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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#03 I I I I Dreamed A Dream

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issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 20

あくる日はちるは、小さな土鍋を乗せたお盆を手に、アキノの部屋の前に立っていた。

その横にはおせち。前回とは違い、ドアをノックする音は、ごく控えめだ。


「アキノさん、はちるです。お粥持ってきたんですけど。いりますか?」


ドアの向こうから、すぐに苛立ったようなくぐもった声が返ってくる。

「……いらない。何もいらないから今日は帰って」


”雨が降った”次の日はいつも気分が悪くなる。

それは、彼女たちというよりは母親に向けられた、いつもの拒絶の言葉だった。

そこでおせちは、ドアにそっと語りかける。


「待って。これは、お母さんのご飯じゃないんです。

……うちのはちるが、アキノさんのことを考えながら、一生懸命作りました。

はちる、時々、不思議なものを作るんです。きっと、今まで食べたことのない味がしますよ」


その言葉に、ドアの向こうの物音がぴたりと止んだ。タイピングの音も、

独り言のような呟きも聞こえない、完全な沈黙。それが10秒ほど続いただろうか。


やがて、ガチャリ、ガチャリ、と、いくつもの鍵が、ゆっくりと外されていく音が響いた。


ドアが静かに開く。そこに立っていたアキノは、はちると、その隣に立つおせちの顔――特に、

言いつけを守ってちゃんと着用しているアルミ帽をじっと見つめると、

何も言わずに、ただ、体をずらして2人が入るための道を開けた。


数歩、部屋に足を踏み入れたとき、おせちは、ある重大な変化に、密かに気づいていた。


(……儀式をしろって、言われない)


前回、あれほど執拗に強要された、部屋に入るための奇妙なルール。

黒いピラミッドに触れるな、という警告も、サーバーラックの周りを回れ、

という指示も、今回は、何ひとつなかった。


アキノは、ただ2人を「招き入れた」。


食事に気を取られていて、忘れたのだろうか?それだけとも思えない。

それは、あまりに些細な、他の誰にも気付けないような変化。

だが、おせちにとっては決定的だった。アキノの中で、自分たちは、

彼女の世界を汚染する「異物」ではなく、ただの「訪問者」として、認識され始めている。


アキノは、


「じゃ、アツアツのうちに、どぞ!」

と、はちるが差し出した土鍋の蓋を、疑り深そうに、ゆっくりと開けた。

立ち上る、米と出汁の、素朴で優しい香り。

彼女はレンゲを取ると、おずおずと、最初のひとすくいを口に運んだ。


「……おいしい」


それは、心の底から漏れたような、素直な感想だった。

20年以上、出来合いのものだけで生きてきた彼女の舌に、本物の料理の味が、

じんわりと染み渡っていく。


その純粋な反応に、はちるたちの表情が、ほんの少しだけ和らいだ。

だが次の瞬間、アキノの目がカッと見開かれる。

彼女は、レンゲを椀の中に落とすと、テーブルの向こうから、身を乗り出すようにしておせちを睨みつけた。


「……まさかとは思うけど、化学調味料は入ってないわよね?」


その、あまりに真剣な詰問に、おせちは一瞬思考が停止し、

はちるは「えっ!?」と、心外だというように声を上げた。

地球平面化や太陽消滅の危機を乗り越えた直後に、自分たちが対峙しているのが、

うま味調味料の是非だという現実にふたりは困惑した。


「……入ってません。昆布と、鰹節のお出汁だけです」

おせちが、かろうじてそう答える。すると、はちるも自信満々に胸を張って付け加えた。


「そうだよ!入れ間違いとか何にもないよ。ウチの鼻は間違いないんだから!」

その、獣人の感覚に基づいた奇妙な品質保証が、アキノを納得させたようだった。

彼女は、ふっと安堵したように頷くと、再びレンゲを手に取った。


「そう。ならいいわ。あれは、脳の松果体を石灰化させる、政府の毒らしいから――」


その言葉を聞いた瞬間、おせちの脳裏を、最悪の想像がよぎる。

今この瞬間、世界中のニュースサイトのトップに、


『衝撃!政府は調味料で国民の松果体を石灰化させていた!』


などという見出しが躍っているのではないか。


一方、はちるは「せいふの、どく……?」と、不思議そうに首をかしげている。


「――!」


おせちが震える指でニュースフィードを更新するのを、

はちるは「おせち、どしたの?」と心配そうに覗き込んだ。


だが、画面に表示されたのは、今なお消えざるケムトレイルと毒性雨の問題、

そして、球体から平面へ、また平面から球体へと驚くような短時間で再編成されたにも関わらず、

不思議なほど物理的な被害を被らなかった地球に関する、専門家たちの混乱した続報ばかり。

その中に混じる海外セレブのゴシップ記事が、今となっては、かえって明るい話題とさえ思えた。


(……杞憂か。そうか、おそらく、彼女の『思い込み』のすべてが、即座に現実になるわけじゃない。

たぶん、『確信』に至ったものだけなんだ……。実際の処理としては、

彼女の表層意識が『確信』した事柄が、そのまま無意識の『決断』として現実を書き換える、

ってとこかな……)


おせちは、安堵の息を深く、静かに吐き出すと、何事も気取られぬように、

平静を装ってスマートフォンをポケットに仕舞った。


高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


https://x.com/piku2dgod


本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256

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