issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 17
観念したように、はちるは小さく息を吐く。
「……ホントに、ちょっとだけなんだよ!?」
そう言って皆の前に差し出された手のひらは、その悲壮な決意とは裏腹に、
まるで迷子の子どものように、少しだけおずおずとしていた。
その中心に、光が灯る。
「わぁ……!」
さなが、息を呑むかすかな音が聞こえた。
それは、ただの光ではなかった。掌の上でそれが生まれた瞬間、部屋の空気がふっと質量を失い、時間の流れさえもが、このまま逆流していきかねぬほど曖昧に揺らぐ。
姉妹たちの意識には、存在しないはずの星々の誕生と、銀河が渦を巻く時の、
深遠の奥の奥をめぐるその音が、抗いようもなく直接流れ込んできた。
無から有が生まれる、原初の瞬間。「可能性」のすべてが、その1点に凝縮されている。
誰もが、声もなく、直感だけで理解した。――これは、宇宙創成、そして破壊の力そのものだ、と。
至純の光を放つ小さな太陽は、しかし、次の瞬間には、はちるが、ふっ、と息を吹きかけると、
まるで蝋燭の火のように、あっけなく消え失せた。
世界が、再び、元の質量と法則を取り戻す。残されたのは絶対的な力の残滓と、肌を粟立たせるほどの畏怖だけだった。
そしてはちるは、いそいで自分の腕や胸を撫でまわし、
「よかった……おばあちゃんにはなってなさそうちる!」
と声を上げる。
「……よし。やっぱ、やれるよな。ヤバくなったら大怪獣バトルでなんとかなるってワケだ」
一応は制御された創世の力の顕現に、アシュリーは安堵の表情を浮かべた。
「うーん、でも、また同じことができる”ちる”かな……?」
「……えっ?」
その、あまりにも自然に付け加えられた語尾。
――ちる?
3人の思考が、一瞬、完全に静止した。はちるの言葉の最後に、なにか聞き慣れない響きが混じっていなかったか。
おせちとアシュリー、さなは、互いに視線だけで問いかける。
気のせい?
いや、確かに聞こえた。そして、そのあまりに間の抜けた響きが、
宇宙を創り変えるほどの力の「代償」なのだと、3人は直感によって理解した。
しかしはちるの、その問いかけ自体が、3人にとっては好都合な“言い訳”となっている。
はちるが気にしているのは、力の再現性。語尾のことではない。
「……?みんな、どうしたちる?」
「いやなんでもない。大丈夫だし全然技もイケてたよ、リスクも何もなさそうだし」
アシュリーが、わざとらしく明るい声で言う。
「うん、そうだね!」
おせちも、ぎこちなく微笑んで頷いた。そして2人は、はちるにだけ分からないように、
一瞬だけ、欺瞞に満ちた顔を見合わせた。
この、あまりにシュールで、あまりに不憫な秘密を、自分たちだけで抱えていくのだと、
覚悟を決めるかのように。
「……ただし!それでもこのカードはやっぱり――切った時点で私たちの負けって認識でいこう。
力任せの解決は、思考を放棄したのと同じことだよ」
しかしおせちは、安易な結論自体には待ったをかけた。
「――はちるの力は、あくまで、本当に、他に何もなくなった時のための最後の保険にしなきゃ。
だっていいかい?規格外の力同士が衝突したらどうなるか……前の戦いで私たちは見たはずでしょ?
今度こそ、世界が本当に消し飛ぶかもしれないんだよ」
その言葉に、さなも、はちるを庇うように、悲痛な声で続ける。
「うん……。はちるには、もう、あんな思い、させたくないな……」
その一言で、アシュリーはついに折れた。
「……わかったよ」
彼女はバツが悪そうに視線を逸らすと、どこか納得したように、そして吐き捨てるようにそう言った。
「そうだよな。そもそもアキノは敵じゃない。正直言って、ただの、ちょっとかわいそうな奴だ」
アシュリーが意見を取り下げたのを見て、はちるは「待ってました」とばかりに胸を張り、
得意げに片目を瞑ってみせた。
「……ほらね?ウチが正しかったちる!でもウチは心が広いし、
アシュリーの間違いはチェルシーのユニフォームを着て町を1周してくるだけで、
ぜーんぶ水に流してあげるちるよ」
その提案に、アシュリーの顔からサッと血の気が引いた。
熱心なグーナー(アーセナルのサポーター)である彼女にとって、
宿敵チェルシーのユニフォームを着て街を歩くなど、死刑宣告にも等しい、最大の屈辱だった。
「うるさい、このツルツルが!その語尾、一生治らないように呪ってやるからな!」
アシュリーは、精一杯の負け惜しみを吐き捨てるのがやっとだった。
「『語尾』ぃ?ちょっとアシュリー、それどういうこと”ちる”――」
そこまで言ってはちるは、己の口から滑り出たその間の抜けた響きに、ようやく気づいた。
――ちる?
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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