issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 04 06
その一方で今井は、
「……まずクマ人間ですよ?しかもその上でゴリラ人間ときた。荒唐無稽な過程の上にさらなる荒唐無稽、それではもはや陰謀論の動画としてさえ出来が悪すぎる」
と、カムイ・ディベロップメント社長の肩書きで報道陣の前に立ちもしている。
続けて彼は、マイクに向かって皮肉交じりの、いかつい笑みを落とし、
「一部のインフルエンサーが騒ぎ立てているが、政府が自然保護と人命の安全を重視するのは当然のことでしょう。私たちの事業活動や地域社会は、政府の毅然とした対応を支持する立場でなければならない」
と、きっぱり噂を一蹴する。
取材陣が食い下がるも、
「このような根も葉もないうわさ話に政府や社会が振り回されるようでは困る。
現代社会は、根拠なきデマにもっと強く対抗すべきだ」
と、冷静かつ強気な態度で噂話を煙に巻き、一般社会には「陰謀論のバカバカしさ」を始終強調した。
だが、この異常な“蓋”は、かえって、国民の不信と想像力に火を点ける結果となった。
「なぜ、ここまで徹底した封鎖を?」「やはり政府は何かを隠している」――
テレビのコメンテーターも、ネットのインフルエンサーも、この問題に形を変えて飛びつき続けた。
「ストライサンド効果」が極限まで高まり、神変山の謎は陰謀論の域を越えて、
日本社会の“核心的疑惑”として報じられ始める。
しかし、この段階において、当のクマ社会にもかつてない動揺が走り始めている。
物理的な封鎖により、聖地への出入りが無期限に断たれ、
「なぜ我々の聖域が、人間の手で封鎖されねばならないのか」
「指導部は何をしている、何を隠している」
「今井様は、なぜこれを許されたのだ……」
「まさか、あの熊沢の言葉は……」
――そんな不満と猜疑心が、急速に広がっていく。
だが何より彼らを苛んだのは、聖地スピリット・ゲートの警備体制だった。インフルエンサーという新たな脅威から聖域を守るため、彼らは、最も忌み嫌う人間――軍や警官――を、その番人として迎え入れざるを得なかったのだ。
この、あまりにも皮肉な現実は、いつ秘密が暴かれるやもしれぬという危機感以上に、彼らのアイデンティティを根底から揺るがした。人間を劣等種と見なし、その支配から脱却するために築いた聖域を、当の人間によって守られる。その自己矛盾こそが、耐え難い屈辱と苦悩の源泉となっていたのである。
「人間の目と力を借りなければ、我々は自分たちの秘密さえ守れないのか――」
その葛藤は、指導部への信任を蝕み、反主流派や過激派を活気づける温床ともなった。
*
薄暗い倉庫の1室。無造作に置かれた業務用カメラの、赤い録画ランプだけが冷たく光っている。その前に、一時的にクマの姿となったカルテット・マジコの4人が、神妙な面持ちで並んでいた。
これもまた、世界に向け、何弾かに分けて投稿された映像のひとつである。
すでに再生時間は半ば。黄金の毛並みを持つ、ひときわ珍奇なクマ――おせちが、静かに、しかし聞く者の心を捉えて離さない不思議な説得力を帯びた声で語り続ける。
「――ですが、彼らの大半には、元より皆さんを傷つける意思も、社会に混乱をもたらすつもりもありませんでした。
どうか信じてください。クマ人間の99%は、本来、皆さんの日常を脅かす存在ではありません。彼らは、私たちと同じ、この世界の住民です。
少なくとも、かつての彼らは、自分の出自に悩み、正体の露見を恐れながらも、それでも人間社会に溶け込もうと願っていた、平和な隣人でした」
おせちは続ける。その声は、罪を告白する者のようにも、あるいは、最後の真実を告げる証人のようにも、痛切に、そして誠実に響いた。
「それが今や、指導者・今井の思想に囚われています。今井はゴリラ人間で、クマたちの小さな秘密の社会に目を付けた真正の悪人です。
人間になったクマは、その瞬間に、今井の掲げる極端な思想への同意を強いられるのです。
仲間内の強固な結束と、相互監視の網の目の中で、彼らはもう、逃れる術を失っています。あ
なた方がニュースで目にする“敵対的なクマ”とは、そうして生まれた、ごく一部の者たちに過ぎないのです」
カメラの横で腕を組んでいたホットショットが、ぼそりと、しかし確信を込めて付け加える。その視線は、画面の向こうで疑念を抱き始めたであろう視聴者の心を、あらかじめ見透かすかのようだ。
「……すくなくとも、熊沢って奴の一派とは直に会った。
あいつら、本当に人間同然の暮らしをしてたよ。
いや、むしろ自分たちの出自を四六時中意識して、普通のヤツなんかよりよっぽど真面目に生きてたよ。たとえば、誰も見ていない赤信号さえ、律儀に守ってた――」
「みんな、きっとわかってくれるよね……。争いは、もう嫌だもん……」
さなが、肉球のある小さな手のひらをそっと胸の前で合わせる。その声は、希望に満ちていながらも、どこか世界の良心に問いかけるような、か細い祈りのようだった。
「ウチも獣人だから……その、いい人とはみんな仲良くしたいです!」
はちるが、一点の曇りもない瞳で、ただ純粋な思いを口にした。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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