issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 04 18
ゲートを潜る瞬間には、一個の猛獣と化した今井は、まるで火の輪をくぐる瞬間かのように両手を広げ、その身を大きく躍らせて飛び出した。
爆発的な踏み込みで白銀の飛沫を巻き上げ、一直線にホットショットの懐へ潜り込む。回避する間もない。肩ごと叩きつけられた重い体当たりが、鈍い衝撃音と共に彼女の身体を「く」の字に折り曲げ、肺から息をすべて絞り出す。
「がはっ……!」
ホットショットは、数m後方の地面へと無様に吹き飛ばされ、雪にまみれて激しく咳き込んだ。人間より多少強い程度の身体能力では、純粋なフィジカルで勝る今井の突進は、あまりに致命的だった。
「アシュリー!」
ミーティスが悲鳴を上げ、咄嗟に呪符を放つ。しかし、かつて鋼鉄の軍勢を薙ぎ払った破壊の奔流も、今はただ紙切れの1枚が宙を鋭く滑るだけだ。疾走する今井はそれを鬱陶しげに首で払い除けると、
その勢いのままミーティスの前で直立に移行し、巨大な腕を振りかぶる。
回避する間もなく放たれた腕が、彼女の華奢な身体を、近くの木へと容赦なく叩きつけた。背中と衝突した幹が「ドォ!」と重い音を立て、落雪を起こす。
「どりゃっ!」
イムノがガンブレードを振るうが、その斬撃もまた、本来の鋭さを欠いていた。刃は今井の分厚い背中の毛皮に、乾いた紙を裂くような虚しい音を立てて滑る。今井は振り返りもせず、その厚い横腹の重みを活かして彼女を突き飛ばし、転倒させられはしなかったものの、ガンブレードを杖にして後ずらせた。
「ウチが!」
その隙に、スヌープキャットが背後から飛びかかる。だが、怪力を失ったその身はあまりに軽い。今井は忌々しげに彼女を振り払い、地面に叩きつけると、その喉元に牙を剥いて襲いかかった。
「グルルルァアア!!」
殺意に満ちた大開きの口が、彼女の喉元を狙って、何度も、何度も打ち下ろされる。
しかしはちるは咄嗟に、
「……ッ!」
仰向けの体勢から、
「……このぉっ!」
総合格闘技の局面で見られる、下からのグラウンドコントロールでそれを回避し続けた。
両ひざを相手の腹との間に差しはさんで距離を作り、腕で、化け物のように大きい首を押しのけて牙の軌道を逸らす。敵の口は、そのたび新雪の層を荒々しく喰らった。
それは、力の差を技術で補う、紙一重ながらも洗練された防御だ。
その刹那――泥まみれのホットショットが、
「そらァ!!!」
力を込めて投げた石が今井の側頭部を打ち、
イムノが足元に滑り込みながら、
「おりゃああっ!!!」
ガンブレードで腱を狙って斬りつける。だが、石は分厚い皮膚に弾かれ、
刃は硬い体毛に阻まれる。それは、肌にまとわりつく羽虫のように、ただ鬱陶しいだけの一撃だった。
……戦いと呼べるものではなかった。氷雪と吐血にまみれた少女たちの抵抗は、絶対的な力の前にことごとく打ち砕かれ、その息遣いだけが、かろうじて命の灯を繋いでいた。
「終わりだ、小娘ども!」
今井は、屈しかける4人を見下ろし、染み付いた獣の仕草か、その場を回りながら確信する。
だが、その傲慢さが、命取りとなった。
「……まだだよ!」
傷だらけになりながらもイムノは、不敵な笑みを浮かべていた。
「私たちの“本当の力”は……こっちだから!」
刹那、ミーティスが最後の霊力を振り絞り、両手を地面に叩きつける。彼女の祈りが、白い間欠泉を噴き上げた地面から直接起こる吹雪となって渦を巻き、今井の視界を奪った。
「なっ!」
耳を打つけたたましい音は、葉が雨滴のごとく体にまとわりつく音。
その一瞬の混沌を突き、イムノが号令を下す。
「みんな、ゲートへ!」
それ、反撃の狼煙だった。4人は、今井が制止するよりも速く、示し合わせたように一斉に駆け出し、背後の光の膜――スピリット・ゲートへと、その身を投げ出した。
「何!?」
光を潜り抜けた瞬間、世界が反転する。骨が軋み、筋肉が膨れ上がる、あの懐かしい感覚。失われた力が、堰を切ったように全身に溢れ出し、駆け巡る。
ゲートの向こうから現れたのは、もはや無力な彼女たちではなかった。
大地を揺るがすほどの巨躯。鋭い爪と牙。そして、何よりも、野性の本能に裏打ちされた、圧倒的な“力”。金色の毛皮のイムノ、燃えるような赤毛のホットショット、純白のミーティス、そして、パンダカラーのひときわ大きな体躯を誇るスヌープキャット。
――4頭の、完全な戦闘形態の「クマ」が、そこに立っていた。
「な……に……?」
今井の顔から、初めて余裕の色が消える。目の前にいるのは、先ほどまで弄んでいた小娘たちではない。自分と、あるいはそれ以上の力を持つ、本物の「獣」だった。
「さあ」
クマの姿のイムノが、低く、地を這うような声で言う。
「第2ラウンドといこうか、今井」
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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