issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 11
(想像していた以上のイメージが出来たのでビジュアルはとりあえずこれで)
カンノアキノの姿は、年齢という概念そのものを嘲笑うかのように、奇妙な矛盾を孕んでいた。彼女の戸籍上の年齢は37歳。しかし、そこにいるのは、どう見ても10代後半にしか見えない、1人の少女だった。
2040年代の技術が可能にするサイボーグ置換も、富裕層がこぞって受ける細胞レベルでのアンチエイジング手術も、彼女は一切行っていない。その若さは、医学や科学の産物ではなかった。
まるで、彼女の時間が、引きこもりを始めた20年前――その一点で、凍りついたまま止まってしまっているかのようだ。
肌は、長年太陽の光を浴びていないがゆえの、病的なまでに白い透明感を湛えている。
その陶器のような滑らかさには、同年代の女性が持つはずの、生活の痕跡や、
経験の年輪といったものが、一切刻まれていない。
つまり、その若さは決して生命力に満ちたものではなかった。
艶を失い、ぱさついた長い黒髪は、手入れを放棄されたまま、無造作に伸びている。
血の気の失せた薄い唇。そして、モニターの光を映すだけの、感情の読めない大きな瞳の周りには、
不摂生と睡眠不足を物語る、濃い隈が、まるで墨で描いたように深く沈んでいる。
華奢な肩、細い手足。その肢体は、成長期の途中で時間が停止したかのような、未発達な危うさを感じさせる。だが、そのアンバランスな若さこそが、彼女の異常性の何よりの証明だった。
彼女は、若々しいのではない。ただ、「老いる」という、生命として当たり前のプロセスから、完全に切り離されてしまっているのだ。その姿は、美しい花の姿のまま、永遠に枯れることのない、
不気味な押し花のようでもあった。
4人が足を踏み入れたアキノの部屋は、彼女の精神世界をそのまま物質化したかのような、混沌の要塞だった。壁一面には、世界地図や星図、意味不明な数式が書かれた紙がびっしりと貼られ、それらが赤い糸で複雑に結ばれている。床には、分解されたPCパーツや、オカルト雑誌の山、そして何重にもケーブルが絡み合った複数のモニターが、不気味な光を放っていた。
そして、その中心に立つアキノの頭には――くしゃくしゃのアルミホイルで作られた、
いびつな帽子が乗っていた。
そのあまりにシュールな光景に、張り詰めていたアシュリーの緊張の糸が、ぷつりと切れた。
「ブッ……!はっはっはっはっは!マジかよ、アルミホイルって……ホントにつけるんだこれ!」
大爆笑するアシュリーに、アキノは心底軽蔑したような目を向け、真顔で言い放つ。
「笑いごとじゃないわよ。思考盗聴とサブリミナル電波を防ぐには、これしかないんだから。あなたたちみたいに無防備でいたら、頭、やられるわよ」
「あーウケる。そんなんで防げるわけ……ぐっ……!」
突如、アシュリーの威勢のいい笑い声が、引きつったうめき声に変わった。彼女は、こめかみを押さえてその場にふらつく。
「なんだ……?頭が……ガンガン……!」
その表情から、みるみるうちに血の気が引いていく。そして――。
「痛いっ……!いててて……」
そのあまりの変貌に、3人は血相を変えた。
「アシュリー、どうしたの!?」
本気の心配と恐怖を滲ませ、おせち、さな、はちるが同時に駆け寄る。だが、彼女たちの声は、もうアシュリーには届いていなかった。
焦点の定まらない瞳で虚空を見つめ、彼女は、壊れたラジオのように意味をなさない言葉を紡ぎ始める。
「……7番ゲートのプロペラが逆回転してる……!ダメだ、イルカが、イルカが全部食べちゃう!早く、早くマヨネーズを……!」
明らかに脈絡のない、支離滅裂な言葉。その瞳からは、完全に焦点が失われている。さっきまで威勢の良かった彼女が、一瞬にして狂気の世界に取り込まれてしまった。
その常軌を逸した変貌に、おせち、さな、はちるの3人は、声なき恐怖に呑まれた。
「だから言ったのに!」
アキノは、ベッドの脇に積まれたガラクタの山から、同じようにアルミホイルで作られた帽子をもう1つ取り出すと、それを乱暴に投げ渡した。
「早く、これを被せて!」
おせちは、半信半疑のまま、しかし他に選択肢はなく、そのアルミ帽をアシュリーの頭に被せる。
すると、嘘のように、アシュリーの痙攣がぴたりと止まった。彼女は数回まばたきをすると、何が起きたのかわからない、という顔で首をかしげる。
「……あ?……なんだ?今、あたし……何が見えてた?」
正常に戻ったアシュリーと、その頭に乗った滑稽なアルミ帽。そして、したり顔で頷くアキノ。
4人は、この部屋では、自分たちの世界の常識が、一切通用しないことを悟るしかなかった。
アシュリーが、何事もなかったかのように正常に戻った。その信じがたい光景を前に、おせちは一瞬だけ逡巡したが、すぐに自らの非合理的なプライドを捨て去った。
彼女は無言でガラクタの山に歩み寄り、残りのアルミ帽を手に取ると、さなとはちるに1つずつ手渡す。
2人も、もう逆らうことなく、その奇妙な帽子を、まるでヘルメットでも装着するかのように、
神妙な面持ちで被った。
最後に、おせちも自らの頭にそれを乗せる。
世界を救ってきた4人の英雄が、部屋の隅で、揃いのアルミ帽を被って立つ。そのシュールな光景に、部屋の主であるアキノは、ようやく満足したように、こくりと深く頷いた。
高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。
https://x.com/piku2dgod
本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256




