issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 09
HAARP――。
画面の中の学者が口にしたその単語が、まるで引き金のように、
シノの脳裏に数日前の記憶を嫌な汗と共に蘇らせる。それは、SMSを通じて送られてきた、
親戚アキノからの唐突な警告だった。
『シノ、近いうちに世界が大きく揺れるわ。でも、それは自然の怒りじゃない』
あまりに突拍子もないその1文に、シノは呆れて返信したのを覚えている。
地底の滞在経験を持つ彼女にとって、「人工地震」という言葉が真っ先に連想させたのは、
あの覇王の姿だった。
『え、人工地震?アキちゃん、また変なサイト見てるの?もしテラリアの事を言ってるなら、
考えすぎだよ。たしかにあの王様はすごかったらしいけど、今はヨルシカさんたちがいるし、
あの人たちはもうそんなことしないよ!』
だが、アキノからの返信は、どこか達観したような、そして揺るぎない確信に満ちていた。
『違う、地底人じゃない。もっと古くて、もっと根深い、地上の“彼ら”の仕業。
シノちゃんはまだ知らないだけ』
『“彼ら”って誰よ……。もう、アキちゃん、一体何の話をしてるの?』
『HAARPよ。調べてみて。すべての答えは、そこに繋がってるから』
あの時は、いつもの陰謀論だと一笑に付したはずだった。
しかし今、国家の中枢が、あの日のアキノと全く同じ単語を、全世界に向けて発信している。妄想と現実の境界線が、音を立てて溶けていく。
その瞬間、ブブッ、と枕元のスマートフォンが再び震えた。
画面には、予言を的中させた張本人からの、追い打ちをかけるようなメッセージ。
『ほらね?言ったでしょ?』
シノの手から、スマートフォンが滑り落ちた。カタン、と軽い音を立ててフローリングの床に落ちる。
直後、彼女は血の気の引いた顔でそれを拾い上げ、世界がぐにゃりと歪むような、不快なめまい――その、まさに頂点で、震える指を必死に動かし、おせちへのメッセージを懸命に打ち込んだ。
『おせちちゃん、たいへん!さっきのじしん、ニュースで、アキノちやんの、アキノちゃんの言ってたはーぷがげんいんんん、だって!!ほんとになっちゃった、どうしよう!』
そしてタワーの屋上で、機材の後片付けをしていたおせちの端末が、悲鳴のような通知音を立てた。
ドローンのコントローラーをさっさと箱に仕舞い、取り出したスマホに目を落とす。
そこに映し出されたシノからのメッセージを読んだ瞬間、彼女の顔から、
急に一切の表情が消えていった。
*
1時間後。
自宅の廊下で、おせちはスマートフォンの画面に映るシノと向き合っていた。
画面の向こう、見慣れた自室にいるはずの親友の目は、泣き腫らして赤くなっている。
「――お願い、シノちゃん。親戚の、カンノアキノさんに会わせてほしい」
ビデオ通話の画面越しに、おせちは単刀直入に切り出した。その有無を言わせぬ真剣な眼差しに、
シノの表情が一層こわばる。
「い、今から……?」
「うん。今回のHAARPの件で、もう疑いの余地はないから。彼女は、ただの陰謀論者じゃない。何らかの形で、この事態を、事前に知覚していた可能性がある。だとしたら、彼女は今、世界で最も重要な情報源だよ。直接会って、話がしたいんだ」
おせちの言葉に、シノは苦しげに顔を歪め、力なくかぶりを振った。スマートフォンのカメラが揺れ、彼女の瞳から、こらえきれなかった涙がぽろりとこぼれ落ちる。
「……それは、無理だよ、おせちちゃん」
その声は、絶望的にか細かった。
「アキノちゃんは……もう、20年以上、自分の部屋から出てないの。食事はドアの前に置くだけで、ア
キノちゃんのお母さんでさえ、ほとんど顔を見てない。いつも、ドア越しに話すか、夜中にお風呂に入る時に、影をちらっと見るくらいだって……。
そんな人が、急にヒーローに会いたいなんて言われたって、絶対に……絶対に、断るに決まってる……」
シノの悲痛な告白に、おせちは言葉を失った。
(20年以上、部屋に引きこもってる……?)
その事実が、雷のように彼女の思考を打ち抜いた。
通話を終えた後も、おせちは1人、冷たい廊下で立ち尽くしていた。画面の暗くなったスマートフォンを、意味もなく握りしめる。
いきなり訪れた、あまりにも巨大な、論理の破綻。おせちの脳が、猛烈な速度で回転を始める。
(あり得ない。HAARPの起動を正確に予知する情報源を、社会から完全に断絶された個人が持ってる?論理が繋がらない。シノちゃんが嘘を?……違う。あの涙は本物。だとしたら……?)
彼女の思考は、常識的な推論の限界を突破する。
(情報源はどこ?どうやって外部と接触を?……いや、そもそも、そのカンノアキノという人物は、本当に『人間』なのかな?)
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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