issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 14
地球が元の姿を取り戻した安堵も束の間、おせちは、アキノの部屋に無数に存在するモニターの1つに、ある不吉な文字列が浮かび上がるのを目にした。それは、アキノが最も信頼を置くオカルトフォーラムの、新着スレッドのタイトルだった。
【緊急・最終預言】太陽の意識体が、“自己消滅”のシーケンスに突入した】
おせちの血の気が引いた。スレッドを開くと、そこには「観測データが確定した。我々の太陽は、人類の汚れた意識に絶望し、自ら光を閉ざすことを決定した。残された時間は少ない」という、終末論的な書き込みが、他のユーザーからの熱狂的な賛同コメントと共に表示されている。
(まずい。これをアキノさんが見て、信じてしまったら、本当に太陽が消える――!)
おせちは、隣にいるアシュリーの腕を強くつねり、目線だけでモニターを指し示した。
事態を即座に理解したアシュリーの顔も、青ざめていく。アキノは、まだその書き込みには気づいていない。別のモニターに表示された、月面ナチス基地の存在を証明するという論文に夢中になっている。
(どうする。どうやって、彼女の気を逸らす?――)
おせちが絶望的な思考を巡らせた、その刹那。彼女の切羽詰まった視線を受けたはちるが、まるで天啓でも得たかのように、唐突に行動を起こした。
「にゃ、にゃ、にゃ……にゃーん!」
はちるは、突然四つん這いになると、本物の猫のように喉を鳴らし、背中を丸め、
アキノの足元にすり寄って見せた。そして、そこには存在しないはずの、
見えない蝶でも追いかけるかのように、部屋の中を軽やかに跳ね回り始める。
「こ、これは……!」
その奇行に、さすがのアキノも月面ナチスから注意を逸らされた。彼女は、目を輝かせ、食い入るようにはちるの動きを観察し始める。
「ただの猫の真似じゃない……。動きに、寸分の無駄もない。これは、古代エジプトで崇められた猫神『バステト』の意識体が、彼女を依り代にして降臨しているんだわ……!なんてこと、神聖なチャネリングの瞬間に立ち会えるなんて!」
おせちは、床に散らばる無数のケーブルを音もなく飛び越え、アキノのPCの前に滑り込んだ。幸い、彼女は常にログイン状態を維持している。
間髪入れず、問題の「太陽消滅スレッド」を開くと、預言者「ミス・パラレルワールド」として、驚異的な速度でキーボードを叩き始めた。
その書き込みは、アキノの思考パターンと口調を完璧に模倣しつつ、危機を回避するための一文を、的確に差し込むものだった。
【宛先:PROPHET_ZERO】
【送信者:ミス・パラレルワールド】
【本文:ゼロ、あなた、その情報源はどこ?それは『彼ら』が流した偽情報よ。太陽の自己消滅は、もっと複雑なプロトコルで実行される。そんな単純な話じゃない。あなたのその書き込みは、
大衆をパニックに陥れるだけの危険なデマ。
すぐにスレッドを消しなさい。真の覚醒者は、情報の取捨選択もできなくては】
投稿と同時に、スレッドは新たな熱狂に包まれる。『ミス・パラレルワールド直々の否定』『やはりゼロの情報はガセだったか』――。重鎮による一喝は、瞬く間に太陽消滅説を「信じるに値しない危険なデマ」として、フォーラム内で鎮火させていった。
おせちは、音もなくその場を離れる。そのファインプレーを見届けたさなは、
誰にも気づかれぬよう、指先からごく微弱なサイキックの糸を伸ばす。その糸が、PCの電源ボタンに触れたか触れないかの刹那、画面は、ぷつり、と音を立てて暗転した。
「あら、停電?」と一瞬だけモニターに視線を戻すアキノ。
しかし、彼女の興味は、すでにはちるが体現する「神託」 の方に完全に釘付けになっている。
おせちとアシュリーは、冷や汗を拭う。そして、神の降臨(という設定)を、全力で演じ続けるはちるの姿を、感謝と、憐憫と、そして一抹の尊敬の念を込めて、見守るしかなかった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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