issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 19
次の瞬間、群衆の只中から、噴水のように歓声が湧き上がる。
「今井さん!」
「ボス!」
「IMA20!」
一斉に轟く太い声が、盆地全体を振動させる。大岩の上、IMA20は誇らしげに両腕を掲げたまま、観衆を睥睨している。
熱狂と畏怖が交錯するその渦中――
カルテット・マジコの4頭は、そっと輪の外縁に紛れ込む。
人間のころの習性を拭いきれないはちるが、思わずうつむき加減にぼそりと漏らす。
「まさか本当に……クマ社会の秘密会議に紛れ込むことになるなんて」
「大丈夫、今は見た目も何も完全に現地グマだろ?」
アシュリーが押し殺した声で励ます。わざと紅蓮の毛並みを逆立て、堂々とした風格を装う。
「下手なこと言ったら、たぶん終わるよ……」
おせちは、クマ人間の異様な熱気を全身で感じながら、少しでも目立たぬよう背中を丸める。
「同胞たちよ――」
今井の咆哮は、盆地の空気そのものを震わせた。
「今夜の会合を、俺達熊社会が進むべき道を定める、決定的な場とする。
何人かはすでに耳にしているだろうが、“カルテット・マジコ”を名乗る人間の超能力者集団に、ついに俺達の存在が嗅ぎつけられた。
空縁州の同胞たちは撤退を余儀なくされ、ここ北の古き地にも、危機の波が及びつつある――」
「……篠熊、蜂須賀」
呼ばれた2頭のクマが、石の壇上へ躍り上がる。
どちらも堂々たる体躯で、だが身のこなしには不思議な洗練がある。
「――総務省大臣、篠熊だ。現時点の状況を報告する。
人間社会では昨日付で“カルテット・マジコ”が国家規模の指名手配リストに掲載された。
新聞、テレビ、ネット、あらゆるメディアが“超常テロリスト”と糾弾し、
社会全体が奴らを危険視している」
パチパチと焚き火がはぜる音を背に、蜂須賀が静かに言葉を継ぐ。
「警察庁長官、蜂須賀です。既に多くが知っているだろうが、カルテット・マジコは人間としてはきわめて異例の力を持つ存在だ。
我々の息のかかった者たちも各地にいるが、現在、逃走中の彼女たちの所在は一切つかめていない」
その言葉を聞いて、篠熊はしんみりと頷く。
「空縁州での1件についても、裏で我々が手を回し、調査の遅延を図った。だが近頃、“クマ社会”という名そのものが、人間側の捜査線上に浮上する危険が日に日に増している。
特に連中がこの北の本拠へ迫ってきた今、1手でも誤れば、すべてが瓦解するおそれがある」
そして今井が岩上から全体を見渡し、総括する。
「――おおむね、そういった情勢だ。今必要なのは、同胞すべての冷静な知恵、そして断固たる決意だ。
俺達はこれからどう動くべきか?さあ、意見を聞かせてくれ」
今井のひと言を皮切りに、熊たちの輪から鬨の声が上がる。
焚き火が夜気に小さな火花を撒き、巨大な毛並みと爪、そして怒りと恐れと野心が、黒々と波打つ。
「もう黙ってはいられん!このまま人間どもに好き勝手されてはおれん!」
「そうだ、機先を制しよう。全面戦争で奴らを蹴散らす時が来た!
今こそ、我々の正体が完全には露見していない“今”が、最大の好機だ」
「しかし、相手は人間社会全体……数の差は歴然だ。下手に蜂起すれば、根絶やしもありうる。
従来通り森に潜み、カルテット・マジコという差し迫った脅威のみを排除するのが賢明ではないか」
焚き火の明滅が、クマたちの瞳に反射する。
言葉のひとつひとつが、ただの議論ではなく、明日を左右する命の綱だった。
そのざわめきの中、今井が再び岩の上に直立し、静かに、しかし確信に満ちた声で言った。
「……なるほど。捨てがたい意見ばかりだ。だが」
今井は、熱狂する群衆を睥睨し、その喧騒を、ただ一言で制した。
「俺は、断固として行動することを選ぶ」
その絶対的な宣言に、誰もが息を呑む。その時だった。
「今井さん――」
集会の熱気を裂くように、若いクマの声が場を貫いた。盆地を照らす焚き火の明滅が、その真剣な横顔を浮かび上がらせる。
「もし……もし、俺たちが戦争に勝利した場合、人間をどうなさるおつもりですか?」
その問いに、今井は一切の逡巡なく断言した。
「決まっている。生殺与奪の権利も含めた、完全な支配だ」
その答えはあまりにも冷徹で、若いクマの胸中に宿っていた理想をいとも容易く打ち砕いた。それでも彼は、残る勇気を振り絞る。
「ですが、全ての人間が敵というわけでは……!中には、我らと同じく、自然を敬い、共に生きる者もいるはずです。彼らの中から“名誉市民”のような存在を認め、共存の道を模索する余地は……。
そうでなければ、こちらも数の上では分が悪いのでは……」
ふと、歩き出した今井の背中から放たれる、絶対的な威圧感。場の空気は押しつぶされるように重くなり、若いクマの声は、次第にしどろもどろになっていく。
「……愚か者が」
その言葉が、全ての音を奪った。今井の体から放たれる純粋な圧力が、盆地の空気を鉛のように重くし、熱狂していた群衆の呼吸までも縫い止める。
若者の前で今井はぴたりと動きを止め、次の瞬間――その右腕が鋭く振り下ろされた。
雷鳴のごとき衝撃音。若き同胞は、宙を舞って数m先へと叩きつけられる。
盆地は一転して声を失う。土に伏して呻く若熊を見下ろし、今井は刃物のような声音で言い放った。
「名誉市民?共存だと?……お前が言っているのは敗北主義者の理屈にすぎん」
今井の声は、淡々としていたが、その一語一語が、若熊の心臓に杭を打ち込むように響いた。
「人間どもは俺たちの土地を侵し、仲間を狩り、その亡骸を戦利品として飾ってきた連中だ。
やつらと手を結ぶ道などない。あるのは支配か、あるいは絶滅か。それ以外は存在しない。忘れるな――この大地の主が誰なのかを」
重苦しい静寂が、盆地を支配する。その場に集うすべてのクマが、今井の言葉を一語も聞き漏らすまいと、身じろぎもせず固唾を飲んでいた。
外周からその光景を覗き見ていたおせちは、息を呑みつつ必死に状況を整理していた。
(人間の舌には合わないラーメン、猟師への執拗な憎しみ、そして今この場で下された苛烈な粛清――)
(――これは単なる縄張り争いじゃない。彼らの団結の根には、混じり合うことのない“純血”への執着と、人間への根深い憎悪が渦巻いている……)
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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