issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 18
互いにアイコンタクトを交わし、息を合わせて、4人は同時にゲートへ飛び込んだ。
――世界が一転する。
はじめに覚えたのは、冷たい水に飛び込むようなショック。骨と肉が逆流し、全身の感覚が再構築される奇妙な“異化”。意識は保たれたまま、筋肉や皮膚が、急速に、しかし滑らかに組み替えられていく。
その最中、光の狭間に、長い髪の女の幻影が、一瞬よぎる。
意味深な微笑み――誰かがこの光景を見守っている。
次の瞬間、彼女たちは、圧倒的な体格と感覚を手に入れていた。
雪に覆われた夜の森。だが、世界が違って見える。視界は幾分淡くなり、代わりに風の流れと、数100種の匂いが、頭の中で地図となって広がる。
手足は太くたくましく、白い地面を確かに踏みしめる。己が“クマ”の肉体に転じていることを、全員が否応なく知覚する。
「……ゴリラの次はクマ……あと何で干支コンプになる?」
アシュリーが、熊の姿のまま、半ばあきれ顔で呻いた。
「クマは干支じゃないよ!」
すかさず、はちるが四肢を踏みしめて反論する。
「よし、じゃあ戻るぞ!」
アシュリーが低く号令をかけると、服をかわいらいしく着こなした4頭のクマたちは、1列に並んで四肢をちょこまかと動かし、早送り映像のような素早さでゲートへと突進した。
スピリットゲートの膜を、まるで川遊びのようにくぐり抜けた瞬間――彼女たちの身体は、するりと元の人間の姿へと変じていた。
「……問題なし。ちゃんと戻れた」
おせちが、手足を確かめながら安堵の息をつく。
「よし、再突入!」
アシュリーが右手を掲げる。
そして4人は、迷いのない小走りでもう1度ゲートを突き抜けるのだった。
*
4頭のクマが、変身した先で互いの身をこすり付け、
その、じゃれ合いの中で次の1手をそれとなく考える。
ほどなくして、高められた彼女たちの嗅覚が、風下から漂う異様な気配をとらえた。
「……!」
光と熱、そして膨大な同族の匂い――いまや大柄のパンダとなったはちるが低く喉を鳴らし、他の3人に合図を送る。
「……あっちだ。すごい匂い……何万頭分って感じがする」
彼女の導きに従い、4頭は森を抜け、急な斜面を這い登る。
やがて、眼下に広がる盆地の光景が、視界を一気に焼き付けた。
「な、なんだこれ……ボリショイサーカスか!?」
アシュリーが、思わずうめく。
盆地の底には、まるで古代の祭壇のように、巨大な一枚岩が鎮座していた。雪は丁寧に除かれ、かがり火の光に基づいた熱気だけがうねっている。
その岩を囲むように、無数の熊たちが、すさまじい規模の渦を巻いていた。衣服をまとい、2本足で立つその姿は、いずれもただの獣とは言いがたい。
ある者は毛皮のコートを羽織り、ある者は仕立ての良いスーツを身に着けている。
体格も毛色も様々だが、その瞳だけは、等しく狂信的な光を宿していた。
手には、はちみつドリンクのカップや、軽食の紙パックが握られて
いる。誰かが野太い声で鬨の声を上げれば、それに呼応して、地鳴りのような歓声が盆地全体を揺るが
す。甘ったるい匂いと、獣の体臭、そして尋常ならざる熱気が、むせ返るように立ち込めていた。
それは、秘密の集会というより、むしろ何かのフェスティバル――あるいは、これから始まる「聖戦」の前夜祭のように見えた。
「これ……みんな普段は人間に化けてるのかな?」
はちるが、ごく小さな声で問いかける。
「ちょっと待ってよ、さすがにこれは多すぎない?」
おせちも、集団の規模に唖然としながら、周囲の様子を細かく観察していく。
「……見て。輪の端っこに、警備服のクマが歩いてる」
そして、ふとそんな異様さに目を留めた。
「かわいい……!」
その目線を追ったさなは、無邪気に瞳を輝かせる。
「巡回してるのかな?あれ、たぶん警備だよ」
と、おせちは抑えた声で断じた。
その時だった。
ひときわ堂々たる体躯のヒグマが、輪の中心にそびえる岩へとゆっくり登る。
それを合図に、盆地を埋め尽くすすべてのクマたちの視線が、一斉に中央へと集まった。喧騒が溶け、場の空気が引き締まる。
「……なんか、始まるぞ」
アシュリーがそっと呟いた瞬間だった。
巨大な熊が岩の上で立ち上がり、人間のように腕を掲げて夜空を指した。
「……IMA20」
アシュリーが低く名を呼ぶ。
「間違いない。ハヤカワさんが話してた、15年前に追い詰めたあのヒグマだよ……!」
その言葉で、おせちも思わず息を呑んだ。
盆地の中央で岩を制する、あの圧倒的な巨体――否、もはや獣とは思えぬほどの意志と存在感。
その姿をまざまざと目の当たりにして、彼女はそこから視線を逸らすことができなかった。
「え、じゃあまさか――」
さなが、息を呑む。
「姿が変わってない……。15年前にすでに成獣だった個体が、今も健在なんて、常識的にあり得ない。やっぱり人間になってるんだ」
おせちは、異常事態を理知で受け止めつつ、その背筋に寒気を覚えていた。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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