issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 15
地元の港から、次の港へ。
カルテット・マジコは、中型漁船のブリッジで、潮と魚の残り香にまみれながら、息をひそめていた。
揺れる照明の下、衛星テレビの画面だけが不安な光を投げている。
そこには、「重要指名手配犯」として報じられるニュースが、途切れ途切れに映し出されていた。
『……世界を救った英雄がなぜ、超人テロリスト集団に』
『専門家によれば、彼女たちの能力は国家転覆さえ可能とされ……』
画面に映る、少し前の自分たちの写真。冷たいゴシック体で「極めて危険」の文字が躍る。
「……ひどい言われようだね。テロリストだってさ」
おせちは、乾いた声で呟いた。
「まあ、実際、街のひとつやふたつは半壊させてきたしな」
アシュリーは椅子にあぐらをかきながら、どこか面白がるような光をその瞳に浮かべる。
ニュース画面には、繰り返し自分たちの顔写真が映る――だがそこに、“いま”のはちるの姿はない。
先の戦いで彼女の姿が大きく変わったことは、まだ世間には知られていない。それが今やカルテット・マジコの唯一にして最大の希望となっていた。
*
夜明け間際の北海道。港には、朝靄と冷たい海風が、じっとりと深く沈み込んでいる。岸壁に着いたばかりの小さな漁船の甲板は、潮と氷の粒でぬめり、滑りやすくなっていた。遠くの灯台は、赤い回転灯をぐらぐらと回し、その明滅を、重みに振り回されているかのように、ゆっくりと繰り返していた。
4人の少女は、ほとんど無言のまま防波堤の影へ身を潜める。吐く息はすぐ白くなり、髪やコートの裾が凍てつく空気に叩かれている。遠くには貨物列車の低いブレーキ音、雪化粧のコンクリートの上を、1匹のネコがすばやく横切っていった。
「ここから先は、はちるが私たちの目になり耳になる」
おせちが、まだ夜の名残を引きずる声で告げる。
「シッポにはならなくていいの?」
はちるだけが、慣用句の意味をつかみかねて不思議そうに問い返したが、
誰もそれを正そうとはしなかった。
「私たちは、影からサポートするから。……はちる、お願いね」
さなの指先が、冷えきったフードの裾にそっと触れる。その手は、まるで命を終えた真っ白な大蜘蛛が、死後硬直のまま足を複雑に絡み合わせ、静かにそこに留まっているかのようだった。
触れた瞬間、ひやりとした布地の感触に、かすかな緊張が漂うが、それでも、そのあえかな手つきには、見守る者の祈りがそれ以上に込められた。
「うぅん……」
釈然としないままはちるは、慣れない両手でフードを目深に引き、
きゅっと唇を結ぶ。その眼差しには、北風を正面から受け止める決意と、姉妹たちの信頼に応えようとするひたむきさが宿っていた。
防波堤の向こうには、今しも、朝日がおぼろげに昇ろうとしていた。鉛色の空を、北の海鳥が群れとなってかすめてゆく。少女たちは、新たな土地で、再び「見えない敵」との戦いを始めるのだった。
*
彼女たちがたどり着いたのは、渡島半島の奥深く、山あいに埋もれるように息づく小さな町――霧多町だった。
かつてハヤカワが暮らしたというこの土地には、朝もやが低く垂れ込み、うっすらと雪が積もる。寒さは皮膚を刺すほどに鋭い。
はちるはバス停の高台から、谷間に広がる町並みを見下ろす。時の流れから取り残されたかのような、侘しさと静けさが支配していた。
細い道路に沿って、古ぼけた木造家屋や、斑に錆びたトタン屋根の商店が肩を寄せ合う。かつては活気があったであろうメインストリートも、アスファルトの割れ目から雑草が伸び、閉じられたシャッターが軒並み沈黙を守っている。
町の中心には、雪解け水を湛えた細流が、ガラスのような透明感で流れていた。その両岸には、人の手が久しく入っていないと思われる雑木林が、ひそやかな影を落とす。
さらに遠くには、町の名の由来ともなった、常に霧をまとう峻厳な山々が、空と大地を分かつ屏風のごとく連なっている。
耳を澄ませば、川面を撫でる水音と、まれに遠くの踏切が響かせるベルの音色だけが聞こえてくる。空気には湿った土の匂いと、どこか煤けた石炭の残り香。
商店の軒先には、色あせた木彫りの熊が、過ぎ去った日々の番人のように据えられていた。
――それは、忘れられた土地の残り香と、どこかしら美しくも寂しげな風景だった。
「……ここが、おじいちゃんの……」
シノから聞かされていたことと、目前に広がる情景とが、はちるの胸の内で静かに重なり合う。
彼女の背後――ひそかに様子を見守る3人もまた、これから始まる任務の困難さと、この町に横たわる得体の知れぬ闇を直感的に感じ取っていた。
はちるは息をのみ、じっと眼下の町を見据える。獣人だった頃より色っぽさをずっと増した目つきには、不釣り合いな幼さと不安、そして姉妹の期待に応えようとする強い決意が宿っていた。
――こうして、彼女にとって初めての単独任務が、いま静かに幕を開けたのだった。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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