issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 04 09
――次の瞬間、世界は奇跡を目撃する。
光の向こうから現れたのは、獣の姿ではなかった。
見慣れた学生服や、それぞれの個性を象徴するコスチューム。
激しい戦いの記憶を瞳に宿しながらも、凛として立つ4人の少女たち――
完全な人の姿を取り戻した「カルテット・マジコ」その人であった。
夕暮れの光が彼女たちの輪郭を黄金に縁取り、その帰還は、さながら神話の一幕のように、全国ネットの電波に乗って大々的に中継された。長い逃亡と戦いの末に、ついに証明された無実。彼女たちは、多くを語らない。ただ、集まった報道陣に向かって深く、そして静かに一礼する。
その姿は、単なるヒーローの帰還以上の意味を持っていた。それは、偽りと陰謀の闇が晴れ、真実の光が差し込んだ、新しい時代の幕開けを告げる、荘厳なファンファーレだったのである。
*
カルテット・マジコの劇的な復帰は、瞬く間に世界中を駆け巡った。
そのニュースは、人々の心に安堵と興奮をもたらし、インターネットの海には、彼女たちを歓迎する独特の熱気が満ち溢れていく。
SNSでは、「#次に戦ってほしいヴィラン」と称して自分の嫌いな有名人を挙げる投稿が相次いだり、
「今度は何の動物に変身させられるのかな?」といった書き込み――どこか不謹慎だったり、
愛情のこもった“大喜利”でタイムラインが埋め尽くされる。
日本社会にとって深刻だったはずのその問題は、今や人々にとって次なる展開が待ち遠しい、
一大エンターテインメントへと昇華されていた。
まさに、世界がそんな微笑ましくも呑気な狂騒に酔いしれていた、その時。
歴史は、もうひとつの大きな転換点を迎えようとしていた。国会議事堂の会見場は、異様な熱気と緊張に包まれていた。フラッシュの閃光が絶え間なく焚かれる中、
壇上に立ったのは、これまで今井の影に隠れ、沈黙を守り続けてきた融和派の代表者たちだった。彼らは、まだ人間の姿のままだった。
代表の1人が、震える手でマイクの前に立つ。彼の瞳には、長年の葛藤と、未来への覚悟が滲んでいた。
「私たちは……長きにわたり、自らの正体を偽り、人間社会の中で生きてきました。私たちは、皆さんが“クマ人間”と呼ぶ存在です」
その衝撃的な告白に、会場は水を打ったように静まり返る。彼は、一語一語を噛みしめるように、言葉を続けた。
「しかし私たちは、今井二十人が掲げる、人間社会への憎悪と支配の思想に、与するものではありません。私たちが望むのは、争いではない。破壊でもない。ただ、静かに、この社会の一員として生きていくこと……共存です」
彼の声は、悲痛な祈りのように響き渡った。
「私たちは、今この瞬間をもって、今井の掲げる“クマ社会”と袂を分かち、人間社会の法と秩序の下に下ることを、ここに宣言します。私たちが持つ知識、情報、そのすべてを、これからの平和のために提供する所存です。どうか……私たちに、その機会を与えてください」
彼は深く、深く頭を下げた。それは、単なる降伏宣言ではなかった。種族の未来を賭けた、魂からの嘆願だった。
この歴史的な会見は、即座に熊沢の一派をも動かした。彼は、匿っていた融和派の者たちと共にメディアの前に姿を現し、この流れに合流することを表明する。
「我々もまた、融和派の皆さんと意志を同じくする者だ。今こそ、我々は過去の憎しみを乗り越え、新たな関係を築かねばならない」
こうして、これまで一枚岩と思われていたクマ社会は、決定的にふたつに引き裂かれた。一方は、人間との共存を願い、光の下へと歩み出た者たち。そしてもう一方は、今井の狂信的な思想の下、なおも深い森の闇に潜み、憎悪の牙を研ぎ続ける者たち。
幾人かの者たちは、この分裂が、避けられぬ最終戦争への序曲であることを、予感せずにはいられなかった。
*
地底帝国テラリア。その首都ラバシティの広大な中央駅は、革命の熱気も冷めやらぬまま、新たな秩序の構築に向けた慌ただしい活気に満ちている。プラットフォームの側溝を流れるマグマの赤い光が、行き交う人々や駅員たちの真新しい制服に、長い影を落としては揺らめかせている。
その喧騒の一角で、ハヤカワと、その孫娘のシノの姿が最前列に見えるハヤカワの一家は、恩人である小さな神と話し合っていた。
「本当にお世話になりました。このご恩は、一生……」
深く、深く頭を垂れる祖父の隣で、シノが不安げに口を開く。
「あの、さなちゃんたちは……大丈夫なのでしょうか」
その問いに、尊はやわらかな微笑みを浮かべた。その眼差しには、母としての包容と、すべてを見通す神としての静謐な確信が、重なり合って宿っている。彼女はそっとシノの手を取る。指先から伝わる温もりに、強張っていた少女の表情がゆるやかにほぐれていく。
「案ずることはない。あの子らは、わしの想像など軽く超えるほど逞しいからの。
では、参りましょうぞ」
尊はそう言うと、シノの腕を軽く叩き、一行を促した。その傍らには、スラッグライダー様式の装備に身を包んだ、屈強なテラリア兵たちが、中隊規模で控えている。
彼らは、女王ヨルシカから直々に貸与された精鋭であり、尊の命を受け、非公式の工作員・義勇兵として、地上のあらゆる局面でカルテット・マジコやオールラウンダーの作戦を密かに支援する手筈となっていた。
尊は彼らの方へ歩み寄り、その小さな身体に神威の一端を宿して、凛然たる声音で命じる。
「皆の者、慣れぬ地上での務め、骨が折れようが、その勇気と武勇、存分に頼みにしておるぞ」
「押忍ッ!」
兵士たちは、1つの生き物のように統率された動きで、胸に拳を当てて応えた。
やがて尊に促され、一行は地上行きの列車へと足を進める。乗り込むのは、地熱を動力とした無骨な装甲列車。重厚な扉が、蒸気を吹き上げつつゆるやかに開き、彼らを迎え入れる。その白い羽織の裾には、娘たちへの揺るぎない信頼と、安堵の色が微かに浮かんでいた。
(……まあ、あの様子なら、わしが戻るまでには何とかなっておるじゃろうな)
やがて扉が閉まり、世界を隔てる。ホームに残されたマグマの赤い光が、別れを惜しむように、列車の窓に映る白い羽織の裾をいつまでも照らしていた。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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