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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#03 I I I I Dreamed A Dream

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issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 04 02

「美味しいです。……ありがとうございます」


だが、次に顔を上げた時、その瞳に宿っていたのは、安堵の色ではなかった。絶望的な状況の中から、ただひとつの活路を探し出す、冷徹な戦略家の光が、静かに灯っていた。


「……熊沢さん。彼らの“表の顔”について、どこまでご存じですか?」


突き刺すような問いかけに、熊沢は短く息を吸う。

彼女たちが子供の姿をしているだけの存在でないことを、すぐに察したのだろう。

過去を手繰るように、遠い眼差しで応じる。


「……上の方の連中なら、ひと通りは。トップは、カムイ・ディベロップメント社長の今井二十人(はたひと)。その下に、今や総務大臣の 椅子に座る篠熊鮭次郎。そして、警察組織の頂点に立つ、蜂須賀蜜助……」


社会の中心を掴んで離さない“クマ社会”の支配層。

アシュリーは、それを聞いて、うんざりしたように頭を掻いた。


「権力って意味じゃ、思ったより厄介だね。なら、そっち方面から切り崩すのは無理だ――」


おせちはさらに食い下がる。

「熊沢さん、“ゲート”の場所が動かされたりしたことは?」


「俺が潜った時から、ずっとあの場所だ。誰も動かそうなんて思ったことはない」


その言葉に、おせちは一瞬、何かを閃いたように顔を上げた。

「……よし、じゃあこうしよう」


彼女は、それまでの沈鬱な雰囲気を吹き飛ばすように、

身を乗り出す。その瞳には、大胆不敵な光が宿っていた。


「森に放火するんだ。風の強い日に、出来る限りの燃料を集めてね。その混乱に乗じて、一気にゲートへ突入する。ゲートが絶対に動かせないなら、結局はそれが1番だよ」


思い切りの良すぎる提案に、場が一瞬ざわつく。だが、おせちはあくまで真剣な顔で続けた。

「それが、絶対に確実で、イチバン早い」


しかし、おせちの言葉を、熊沢が静かに遮った。


「……待ってくれ」

その声はかすかに震え、ゆっくりと首を振る仕草にも、言葉にならない葛藤が絡みついている。


「それは、やめてほしい。放火なんてのは、本当に……どうしようもなくなった時の、最後の最後の手段にしてくれないか」

熊沢の声には、怒りも、非難もなかった。ただ、胸の奥底に沈んだ、

深い悲しみがそのまま表現されていた。


「あの森は、どんな姿になった奴にも“根っこ”なんだよ。人間になった者にも、なれなかった者にも――皆にとって、あそこが唯一の故郷なんだ……だからさ……」

言葉を選びながら、熊沢は続ける。その声音には、敵も味方も超えた、

ただひたすらに土地と種族を想う者の、切実な情がこもっていた。


それは、理屈や打算を超えた、真実のまっすぐな願いだった。

ゆえにおせちは、何も言い返すことができなかった。


放火――たしかにそれは、どこまでも合理的で、何よりも迅速かつ確実な一手だった。おせちは、状況が整いさえすれば、ためらいなく実行に移すつもりでいた。

だが、熊沢の飾り気のない言葉が、不意に彼女の胸の奥深く、守るべきものが眠るその暗がりを、ごくわずかに揺らした。


――自分たちが本当に守ろうとしているものは何だったか。


そう思い至りながら、おせちは自然と、部屋の隅で身を寄せ合う1人の姉妹へと目を向ける。


――はちる。


宇宙から来た獣人であり、いまは自分たちと同じように、不本意な姿に変えられている、かけがえのない家族。その存在そのものが、カルテット・マジコという集団がなぜ戦うのかを、いつも無言で指し示してきた。


それは、単なる人間社会の平和などではない。種族や立場の違いを越え、生きとし生けるすべての「知的生命体」が、それぞれの幸福を追求できる世界。その理想のためにこそ、彼女たちは戦い続けてきたはずだ。


はちるのような者を仲間として受け入れているこのチームにとって、それは決して譲れぬ義務であり、戦いの意義そのものでもあった。


今、目の前にいるこの男も、そして森の奥でヒトへの憎悪に囚われているクマたちでさえ、本来なら、その幸福を享受する権利を持っている。


熊沢の言葉は、合理性と効率性を追求するあまり、自分自身少しだけ忘れかけていた、その初志に、ふと立ち返らせてくれたのだ。


おせちは、手の中にある、取り柄といえば容量だけが自慢で、色艶もない粗末な茶碗をじっと見つめていた。そのささやかな温もりが、この瞬間だけは不思議と重たく感じられた。それこそが、今自分が背負っているものの、偽らぬ重さなのかもしれない。


やがて、畳に投げ出されていたはちるの手に、そっと自分の手を重ねる。獣へと変わった手指の感触をなぞりつつ、実のところ、もっと深い、言葉にできぬ何かを、その奥底から探るように、ゆっくりと揉みしだき、なでていく。


そうして無言の愛情と安堵を求めるうち、彼女の胸の奥底には、みずからの秘めたる思いが、体温に溶けて、油のようにじわじわと流れ出し、指先から相手の深層へ、ゆっくりと沁み入っていく。

――そんな、論理とは異なる領域から、ふいに訪れる不穏な予感が、ごく小さく芽吹いていた。


高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


https://x.com/piku2dgod


本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740

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