Issue#01 I I I Don't Want to Set the World on Fire CHAPTER 02 02
「はぁ……はぁ……弾丸旅行でさすがに疲れた。休憩しよっと」
翼を小刻みに揺らしながらそう呟いたカラスは、いちど腰を落ち着けたことでかえって息の荒さを隠そうとしなくなった。
どうも、空腹にも耐えかねていたようで、卓上に鎮座する銀の大皿――その上に敷き詰められた、コルク栓のような餌に早速くちばしを突っ込んだ。
すると、その様子を見ていたシャカゾンビが、何のためらいもなくおなじ皿へと腕を伸ばしていく。
「……ヒッヒッヒ!にしてもあの女が家族などとはな!世界を救ってしまえばそれで残りの人生は
田舎で楽隠居というわけか。……ふん!しかしそれは話が早すぎるぞ!!」
不満の混じる声とともに、彼は鳥用の餌を自身の口に押しこみ始めたのだった。
いくつかの骨板をパズルのように組み合わせただけのその顔面には、当然ながら隙間が多く、
口に含んだはずの餌は、喋るたびに横顎のあたりからそのままこぼれ落ち、乾いた音を立てながら石の床を跳ね回った。
この奇行に身をすくめた使い魔のカラスは、カートゥーンめいて大仰にすりあげる目元で静かに主人を非難する。
「……何を見とるか!用が済んだならさっさと巣に戻って寝でもしているがいい!」
声を張られると、カラスはしゅんとなった様子で肩を落とし、しょんぼりと翼を震わせながら、
部屋の隅に置かれた鳥かごのほうへと飛んでいった。
中に入るとすぐに、水飲み器の小さな管にくちばしを差し入れ、控えめに水をすすり始める。
一個の強烈な、しかも歓喜に満ちた思惑が――少なくとも2500歳を超える男の中で、年甲斐もなく躍動している。
「しかし、あのクワガタ頭の奴……どう始末すべきか。いや、まずは今の計画の完遂よ。ただ少しだけ挨拶も兼ねよう!」
快哉を上げるや男はふいに踵を返し、洞窟の奥へと歩を進めた。
シャカゾンビの歩き方は、率直に言って豪胆だ。
背筋は凛として伸び、力強く踏みしめる足取りに揺らぎはなく、
その実像と、「偉丈夫の骨格ならば、こう歩むべき」という世間の先入観が剥離することは、
すくなくとも、この場においては1度たりともない。
腕の振りもまた、周囲の視線を意に介さぬほど大仰で、
それゆえに、威厳こそが男の本質と信じる者は、立ち振る舞いだけで彼の信奉者となりかねない。
彼が歩を進めるたび、襞状になった岩屋の壁面は、その動きを追って陰影をめくるめく変化させる。
天然の岩壁が続いていたその奥に、やがてひらけた一帯が現れる。
そこは黒と黄、まさしく警戒色の手すりによって内外が厳格に区分された、鉄板敷きの広大な土地だ。
秘密組織の基地そのものの空間は、もっぱら、格納庫として使われていた。無数の鉄骨とパイプが壁、天井に隈なく絡みついてその概観を定め、床には、作業の痕跡が無数に散らばっている。
ターレーやフォークリフトが駆動音を上げてその中を蟻のよう能率的に動きまわり、
塗料ボトルが満載のメタルラックは、押し運ばれるたびに、4ヶ所のキャスターにかかる膨大な負荷を遠慮なく音で表現する。
区画の中央には巨大な作業台――タラップと足場が奇妙に融合した鋼の怪物――が鎮座し、
その近くでは、半分まで解体された戦闘機と、検査機器の数々が無数のケーブルで繋がっている。
壁の一面を占めるメンテナンスハンガーは、まるで機械の棺列だ。その半数には作業ロボットが斜めに収まって
赤い待機灯を瞬かせており、のこるロボットは、今も作業に駆り出され、金属の手を絶え間なく動かている。
ドックの両レーンには大型のターンテーブルが並んで、上には、戦闘機とヘリコプターが各1台ずつ、
展示品のように整然と配置されており、区域を覆う不動性の中には得も言われぬ不穏さが寄り添っていた。
その騒然とした空間の中心を、シャカゾンビは迷いなく踏み越えていく。
メンテナンスハンガーの列から数m離れたところにある、ATMめいた制御パネルに、
彼の古びたガントレットが触れた。
片手の指先が冷たく操作を刻んでいくと、パネル横の信号灯が赤く燃え上がり、
刹那、男から見て右側の壁全体が低くうなり、まるで地震の兆しがごとく、施設全体がおごそかに震えだす。
鉄の壁が両開きに裂け、無限の空がそこに遠々しく広がっていったのだ……!




