issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 17
その夜。霧多町の隣町にある、薄汚れたビジネスホテルの1室。顔を知られていないはちるが手配したその部屋に、残る3人は、夜の帳が降りると同時に窓から忍び込んだ。
カーテンは半分閉ざされ、蛍光灯の淡い光だけが、室内の隅々をぼんやりと照らしている。
テーブルには、町の地図と、日中のはちるによる聞き込みメモが何枚も広げられていた。
4人はその周りに身を寄せ、言葉すくなに作戦会議を始める。
「カムイ・ディベロップメント……それからクマを退けたという謎の装置。例のラーメン屋も、そこから食材を仕入れてたんだろうね」
おせちは、地図上の関連箇所を指でなぞりつつ、端的に要点を整理する。
「ヒントっぽいものは見えてきたけど、どうやってクマ人間が生み出されてるかがまだわかんないね。
生まれつきなのかな?それとも何かのきっかけでなるのかな?その機械とかさ」
彼女の声音には、理性的な冷静さと、かすかな緊張が滲んでいた。
アシュリーが、肘をつきながらにやりと笑う。
「……やっぱりあのラーメンが怪しいって。なんか薬でも仕込んであって、食べた人間がクマになるんだよ」
「あっ……もし本当にそうだったら……」
さなが、不安げに眉を寄せて呟いた。
「この前のおじさんは、もう……」
重たい空気が、部屋に沈み込む。
しばらく沈思していたおせちが、不意に顔を上げる。
「――そういえば。あの店主が、こんなこと言ってたって覚えてる?『自分の故郷は、北海道の山奥』だって」
そう言うと、彼女は手元のノートPCを開き、超人的な集中力でキーを叩き始めた。
衛星写真、地理院の地図データ、古い国勢調査の記録……必要な情報が次々に画面上で組み合わされていく。
やがて、おせちの指がぴたりと止まる。
ディスプレイには、北海道の広大な原生林の中に、ぽつりと記された1つの山の地形データ。
「……あった。確かにこの山だ。地名も残ってる。でも……」
おせちの声が、無意識に低くなる。
「――周囲には集落も、人家も、何もない。国有林の奥には道も通じていない、完全な無人地帯だ――」
その言葉に、全員が息を呑んだ。人の住まぬ山を、「故郷」と呼ぶ店主――。
静寂が部屋を支配する。しばらく、誰も口を開かない。
だが、アシュリーだけが、不敵な笑みを浮かべた。
その目には、獲物を前にした猛禽の光が宿る。
「……そういうことか。つまり、連中の秘密はそこにあるってわけだ」
その瞬間、テーブルを囲む4人の目が鋭く重なる。
今、この町の“表”で語られる出来事と、“裏”で進行している計画、その両方の糸が、1点に収束したのだった。
*
北海道の森は、外来者を寄せつけぬ冬の気配に満ちていた。
踏み入れるたび、膝下まで埋まるほどの新雪が、4人の少女の進路を遮る。雪面には獣の足跡や、
ところどころで小枝が折られた痕跡だけが残り、森の奥へ続く道筋をかろうじて示している。
あたり一面、視界は闇と白さに閉ざされ、低い雲が枝越しに広がる。
歩を進めるごとに、粉雪が衣服の裾に降り積もり、頬や指先が切りつけられるような寒さにさらされる。木々は雪の重みにしなり、わずかな風に反応して枝が揺れ、雪片がさらさらと降り注ぐ。
遠くでは、エゾリスが雪を蹴って走り去り、梢の上にはカラスが黒い影を落としている。
都市での暮らしとはまるで異なる、荒々しい季節の力だけが、この土地の空気を支配していた。
「……本当にこの道で合ってるんだよな?」
アシュリーが、またもや雪に深入りしたブーツをうざったそうに引き上げつつ、落ち着かない目で周囲を見渡す。その問いに、先頭を歩くはちるは、自信たっぷりに振り返った。
「大丈夫。風に、すごく新しい匂いがあるから」
獣だった頃の本能が、迷いなく進路を示していた。
やがて一行は、樹々が輪を描いて広がる円形の空間へと足を踏み入れた。そこには、年月に削られた雪降りつもる石門が、異様な調和のもとに佇んでいる。
その構造は、ストーンヘンジの組石を原型に、どこか和とアイヌの意匠が融合したような、歴史の混淆を思わせるものだった。
だが最も目を引いたのは、門の中心で波打つ“膜”――紫、蒼、白の光が、まるで垂直に張った湖面のように揺れ続けていた。
「……スピリットゲート、ってとこかな」
おせちが、小さな声でつぶやく。未知の力に対する緊張が、声の奥に色濃く滲んでいた。
「ほら見ろ、こうなると思った!”ゲート”はもうこりごりなんだけどな」
アシュリーは、テラリアでの騒動を思い出し、苦々しい顔でぼやく。
「見てわかるぐらい、空気の層が歪んでる……」
さなが、不安と興味が入り混じった目でじっと見つめる。
そのまま門に歩み寄ったアシュリーは、好奇心に駆られ、指先をそっとその“薄膜”に突き立てた。
瞬間、指の先だけが、ごつごつした毛で覆われた巨大な熊の手へと変化する。
「わっ!何だコレ!?……」
慌てて引き抜くと、元の華奢な指へと戻る。
「……思ったより、クマ化のハードル低かったな」
アシュリーが気まずそうに笑った。
「人が通ればクマ、クマが通れば人になるってコト?」
はちるが首をかしげる。
そして全員の視線が膜の向こうに引き寄せられる。「答えは、試すことだけで得られる」――その直感が、彼女たちの心をひとつにする。
高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。
https://x.com/piku2dgod
本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256




