issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 04 13
簡素な倉庫の1室。裸電球の下、ノートPCの画面を囲むのは、見慣れた姿に戻った4人の少女たちだ。
画面に映し出されたのは、監視カメラの映像だった。不気味な緑色の光に満ちた部屋、その中央に鎮座する――銀色の巨大な頭部。その周囲には、冷たいガラスの壁、太く絡みつくケーブル群、そして絶え間なく沸き立つ培養液の泡。その異様な光景が、PCのモニター越しに、まるで現実と地続きであるかのような生々しさで迫る。
「おい……なんでお前がいんだよ……」
アシュリーが、思わず唸り声を漏らす。
そのとき、スピーカーからノイズ混じりの合成音声が響いた。だが、どこか空気そのものを震わせるような、現実離れした臨場感。
『――久しぶりだな、カルテット・マジコ』
機械感と知性の半々に混じったその声は、PCの枠を越え、部屋そのものに染み渡っていく。
「エイペックス……レジェンド……」
おせちが低く名を呼ぶ。その瞬間、画面の向こうの“頭部”の片目が、
紅蓮の光を帯びてゆっくりと明滅した。
『いかにも。我がサイコキネシスは、肉体の軛を離れてなお健在でね。
この程度のネットワーク・ジャックは、ピグミーネズミキツネザルの手をひねるより容易い。
……安心しろ、この通話の匿名性は26世紀水準だ。君たちの遊びのような対策とは違ってな――』
冷たくも傲慢な響きが、彼女たちの前に、形なき威圧をもたらす。
「あー、そういうこと!それなら、わざわざスティクスの海底監獄からご苦労さん。
――これで名実ともに“ミスター・ロボット”になれたってわけだな。“ドモ・アリガト♪”って歌いながらそこまで行ったのか?」
そこにアシュリーが、挑発するように軽口を叩く。その皮肉に、エイペックスは一切反応しない。
(……「スティクス」はアメリカのロックバンド。“Mr. Roboto”は彼らの代表曲のひとつで、80年代にカルト的ヒットとなった楽曲。サビで繰り返される“ドモ・アリガト、ミスター・ロボット”というフレーズは実に洗脳的で印象に残る。*PIKU)
「――んで、何の用だよ?まさか“ゴリラは改心しました”って謝罪動画でも撮りに来たの?やめとけよ。
今どきんなのネットに上げたら、すぐ素材にされて、ひまわり畑でこんにゃくみたいにグニャグニャしたダンスを踊らされるんだから」
アシュリーの人を食った言動は、言うまでもなく、彼女にとっては息を吐くのと同じことだった。
相手を怒らせようという意図すらなく、ただとめどなく口から滑り出ていくだけの言葉。だが――
『フフッ……!』
やがて、ノイズ混じりの合成音声が、途切れ途切れに音を発し始める。それは、まるでシステムが未知のエラーに遭遇したかのような、奇妙な音だった。
『ヒ……ヒヒ……ヒ、ヒャハハハ!ク、クク……こんにゃく……ひまわり畑で……!』
エイペックスの合成音声が、初めて感情らしきものを、それも腹を抱えて笑うかのような制御不能のヒステリックな発作として表出させた。
激しい笑い声は、やがて耳障りなビープ音と、[KERNEL_PANIC]という珍しいシステムアラートの点滅へと変わる。そして、ブツリ、という音と共に、画面は暗転し、通信は一方的に断絶された。
後に残されたのは、蛍光灯のうなりだけが響く、墓場のような沈黙。4人の少女たちは、ただあっけにとられて顔を見合わせるだけだった。最初に沈黙を破ったのは、おせちだった。
「あっ、これもしかして、今から彼、大事な話をするつもりだったんじゃ……!」
「……あれ、ヤバかったか?」
アシュリーが、唐突な焦りを覚えて小声で返す。さなが、恨めしそうな顔でアシュリーの袖を引いた。
「……ちょっとアシュリー!」
はちるが追い打ちをかけ、
「私のせいじゃないって!ユーモアにあふれたこの口が悪いんだ」
アシュリーはそう言って、自分の唇をぺしりと叩いた。
彼女たちが小声で責任をなすりつけ合っていると、不意に暗転した画面が、今度は不気味な翠色に明滅し、再起動シーケンスらしき文字列を走らせ始めた。
4人は息を殺してそれを見守り、やがてエイペックスの壊れた頭部がふたたび表示されると、ひそかに安堵の息を漏らす。だが、スピーカーから発せられた第一声は、
彼女たちの安堵を、純度100%の困惑へと変えた。その声は、先ほどの狂乱が嘘のように、完全に平坦で、分析的だった。
『該当動画を閲覧してきた。ずいぶん楽しそうに身体をくねらせていたな。面白かったので、いつも世話になっている刑務所の署長のアカウントで密かに高評価を入れておいたよ。
そうしたらどうだ――すでに高評価が入っていて評価自体が取り消しになってしまった。これは私の意図する行動ではない。こういったUI設計には、合理性が感じられないな』
おせちが何かを言い返そうと口を開きかけた、その時。エイペックスは、咳払いをひとつ挟んで、必死に威厳を取り繕おうとした。
『ではあらためて本題に――フッ!……フッフ……!は、入ろう。私は……ハハッ……!君たちに――ん、ゴホンッ!……取引をだな……!君達が流した噂、真実にはしたくないか?フッ!ハハハっ……!』
画面の向こうで、なおも続く、品のない笑い声。だがそれもやがて、必死に何かをこらえるような音に変わり、最終的に、こう告げた。
『――失礼。あと1分待ってくれ』
再び、気まずい沈黙が流れる。スピーカーからは、くぐもった咳払いや、深く息を吸う音だけが、かすかに聞こえてくる。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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