issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 05 04
その刹那、吉濱家の境内を、いや、近隣一帯の空気を、天地を覆すかのような轟音が支配した。
それは雷鳴などという生易しいものではない。
まず、空気が巨大な壁となって押し寄せ、木々の葉を薙ぎ払い、地面の砂利を波立たせる。
次いで到達した衝撃波の本体は、大気の層そのものが巨大な鞭で打ち据えられたかのように、
古寺の瓦をビリビリと震わせ、家中の窓ガラスを今にも砕け散らんばかりに激しく揺さぶった。
奥屋敷、静謐な空気に満たされた尊の私室。床の間に掛けられた古雅な掛け軸が大きくしなり、
使い古しの湿っぽい布団の上で猫のように丸くなっていた彼女の小さな身体が、
文字通り「ビクンッ!」と30cmは跳ね上がった。
「ぐえっ!」
寝ぼけ眼のまま、彼女の身体は部屋の隅まで弾けながら転がっていく。勢いそのままに、美しい木目の障子戸に激突し、バリバリという凄まじい音を立てて人型の穴を穿った。
「あがががっ!」
戸を突き破った尊は、縁側を通り越して庭まで滑り出て、池の鯉を脅かして盛大な水しぶきを上げる。
ずぶ濡れになって石砂利の上へはいずり出ると、そのままの姿勢で荒く息をついた。
彼女が穿った戸の穴から、棚から落ちてきた達磨が、まるで後を追うようにことことと転がり出てきて、その傍らでぴたりと静止する。
「……な、なんじゃあッ!?」
口からは、神の威厳など微塵も感じさせない、息の詰まった声が漏れる。
「じ、地震か!?いや、この揺れは……うちの子らかッ!」
ようやく事態を飲み込んだ尊が、泥と草にまみれた顔を上げる。
その視線の先、遥か上空では、4条の白い軌跡が、澄み切った青空を切り裂いてどこまでも伸びていく。
「バカモン!ウチは空港ではないんじゃぞ!」
尊の怒声が、静けさを取り戻した敷地に虚しく響き渡る。だが、その怒りはすぐに、
ふう、という深いため息に変わった。彼女はよろよろと立ち上がると、濡れた着物の裾を払いながら、
娘たちが消えていった空を、どこか心配そうな面持ちで見つめるのだった。
*
まさしく人間弾道ミサイル。4つの光条は、地上に残した轟音を置き去りにして大気を貫いていった。
その過程で、赤い光――ホットショットだけが、他の3条とは異なる、より効率的な上昇角度へと、みずからの軌道を淡々と修正していく。
やがてすべての音が消え失せ、絶対的な静寂が支配する漆黒の宇宙空間へと到達した時、彼女たちの編隊は、先行する1条の光と、それを追う3条の光へと明確に分かれていた。
能動的な飛行力をもつホットショットが、純粋な慣性飛行に身を任せる姉妹たちよりも最短のコースを選択したのは、当然の帰結だった。
「しゅごぉ~い!きれぇ~!」
「帰りも絶対これにしよ!」
満天の星々を湛えた宇宙の黒さを目の当たりにして、
ミーティスとスヌープキャットが代わる代わる感嘆の声を上げた。
3人の眼下に広がるのは、息を呑むほどに美しい、青と白のマーブル模様を纏った母なる星、地球。大気のフィルターを通さない剥き出しの太陽光が、あたかも目に見える風のように無重力の地平をどこまでも吹き抜け、鼓膜が内側から圧されるような無音の世界で、彼女たちの輪郭に鋭い光と影を刻みつけている。
眼下では、昼と夜の境界線が、巨大な弧を描いてゆっくりと移動していく。片側には、闇に沈む大陸
と、そこに散りばめられた宝石のような都市の灯り。もう片側には、生命の青に満ちた海と、渦を巻く純白の雲。そして、そのはるか下。先行するホットショットの紅蓮の光跡だけが、巨大な天体を背景に、孤独な1点の針としてまたたいていた。
彼女たちは、その壮大な光景を真下に、初期加速の勢いと慣性の法則だけに従って、約20分間の弾道飛行を続ける。やがて軌道が降下を始め、ミネソタ州の上空に到達したその瞬間、超人的な視力が広大な大地から目的の座標を正確に捉えた。
「――見つけた。あの広場!」
ミーティスの号令を合図に、3条の光は大気圏へと再突入を開始した。断熱圧縮によって身体はプラズマの膜に包まれ、それぞれが白、ピンク、そしてオレンジの光を放つ、3つの流星と化す。空気を引き裂く轟音が、夜明け前のミネソタの空にあまねく響き渡った。
目標地点である無人の広場が、眼下に迫る。しかし、彼女たちの軌道に、減速の兆候は一切ない。
――次の瞬間。
まず、第1弾のミーティスが着弾した。TNT換算にして1t弱、凄まじい衝撃が大地を伝い、巨大な土煙が、空高く噴水のように舞い上がる。続けざまに、第2、第3の衝撃が、寸分の狂いもなく広場の各所に突き刺さり、一帯は局所的な地震のごとく揺れ、轟音は遠い山々にまでこだました。
やがて、視界を覆っていた粉塵がゆっくりと晴れていく。そこに現れたのは、かつてスケートコートだった場所の原型を完全に破壊する、3つの巨大なクレーター。
そして、その中心。
もうもうと煙が立ち上るクレーターの底から、3人の少女が、まるで何事もなかったかのようにゆっくりと立ち上がった。服の端がわずかに焦げているだけで、その身体には傷ひとつ見当たらない。
いかなる高度からの落下であろうと、彼女たちの強靭な肉体には受け身の一切が必要ない。だからこそ、この荒唐無稽な「射出」と「着弾」こそが、彼女たちにとって最も合理的かつ最速の移動手段になるのである。
ここへ、空から最後の赤い光――ホットショットが、舞い降りるように、
しかしジェットの轟音と共に着地し、合流する。彼女は、眼前に広がる破壊の光景と、土埃を払う姉妹たちを眺め、不敵に笑った。
「いやー、国家公認で好き放題物をブチ壊せるんだからな。――これだからヒーロー稼業はやめられないよ」
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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