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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#03 I I I I Dreamed A Dream

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issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 04 01

CHAPTER 4



カルテット・マジコの4人は、機を見て、熊沢のトラックで村はずれのあばら家まで案内された。


“村”と呼ばれてはいるが、そこは実のところ、果てしなく続く原野にほかならない。

まるで、方針を転換した風景画に、後からそっと建物が描き加えられるかのように――

家々は、元々の景色の調和を乱さぬよう、控えめに、そして遠慮がちに点在しているにすぎない。


彼の家もまた、風雪に晒されて歪んだトタン屋根の掘っ立て小屋だった。土間に上がり込むと、扉すらない広間に畳が何枚か重ねられているだけの、殺風景な空間が広がっている。

どこか埃っぽい匂いと、煤けた柱に、この家の長い歴史が染みついていた。


夜は深く、窓の外に広がるのは、人気の絶えた道と、時折走り抜ける車のライトが描く、孤独な光の線

だけ。家の中は、4人の吐息と衣擦れの音、そして遠く風に煽られて軋む、トタン屋根のか細い悲鳴に支配されていた。


誰も笑わなかった。だが、そこに絶望的な陰りはなかった。ただ、全員がこの“身動きの取れなさ”という重苦しい現実を全身で味わい、それでもなお、心の奥で燃える意地だけを、大事に胸の内で感じ続けた。


「私たちを取り逃がしたと知った彼らが、次に何をするか。――急いで人間に戻って、社会に紛れるはずだよ」


たらいに張った薬液に、まるでイノシシが泥浴びをするように背中をしつこくこすりつけながら、

おせちが口を開く。その声には、不安と、再起の決意が同時に滲んでいた。

彼女の膝には、まだ乾ききらぬ泥の染みが、逃走の名残をとどめている。


「私たちもあの門さえもっぺん潜れればなんとかなるんだがな。あいつらは結局、元の姿なら何万頭いようが敵じゃない。ただのクマなんだから」


畳にあぐらをかくアシュリーは、無意識にいぐさの繊維を爪でつつきながら、どこか空虚に言う。その言葉の裏に、思うように動かせない身体への、燃えるような苛立ちが滲んでいた。


「でも、あのゲートの周辺は、これから先、間違いなく厳重に警備される。守るのは“クマ人間”たち自身だよ。人間の手下に任せるはずがない」

水から上がったおせちは、全身の水気をぶるぶると払ってから、

淡々と事実を告げる。その傍らへ、大柄なパンダ――はちるが寄ってきて、

不器用な手つきでタオルを広げ、おせちの体をそっと拭き始めた。


「なら地下から掘るか?それとも空から急襲するか?いつも通り、奇策で行こう」

さなの、大層太くなった胴になんとか包帯を回そうと四苦八苦するアシュリーの提案は、

半分本気で、半分は、この息の詰まるような状況を吹き飛ばすための、

やけっぱちの冗談のようでもあった。


「それは、あんまりよくないね……」

広間に上がったはちるが短く首を振る。まだ慣れない、クマの身体のまま、かつての長い尻尾の幻影をゆるく揺らす仕草がやたらといとおしく、場の空気をほんの少しだけ和ませた。

「石の門が壊れたら、あの不思議な境界がどうなるか分からないよ。下手したら……戻れなくなるかもしれないから」


「……地底のマルチバーサルゲートの方は……」

さなが、助け舟を出すように、ぼそりと呟く。

「こんな体じゃね。北海道から出ることすら、まず叶わないでしょ。つまり敵にとっても私たちにとってもここからが本当に決戦さ」

いそいそと畳の間まで上がってくるおせちが、自分に言い聞かせるように答えた。


――沈黙。外の風が家を揺らし、どこか遠くで、何かが倒れる乾いた音がした。ひと通りの治療を終えた4人は言葉を失い、互いの存在だけが頼りという、この世界の最果てのような空間で、

身を寄せ合っていた。


「敵の正体も、強さもわかった。だからこそ、もどかしい。……母さんが今井さえ倒してくれれば、それで終わる話なのに」

おせちは、自分の感情を整理するように、そう口にした。


(……もちろんそんな楽な勝ち方、作者が許すはずないだろ?*PIKU)


「でも、ママには連絡できないよ。どこで傍受されるか、分からないし……」

その声に、他の3人も自然と意識を深める。

そこには、会いたくても会えない者への痛みと、状況をどうにもできない苛立ち、そしてごく純粋な寂寥だけが色濃く滲んでいた。


しばらくして、熊沢が粗末な湯呑みを4つ並べてやってきた。

「大したもんじゃないが、飲んでくれ。今の体なら、こっちの方が合うだろう」

差し出された椀から立ち上るのは、蜂蜜をたっぷり溶かした紅茶の、じんわり温かい甘み。


アシュリーが一番乗りで器を掴み、豪快に口へ運ぶ。

「ウメーウメー!」


そのあけすけな歓声に、3人の頬にもほのかな安堵が差し込む。


畳の上に集まる4人と1人。夜明けにはまだまだ遠そうだった。


おせちは、粗末な湯呑みを両手で包み込むと、ハチミツ湯の柔らかな甘みを、ゆっくりと味わった。温かい液体が、凍えた身体だけでなく、張り詰めていた心まで、じんわりと解きほぐしていく。彼女は、ほっと一息ついた。


高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


https://x.com/piku2dgod


本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256

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