issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 04 19
形勢は完全に逆転した。だとすれば、これから展開されるのは「戦闘」ではなく、
統率された群れによる一方的な「狩り」のはずだ。
「行くぞ!」
ホットショットの咆哮が、戦いの号砲となった。彼女は、その小柄な体躯にお似合いの敏捷さで今井の側面に回り込み、鋭い爪で脇腹を深く引き裂き、疾風のように走り抜ける。
「ぐぅっ!」
今井が苦痛に顔を歪め、体勢を崩した、その瞬間。
「今!」
イムノの的確な指示が飛ぶ。その声に応じ、スヌープキャットが大地を揺るがすほどの突進を敢行した。その質量とパワーは、進路にあった若木をなぎ倒すほどだ。真正面から衝突を受けた今井の身体は、足元から弾け飛ぶようにして宙を舞い、後方の岩壁に叩きつけられた。
岩壁がみしりと揺れ、雪煙が舞う。だが、今井もまた、ただの獣ではなかった。彼は瓦礫の中から即座に身を起こし、憎悪に燃える目で反撃に転じようとする。しかし――
「――逃がさない!」
ミーティスの、静かだが絶対的な声。彼女が前足を地面に叩きつけると、周囲の木々や蔓が積雪を強引にかきわけ、まるで意思を持ったかのように一斉に伸び、
走りくる今井の四肢に絡みつき、転倒させた。いまや自然そのものが、彼女たちの味方をする。
身動きを封じられた今井に、4頭のクマが、四方から同時に襲いかかった。牙が肉を食い破り、爪が装甲のような皮膚を裂き、圧倒的な質量が、彼の骨を軋ませる。
「お前たち……ただの人間が、この私を……!」
今井は、屈辱と怒りに震えながらも、なおも大きく暴れまわってみせる。
だが、その抵抗も、完璧に統率された4頭の、手慣れた拷問めく連携の前では、
空しい足掻きに過ぎなかった。
イムノが的確に攻撃のタイミングを指示し、ホットショットが逃げ出す彼のその進路を塞ぎ、
ミーティスが自然を操って走り出しを邪魔し、そして、スヌープキャットが決定的な一撃を叩き込む。
「これで、終わりッ!」
スヌープキャットの渾身のショルダータックルが、ついに今井の体勢を完全に崩した。彼は、なすすべもなく後方へとよろめく。
その背後には、紫と蒼の波紋をたたえ、静かに揺らめくスピリット・ゲート。現世と異界を隔てる、因縁の境界線。
「行けぇっ!」
4頭の力が、1つの怒濤となる。押し込まれ、突き飛ばされ、今井の巨体は、まるで水面に落ちる石のように、その光の膜の中へと、吸い込まれていった。
人間に戻った今井は、満身創痍でよろめきながらも立ち上がる。
「……くぅッ!!」
「……どけよォ!なんなんだ、お前ら!」
なおも最後の執念でスピリット・ゲートへと歩き出そうとしていた。
「……」
その様子を見届ける、クマと化した少女たち。敵の執念に、一瞬、畏怖の念すら覚えたかのように、彼女たちは静かに左右へと退いて道を開ける。
朦朧とする意識の中、今井の思考はただ1点に収束していた。あと1歩。あの光の膜を潜りさえすれば、全ての罪から逃れられる、と。
……これまで喧騒が嘘のように静まり返った、夜明け前の原生林。その中で、ハヤカワは膝をつき、迷彩帽の下で息をひそめていた。彼の両手には、あの日と同じ、古びたスラッグ銃。薬室に込められているのは、鉛の弾丸ではない。カルテット・マジコから託された、ガラスのアンプルに封じられた淡い光――エイペックス・レジェンドの狂気の産物、
『創世の光』を弾丸化した、この世に1発きりの弾薬だ。
節くれだった指の形は、長い銃身を実によく支えている。そこには、15年という歳月と、奪われた誇りの重みが宿っていた。枯れた木の根の風格を帯びたその指は、ウッドストックの使い古した色味の中に、螺旋を描きながら半ば食い込んでいくかのようだ。
いわば男と銃は、彼の失われた人生そのものとして、一体となってそこにあった。
スコープの中で、十字の線に捉えられた忌まわしき影が、ゲートに接しようとする。ハヤカワが、15年分の無念と、己の生き様すべてを込めて、引き金に指をかけた。
背後から響く声はない。けたたましいサイレンも、誰かの制止もない。
ただ、風の音だけが、彼の決断を静かに後押ししていた。
……引き金が、落ちる。轟音と共に放たれた一撃は、夜明けの森に、長すぎた因縁の終わりを告げる祝砲のように響き渡った。黄金の輝きを放つ弾丸が、今井の背中に吸い込まれるように命中する。
「ぐ……う、ああああああああッ!?」
着弾の衝撃はなかった。代わりに、彼の全身を内側から焼き尽くすような、異質な光が着弾点から迸った。光は血管を伝って瞬く間に全身を駆け巡り、骨を軋ませ、筋肉を脈打たせ、皮膚を内側から張り裂けんばかりに膨張させていく。
それは、彼の意志とは無関係に、その存在の設計図そのものを、暴力的に書き換えていく力だった。
「こ、これはなんだ……?こんな……はずでは……!」
人間でも、クマでもない。黒く硬質な体毛が全身を覆い、その四肢は、熊沢によって予言されていた霊長類のそれへと、無慈悲に、そして確実に変貌していく。自身が作り上げた物語の結末が、最も惨めで皮肉な形で、その身に刻まれていく。
やがて、変容の苦しみが収まった時、そこに立っていたのは、扇動者・今井二十人ではなかった。ただ原始的な怒りだけを宿した瞳で咆哮する、1頭の巨大なゴリラだった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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