Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 02 04
緑色のヘリポートは、吹きすさぶ雨風に震えている。
洋上基地の姿には、外から見ても内から見ても完全な統一感がある。骨組みを成すふとい鉄骨は相変わらずここでも互いに組み合い、その間を走るパイプには血管の綿密さがある。
コンテナやドラム缶はそこら中に乱雑に積み上げられ、
そのすべてに、赤錆の線条が多かれ少なかれ走っていた。
ヘリポートとは対角に位置する制御塔は、監視カメラと巨大なパラボラアンテナで武装され、
例の、ヘリコプターの外装甲をたびたび赤く染めた信号灯はいまも絶え間なく瞬いている。
基地の周りをかこむ浮標は、まるでこの孤島を外界から隔てる結界のように、波間で不気味に揺れていた。
シャカゾンビはヘリのエンジンを止め、白骨の面差しを苛烈な海風に晒す。
堂々と甲板に踏み出す彼のマントがたなびき、グリーブが鋼の床を力強く叩くが、そういった音は、
鉄めいた周囲の環境が、まるごとたわんで生じる重低音にたやすくかき消されてしまう。
作業ロボットが遠くで火花を散らし、クレーンのアームが頭上を雄大に旋回する中、
彼は基地の心臓部――制御塔へと歩を進めた。
甲板の通路はせまく、その縁は手すりのないグレーチング構造で、本当に時々だが、波の飛沫がそこまでかかることもある。通路に踏み込んだシャカゾンビの影は、赤い天井灯に照らされて長く壁に伸びていく。
「ふぅんむ……奴らは管制室に籠っているらしいな。ヒヒン、仕事熱心で結構なことだが……」
シャカゾンビは、1室の様子を冷たく一瞥し、甲高い声で鼻を鳴らす。無人の相部屋だ。
……けして無作為に開かれたアルミ扉ではない。まさにここを寝室として利用している者がいるのだ。
事務机の上には、工具箱と、そこから出されたままのレンチやドライバー、ボルト、ナットが雑に散らばっており、
かと思えば、その手の「錆びる物体」に極力近づけるべきではない栄養ゼリーのパックや、空の弁当箱、
飲みかけのまま放置された酒瓶などが置かれていた。本棚は本来の用途ではほとんど使われず、
その代わりに、結束バンドで無造作に束ねられたコードの塊、エアダスター、スプレー類など無造作に押し込まれている。
ベッドのシーツはどれもよれよれで、その様子には何の秩序も見られなかったが、
基地の運営に、「何のトラブルも起きてはいなさそうなこと」をあわせて確認できたシャカゾンビは、
その荒れはてた不活発な空間に対して、もはやこれ以上の興味を示すことなく、身をひるがえして廊下へと戻った。
通路を進む間、グリーブの足音は要塞の脈動のように反響したが、
塔にまとわりつく鉄の階段を登り、制御室へ向かう短い距離で、彼はまた束の間海風に晒されている。
重厚な鋼板できた制御室の扉は、横殴りの雨に打たれ続けている。
その中からは、聞くだけでもわかってしまう体格のよさがある――横方向に音域の広い声が、ふたつ分、繰り返し漏れてきた。
シャカゾンビの手が扉の認証パネルに触れると、緑の光が点滅し、扉がゆっくり開き、冷たい光を放つ制御室が姿を現した。
洋上基地の制御室は、まさに冷厳な機械の聖域だった。壁を埋め尽くすモニターが青白く瞬き、
データストリームが無音で垂直に流れ落ちている。
制御卓は鋼の祭壇のごとく中央にそびえ、存在感ある黒のPVCケーブルが無秩序に鉄の床を爬行する。
全面ガラス張りになった窓の向こうでは、灰色にうねる日本海の波が絶え間なく砕け、
その衝撃が、かすかな振動となって基地の基底部からここの床板にまで上がってくる。
シャカゾンビの白骨の表情には、文字の区別が付くほどにモニターの光がかかっている。
制御卓には、2人の先客がいた。
ひとりは額に汗を浮かべながら、細かく震える指でキーボードを叩き続けている。
もうひとりは、辞書ほどにも分厚いハードカバーの本を片手に、その作業をじっと見守っている。
どちらも口を閉ざし、音のない戦場で4つの目だけが忙しく動いている。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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