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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#03 I I I I Dreamed A Dream

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issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 10

おせちがまず頼りにしたのは、アキノの唯一の家族である母親だった。

電話口から聞こえる声は、感情の起伏が抜け落ち、ひどく乾いていた。


シノという名前と、カルテット・マジコという素性を明かすと、

母親は「……わかりました。どうぞ」と、すべてを諦めたかのように、

驚くほどあっさりと訪問を許可した。


……翌日。4人が訪れたカンノ家は、まるで時が止まったか、あるいは腐敗していくのをただ待っているかのようなところだった。


庭の雑草は伸び放題で、くすんだ黄に変色した室外機が、

塗装の剥げた壁にもたれるように据えられている。

苔むした飛び石の縁を、季節を違えた小虫がのろのろと這っていた。


トタン庇の裏側には、雨染みに黒ずんだ溝を見上げるようにして大きな蜘蛛の巣が張り、

そこに宿った雨滴が、音もなく、1粒ずつ落ちていく。この場所のすべてが、忘れられたまま朽ちていくことに、とうに慣れてしまったかのようだった。


――呼び鈴を押した。


沈黙があった。


それからやがて、錆びたドアが、まるで不承不承といった様子で、軋みながら開いた。


「――」


そこに立っていた母親は、家そのものと同じくらい、手入れが放棄されているように見えた。やつれた顔、色のない唇、そして、何も映していないかのように虚ろな瞳。彼女は4人を無言で招き入れた。


1歩、家の中に足を踏み入れた瞬間、4人は言葉を失った。

玄関から続く廊下には、未開封の郵便物や、いつのものとも知れない新聞が山と積まれ、リビングの床は、コンビニの弁当容器やペットボトルで埋め尽くされている。


埃と、何かが僅かに腐敗したような甘い匂いが、淀んだ空気と混じり合い、息苦しく肺にまとわりついた。


予想を遥かに超える屋内の荒廃。それは、単に散らかっているというレベルではない。生活という営みが、長年にわたって死んでいる。その事実が生み出す声なき恐怖に、アシュリーはいつもなら真っ先に口に出すはずの悪態すら忘れ、ただ眉をひそめた。


さなは、おせちの服の袖を無意識に強く握りしめていた。


世間から、そしておそらくは彼女たち自身からも、完全に忘れ去られた家庭。母親も、

そして、ドアの向こうにいるはずの娘も、緩やかに自分自身を損なっている。


セルフネグレクト――その言葉が、おせちの脳裏をよぎる。4人は、この空間に漂う、

救いようのない病的な気配を肌で感じ取っていた。


「アキノは……2階の、突き当たりの部屋です」


母親は、感情のない声でそう言うと、ふらりとリビングのソファに崩れ落ち、

ふたたび呆けた顔でテレビ画面を見つめ始めた。


4人は顔を見合わせる。その目には、憐憫や同情ではない、もっと冷たく、そして根源的な謎に直面した者の、緊張の色が浮かんでいた。彼女たちは音を立てないよう、ゴミの山を避けながら、軋む階段へと足を向けた。


20年、開かれたことのない扉。その向こうに、この世界を狂わせている元凶がいる。


2階の廊下もまた、床が見えないほどの物で埋まっていた。


開けもされないままにうず高く積み上がる通販の段ボールや、ガラクタの山の中に、

不釣り合いなほど綺麗な黒曜石の小さなピラミッドが、ぽつんと置かれている。


さなは、そこから放たれる微弱ながらも奇妙なエネルギーに気づき、足を止めた。

そして、何かに引かれるように、その冷たく滑らかな表面に、そっと指先で触れてしまった。


「……ここだね」


突き当たりのドアは、異様だった。隙間がすべてガムテープで目張りされている。おせちは意を決し、そのドアをノックした。


「カンノさん?シノちゃんの友人の、吉濱です。カルテット・マジコという名義でしたら、もしかしたら私たちの事、 ご存じかもしれません」


しばらくの沈黙の後、ドアの向こうから、くぐもった神経質な声が返ってきた。


「知ってるわよ。シノが言ってた。……それより、あなたたち、廊下の黒いピラミッド、

触ってないでしょうね?」


その言葉に、さなの顔からサッと血の気が引く。アシュリーが「ピラミッド?」と訝しげに呟く横で、おせちは咄嗟に答えた。


「いえ、何も……」


「あっ、さわってしまいました……」

そしてさなが申し訳なさそうに、正直に告白する。


「嘘!そんなことしたら、ディメンション・ゲートが開いて――」


アキノの甲高い声が言い終わる前に、それは起こった。

4人の真横の空間が、陽炎のようにぐにゃりと歪む。そして、そこから1歩、禍々しい姿をした何かが踏み出してきた。


硬質な鱗に覆われた、緑色の皮膚。鋭い鉤爪を持つ長い腕。そして、爬虫類そのものの顔には、冷たい知性を宿した赤い瞳が、無感情に4人を捉えていた。


宇宙人――その単語が全員の脳裏をよぎるより早く、はちるが動いた。


「にゃっ!」


獣の本能が、思考を置き去りにして肉体を駆動させる。人間とは思えぬ踏み込みから放たれた拳が、宇宙人の顎を正確に撃ち抜いた。


だが、殴りつけた感触はなかった。宇宙人の身体は、まるでホログラムのように揺らめくと、次の瞬間には黒い霧となって、その場から跡形もなく霧散してしまう。

後には、淀んだ廊下の空気が残るだけだった。


呆然とする4人を前に、ドアの向こうのアキノが、パニックに陥ったような声で叫ぶ。同時に、いくつもの鍵が慌ただしく開けられる音が響いた。


「言ったでしょ!早く入って!こっちにテスラ缶があるから、それで中和しないと!」


高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


https://x.com/piku2dgod


本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740

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