issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 22
奥屋敷の大部屋。西日が畳の目に沿って長く伸び、部屋の隅に追いやられた埃をきらきらと照らし出している。古い木と、日に焼けた畳の匂いだけが満ちる、静かな午後。
その静寂を、2人分の、どこか浮かれた声が破っていた。
「……いいかさな、もっと胸を張れ!世界の王はそんな猫背じゃない!」
ソファの背もたれに、さながおずおずと仁王立ちしている。その細い腰を、
アシュリーが満面の笑みで後ろからしっかりと抱え、もう1度彼女に、そのセリフを高らかに叫ばせる。
「わたしが世界の王だー!」
ついに完成したその光景は、まさしく「タイタニック」のワンシーンだった。
だが、そのあまりに浮かれた光景に、部屋に戻ってきたおせちと、その背後に立つはちるの顔から、
一瞬にして表情が消えた。
「……ちょっと、晩ごはん作って言ったのはどうなってるの!?」
おせちの叱咤が、部屋の空気を切り裂く。さなは「あっ」と小さく声を上げてソファか
ら飛び降り、アシュリーはかえって、ソファの上で仁王立ちになった。
「わかってるって。これからやるよこれから――」
そしてアシュリーは、悪びれる様子もなく言い返す。
「――こっちはこっちで、将来のための大事な練習をしてるんだよ。――演技のな。
どうせこれから毎年、レッドカーペットを歩かされることになるんだ。
今のうちから慣れとかないとだろ?」
「そ、そうだよ! トロフィーの受け取りとかも、大事だし!」
アシュリーの言い訳に、さなは顔を真っ赤にしながら、しどろもどろに続く。
「……もう!」
彼女たちの弁明に、おせちはぷんすかとした顔で反撃した。
その横で、はちるまでが頬を膨らませている。
*
そしておせちは、疲れた素振りを隠さず2人の前を歩いて、
部屋の隅からホワイトボードを引っ張ってくると、いきなり本題を切り出した。
「……とにかく、首都を犠牲にして、世界の法則が書き換わるまでの1回分のサンプルを手に入れてきたよ」
「は、首都ぉ?……がどうしたって?」
アシュリーが、間の抜けた声で問い返す。その、まったく状況を理解できていない2人の様子に、
はちるが思わず動いた。
「実はね、こうなっちゃったんだ……」
彼女は、2人の前でスマートフォンを取り出すと、その画面を見せつけた。画面には、
信じがたい見出しが、いくつも、いくつも並んで踊っていた。
『【速報】太平洋上に、未知の大陸が出現』
『【速報】日本政府、首都機能の臨時移転を緊急発表。移転先は「レムリア」と呼称された新発見の大陸』
「ゲッ、なんだこれっ!!」
最初に沈黙を破ったのは、アシュリーの絶叫だった。その隣で、さなは声もなく目を見開き、
セーターの萌え袖を口元に重ねている。
そんな2人の対照的な反応を横目に、おせちは、ただ、やれやれと深く息を吐く。
そして、これから始まる長い説明のため、ホワイトボードマーカーのキャップを、カチリと外した。
「……帰り道にずっと考えてたんだ。アキノさんは、1日中あの世界に没頭しているのに、
どうして世界の改変は、私たちが懸念するほど頻繁には起こらないのか……。
前からずっと、その不自然さが気になってた。
でも、今回初めて、そのプロセスを最初から最後まで観察できたことで、答えが見えた気がする」
おせちはペンを動かし始めた。その理知的な横顔には、疲労と、それを上回る異様な熱意が浮かんでいる。
「大事なのは、彼女の性格を、その行動原理を、正確に理解することだった。
私たちが世界が改変されるのを直接観測できたのは、実はこの3つのケースだけなんだ」
彼女はボードに、手早く3つの項目を書き出していく。
1. シノちゃんとのメッセージのやり取り(ケムトレイル、HAARP)
2. フォーラムでのスレッド立て(レムリア首都移転)
3. 私たちとの会話の中で(地球平面化)
「この3つの瞬間に、共通していることは何だと思う?」
おせちは、ペン先でボードを軽く叩きながら、全員に問いかけた。
その問いに、アシュリーはあぐらを組んで唸り、
帰り道で、直に答えを聞かされているはちるは神妙な顔で黙し続ける。
重い沈黙の中、これまで黙ってボードの文字を追っていたさなが、おずおずと、
しかし核心を突く一言をぽつりと漏らした。
「……誰かと、お話ししてる時……かな?」
その、あまりに素朴で、しかし本質を射抜いた答えに、おせちは、はっとしたように顔を上げた。
彼女はペンを置くと、驚きと、そしてどこか誇らしげな微笑みを浮かべて、力強く頷いた。
「その通りだよ、さな。すごい、正解」
「えへへ」
褒められたさなが、照れくさそうに頭をかく。おせちは、
その言葉を引き継いで、自らの分析をさらに深めていった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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