issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 04 17
6時ごろの闇に紛れ、1台のジープが、封鎖された山岳地帯の林道を疾走していた。
轍を刻み、雪を撒き散らしながら、ヘッドライトが深い森の暗闇を切り裂く。
車内では、助手席に座る今井の沈黙と、運転席や後部座席を固める精鋭たちの熱っぽい緊張が、
異様な対比を成していた。彼らの瞳には、狂信的な光と、これから始まる聖戦への固い決意が宿っている。
「今井様、本当にこのまま突破を?」
部下の1人が、揺れる車内で緊張を滲ませた声で問う。
「案ずるな」
今井は、前方の闇を見据えたまま、静かに、しかし絶対的な自信を込めて答えた。
「この作戦が成功すれば、我らは聖地を取り戻し、お前たちは再び、誇り高きクマの姿へと還るのだ。人間どもの矮小な支配に、永遠の終止符を打つのだ」
その言葉は、麻薬のように甘く、彼らの忠誠心を灼きつくように燃え上がらせた。
(すこし、慎重に事を運びすぎたか――こいつらとの合流にずいぶん手間取ってしまった)
そんな後悔を内心抱きながら、あわただしく過ぎる景色に今井は視線を重ねている。
やがて、雪化粧の木々の切れ間から、検問所のサーチライトが放つ無機質な光芒が見えてきた。
ジープは速度を緩めることなく、むしろエンジンを咆哮させて加速し、警備にあたる兵士たちが待つ光の中へと、一直線に突っ込んでいく。
「そこの車両、止まれ!」
投げかけられる警告、網膜を焼くサーチライト――
「緊急ッ!不審車両ッ――検問を突破ッ!!」
そして、夜のしじまをズタズタに引き裂く、ライフルの発砲音。
「――行け!同胞たちの未来のために!」
今井の号令一下、部下たちは雄叫びを上げて急停車したジープから飛び出し、その車体を盾に、あるいは遮蔽物から遮蔽物へと滑り込むようにして、即座に反撃の銃火を放った。
闇が、双方の銃口から迸る無数の閃光で、ストロボのように明滅する。自動小銃の乾いた炸裂音と、クマ人間たちが持つ大口径の銃器の、腹に響く重低音が不協和音を奏でた。白い原野の戦場は瞬く間に、怒号と硝煙、そして熱せられた薬莢の匂いが渦巻く混乱の坩堝と化した。
彼らが、命を賭して「同胞たちの未来」という名の陽動を演じている、まさにその隙に。
今井は、誰にも気づかれることなくジープから滑り降り、戦場の喧騒を背に、影から影へと獣のように滑らかに移動する。忠実な部下たちの勇敢な声も、兵士たちの怒号も、もう彼の耳には届いていない。それはただ、自らの偉大な脱出劇を彩る、心地よい背景音でしかなかった。彼の目には、全てを無に帰すための目的地――スピリット・ゲートだけが映っていた。
混乱を極める検問所を、仔熊の手をひねるように潜り抜け、ついにゲートが佇む円形の広場へとたどり着く。月光に照らされたその場所は、戦場の熱狂が嘘のような、神聖な空気に満ちていた。
あと数歩。あの光の膜を潜りさえすれば、全てが終わる。
今井の口元に、世界そのものを嘲笑うかのような、勝利を確信した卑劣な笑みが浮かんだ、その時だった。
「――そこまでだよ!」
凛としたおせちの声と共に、闇の中から4人の少女が姿を現す。カルテット・マジコ。その瞳には、怒りと、そして隠しきれない焦りが浮かんでいた。
「今井二十人。君の茶番ももう終わりだ。観念して、その罪を償ってもらう」
ガンブレードを構えながら、イムノが言い放つ。
最後の急斜面を、積雪に足を取られながらも駆け上がってきたホットショットが、大きく肩で息をしながらイムノの隣に並ぶ。ぜえ、ぜえ、と荒い息を繰り返しながらも、
その口元には獰猛な笑みが浮かんでいた。
「はぁ……はぁ……”当たり”はこっちだったか。楽な仕事になると思ってたんだけどな」
「どっちだって楽な仕事ぢゃないでしょ?ハズレだったら私たちもこれから山狩りだったんだし」
「……ああ、そうだな」
ミーティスの言葉に小さく応じ、ホットショットはあらためて今井を睨みつける。
舌打ちひとつ、彼女は両の拳を強く握りしめた。
本来、どこまでも滾るはずの力が、まだ身体の奥で燻っているのを感じながら。
掌に宿ったのは、頼りない線香花火のような、か細い火花だけだった。彼女は一瞬だけ顔をしかめるが、すぐにそれを隠すように不敵な笑みを深める。
「……チッ。まだ省エネモードか。まあいい、お前なんて火の不始末でも始末してやる!」
その”異変”を、今井は見逃さなかった。
「フン……。力が戻りもしないのに、この俺を止めに来たか。殊勝なことだ」
彼は、逃げる素振りさえ見せない。目の前に並んだ4人の少女たちが、ただの虚勢でそこに立っている子とを見抜いたのだ。今井は、ゆっくりと、しかし圧倒的な威圧感を放ちながら、彼女たちへと向き直る。
最後の戦いの火蓋は、あまりにも絶望的な戦力差の中で、切って落とされた。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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