に満たされたガラス水槽と、その中に鎮座する、壊れかけた銀色の巨大な頭部が。
「はい、本日お越しいただきましたゲストの、エイペックス・レジェンドさんです」
アシュリーが、テレビ番組の司会者のように、醒めた顔で軽薄な拍手を送る。
『――やあ。カルテット・マジコの諸君。こちらは毎日が雨のようなものだが、
そちらはずいぶん”ごりらか”な天気そうで何よりだよ』
枠なき画面の向こう、時折弾ける気泡が、彼の残された片目にやどる紅蓮の光を、不吉に揺らめかせた。おせちは腕を組み、独特な言葉遊びをまじえて気さくに振る舞うその男を、
交渉人の冷徹な目で見返している。
*
『――カンノアキノが巡回する数少ないフォーラムや、特定のユーザーの反応を完全に模倣した、偽サイトの構築か。……まあ、たやすいことだ』
彼女たちが、深海の牢獄に囚われたこの旧敵に、世界の命運を左右する協力を要請してから、
しばらくの時間が流れた。
すべての情報を咀嚼し、満を持して動き出したスピーカーが響かせる合成音声は、相変わらず傲慢で、
しかし絶対的な知性に満ちている。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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