issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 04 20
「――特攻だぁ!」
その絶叫がこだまする中、木々の間から、武装したテラリアの部隊が雪を蹴散らして現れた。
地底の軍勢らしい荒々しい動きで、森の夜明け前の闇に、無骨なスラッグライダー様式の装甲が次々と浮かび上がる。
「テラリア!?」
「来てくれたんだ!」
傷ついた身体で、かろうじて身構える4頭のクマ――カルテット・マジコは、
予期せぬ援軍の登場に息を呑んだ。
彼らもまた、目の前の信じがたい光景に一瞬動きを止める。咆哮を上げる1頭の巨大なゴリラと、
それを取り囲む、色とりどりの毛皮を持つ4頭のクマ。
だが、その逡巡は一瞬に過ぎなかった。部隊長は即座に状況を判断し、叫ぶ。
「相手はゴリラだけだ!フクロにしろ!」
「他のには手を出すな、ダチだ!」
テラリアの兵士たちが、波のようにゴリラへと殺到する。抵抗しようと振り回される剛腕も、
数に勝る部隊の銃底に叩き伏せられ続け、やがて投げかけられた特殊な電磁ネットがその巨体を幾重にも絡め取った。
その時、まるで朝霧から滲み出るように、オールラウンダーが音もなく姿を現した。武装したテラリアの兵士たちが、振り返って彼女の前に道を作る。
彼女は、地に押さえつけられ、憎悪を帯びた目で世界を睨む獣へと歩み寄った。
「――母さん!」
「母ちゃん」
「お母さん!」
「ママ!」
4人は口々に叫ぶ。
その声も今は聞こえぬように、オールラウンダーは、
雪にうずもれたゴリラ――その紅蓮の瞳を見下ろし、憐憫でもなく、憎しみでもなく、
ただ絶対的な理としてこう告げる。
「哀れなものよ。しかし誰もが、己の始めた物語には殉じなければならぬ」
彼女はそれ以上言葉をかけることなく、悠然と背を向けた。
その視線が、遠くで銃を構える老猟師と一瞬だけ交差し、かすかに頷く。
その合図を受け、ハヤカワはスコープから目を離し、古びた猟銃を肩にかけた。そして、テラリア兵に押さえつけられ、地に伏す巨大なゴリラへと、1歩、また1歩と、ゆっくりと近づいていく。
ブーツが雪面を踏む、たったひとつの音に気づいたのか、今井は、憎悪に満ちた瞳で人影を睨みつけた。唸り声が、その喉の奥で低く響く。だが、その顔をはっきりと認識した瞬間、威嚇はぴたりと止んだ。
獣の憎悪に燃えていた瞳が、信じられないものを見るかのように大きく見開かれ、やがて、すべてを嘲笑うかのような深い絶望の色に変わった。
「……お前!……か」
獣として対峙したあの時とは比較にならぬほど、今井の意識は、目の前の老いた猟師という1点に焼き付いていた。
自らが人と化してより10年以上、あの日の報復を目的にして執拗に追い込み続けたこの男こそ、その意趣返しとしてカルテット・マジコという破滅を呼び寄せた、すべての元凶だったからだ。
その、人間だった頃の響きを残す声に、ハヤカワは淡々と答えた。
「今井、だったか。わしには、そんな名前はどうでもええが」
テラリア兵に押さえつけられたゴリラと、ただ銃を下げて立つ老いた猟師。
戦場の喧騒が嘘のように、2人の間だけ、時が止まっていた。
ハヤカワは、地に伏す獣の、しかし知性を確かに宿した瞳を、じっくりと見下ろした。
「わしは猟師だ。人は撃つことはない。……だから、吉濱さんからこの仕事を任されても、
正直なところためらった。お前が人の心を持ったというのなら、それはもう、
わしの獲物じゃあないからな」
その脳裏に、15年前の記憶が蘇る。風に揺れる麦の匂い。警官たちの怒声。そして、
好機を逃し、防風林の闇へと悠然と消えていった巨大な影。
彼の誇りに、ただひとつだけ刻まれた、消えない傷。
「たがその考えは間違いじゃった。お前は、あの日の狩りを変わらぬ心で続けておる。わしらに対して、そしてこの世間に対して……」
ハヤカワはそこで言葉を切り、その瞳に、全ての迷いを振り払った狩人の光が、
氷のように静かに宿った。
「だったら、わしらの関係もあの日からなにひとつとして変わってはおらん。……だからわしは猟師として、あの日果たし損ねた仕事を終わらせに来た。ただ、それだけのことじゃ」
ハヤカワはそう言い残すと、静かに背を向けた。彼の戦いは、終わったのだ。
「……!……ふざけっ……!俺がっ、どうしてっ……こんなことでぇッッッ……!」
ふたたび絶望に直面した今井が、もはや意味をなさない威嚇の声を上げ続ける。それが、日本という国家の全てを掌握せんという野望を抱いた男の、哀れな末路だった。
ハヤカワは、その一部始終を振り返ることなく、ただ、半生をかけて止めていた息を、ようやく吐き出すかのように、深く、長い息をついた。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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