issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 05
ミネソタ州最大の都市、セントポールは、まだ深い眠りの中にあった。
……もっとも、先ほど響き渡ったあの目覚ましが、市民の鼓膜を無事に通り過ぎてくれていればの話だが。
地上数100m。その頂部、巨大な窓が床から天井まで続く「グローバル・エアウェイズ」社長室。磨き上げられたマホガニーのデスクに、深々とした革張りの椅子が、主のいない玉座のように静まり返っている。窓の外では、灰色の雲から降り注ぐ毒の雨が、街の灯りを滲ませながら、ガラス面を執拗に叩き続けていた。
その静謐な空間に、今まさに、4人の少女たち――カルテット・マジコが招かれていた。
いや、招かれたというより――。彼女たちは、つい先ほど、3発の流星となってこのビルの眼下にある広場へと「着弾」したのだ。
社長は、その想像を絶する移動劇の一部始終を、この窓から遠景に目の当たりにしたばかりだった。
衝撃で噴水が砕け、コンクリートコートがめくれ上がる光景。
そして、もうもうと立ち上る土煙の中から、4人の少女が平然と現れた時の、あの現実感のない感覚。
日本の夕暮れから、アメリカの夜明け前へ、わずか30分。彼の理性は、まだその事実を受け入れきれずにいた。
呆然と窓際に立ち尽くす彼は、やがて、自らの動揺を糊塗するかのように、無理に作った諧謔を口にする。
「信じがたい……。まさか、本当に30分で到着なさるとは。……もしよろしければ、その移動方法を、弊社の次世代フラッグシップ・サービスとして事業提携しませんかな?」
重苦しい天候も、世界の危機も、どこか遠くの出来事であるかのような、ビジネスマン特有の口調。それに対し、おせちは窓の向こうの、雨に濡れて眠る都市を一瞥すると、静かながらも毅然とした声で答えた。
「技術的には可能ですが、ペイロードには厳格な制限があります。たとえば社長にご利用いただくには、まず……機体の、10kgほどの軽量化が必要になりますね」
一瞬の沈黙。社長は、自分が今、世界を救うと目される英雄に、
極めて丁寧に体重の指摘をされたのだと理解するのに、数秒を要した。
窓の外で、雨音だけが、そのユーモアと現実の狭間を、静かに埋めていた。
*
「私たちの持つ全ての情報、インフラ、資金……使えるものは全て提供しましょう。今や、一企業の存続などというレベルの話ではない。これは、人類の存亡がかかった……」
室内で社長は、ほとんど祈るように頭を下げた。その重苦しい沈黙の中、おせちはひとり、大きな窓へと歩み寄る。ガラス面にそっと手を添え、まるで天体望遠鏡を覗き込むように、瞳を濡れたガラスへと近づけた。彼女の目には、ただ透明な板を伝う雨粒の、その1粒1粒が持つ不自然な粘度と、そこに混じる微かな燐光の色だけが、世界の真実として映って
いた。
やがて、おせちはゆっくりと窓から顔を離し、社長の方へと向き直る。
「どうか、頭を上げてください。私たちも独自の調査だけでは手詰まりでした。
今回のご提案は、願ってもないことです」
彼女は静かにそう言うと、一転して、冷徹な戦略家の顔になった。
「では、お言葉に甘えて……早速ですが、社長。御社が管理する全世界の航空機の飛行記録、気象観測データ、通信ログ――その全ての生データに、こちらの端末からアクセスさせていただけますか。できれば、共同声明を発表した他社の分も、可能な範囲で」
子供のように無邪気に窓を覗いていたかと思えば、次の瞬間には、あまりに的確で専門的な要求を突きつける。その振れ幅の大きさに社長が言葉を失っていると、はちるが迷いなく自分のタブレットをバッグから取り出し、机の上に滑らせて画面を開いた。薄い電子音とともにシステムが起動し、彼女の指先が、端末の一端から吐き出されたホログラムキーボードの上で静かにスタンバイする。
その張り詰めた空気を、まったく意に介さない声が断ち切った。
「……『現在、惑星内は全箇所喫煙スペースとして開放されております』って感じだよな、この空」
アシュリーは社長室の豪奢なソファにVの字に寝そべり、組んだ長い脚を天井に向けてぶらぶらと揺らしている。後頭部で手を組み、シャンデリアの輝きを無遠慮に睨みつけるその様は、世界の危機などまるで他人事のようだ。その気怠さと不遜さが、部屋の重圧すらも軽く蹴り飛ばしていく。
「もう、アシュリー!」
さなは小さく咎めながらも、その声にはどこか安堵の色がにじんでいた。彼女は窓際へ寄り、おせちの袖をそっとつまむと、姉の隣で、ガラスを伝う雨粒にふたりしてじっと視線を注いだ。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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