表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#03 I I I I Dreamed A Dream

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

201/289

issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 15

地元の港から、次の港へ。

カルテット・マジコは、中型漁船のブリッジで、潮と魚の残り香にまみれながら、息をひそめていた。

揺れる照明の下、衛星テレビの画面だけが不安な光を投げている。

そこには、「重要指名手配犯」として報じられるニュースが、途切れ途切れに映し出されていた。


『……世界を救った英雄がなぜ、超人テロリスト集団に』

『専門家によれば、彼女たちの能力は国家転覆さえ可能とされ……』


画面に映る、少し前の自分たちの写真。冷たいゴシック体で「極めて危険」の文字が躍る。


「……ひどい言われようだね。テロリストだってさ」

おせちは、乾いた声で呟いた。

「まあ、実際、街のひとつやふたつは半壊させてきたしな」

アシュリーは椅子にあぐらをかきながら、どこか面白がるような光をその瞳に浮かべる。


ニュース画面には、繰り返し自分たちの顔写真が映る――だがそこに、“いま”のはちるの姿はない。

先の戦いで彼女の姿が大きく変わったことは、まだ世間には知られていない。それが今やカルテット・マジコの唯一にして最大の希望となっていた。


*


夜明け間際の北海道。港には、朝靄と冷たい海風が、じっとりと深く沈み込んでいる。岸壁に着いたばかりの小さな漁船の甲板は、潮と氷の粒でぬめり、滑りやすくなっていた。遠くの灯台は、赤い回転灯をぐらぐらと回し、その明滅を、重みに振り回されているかのように、ゆっくりと繰り返していた。


4人の少女は、ほとんど無言のまま防波堤の影へ身を潜める。吐く息はすぐ白くなり、髪やコートの裾が凍てつく空気に叩かれている。遠くには貨物列車の低いブレーキ音、雪化粧のコンクリートの上を、1匹のネコがすばやく横切っていった。


「ここから先は、はちるが私たちの目になり耳になる」

おせちが、まだ夜の名残を引きずる声で告げる。


「シッポにはならなくていいの?」

はちるだけが、慣用句の意味をつかみかねて不思議そうに問い返したが、

誰もそれを正そうとはしなかった。


「私たちは、影からサポートするから。……はちる、お願いね」


さなの指先が、冷えきったフードの裾にそっと触れる。その手は、まるで命を終えた真っ白な大蜘蛛が、死後硬直のまま足を複雑に絡み合わせ、静かにそこに留まっているかのようだった。

触れた瞬間、ひやりとした布地の感触に、かすかな緊張が漂うが、それでも、そのあえかな手つきには、見守る者の祈りがそれ以上に込められた。


「うぅん……」

釈然としないままはちるは、慣れない両手でフードを目深に引き、

きゅっと唇を結ぶ。その眼差しには、北風を正面から受け止める決意と、姉妹たちの信頼に応えようとするひたむきさが宿っていた。


防波堤の向こうには、今しも、朝日がおぼろげに昇ろうとしていた。鉛色の空を、北の海鳥が群れとなってかすめてゆく。少女たちは、新たな土地で、再び「見えない敵」との戦いを始めるのだった。


*


彼女たちがたどり着いたのは、渡島半島の奥深く、山あいに埋もれるように息づく小さな町――霧多きりた町だった。

かつてハヤカワが暮らしたというこの土地には、朝もやが低く垂れ込み、うっすらと雪が積もる。寒さは皮膚を刺すほどに鋭い。


はちるはバス停の高台から、谷間に広がる町並みを見下ろす。時の流れから取り残されたかのような、侘しさと静けさが支配していた。

細い道路に沿って、古ぼけた木造家屋や、斑に錆びたトタン屋根の商店が肩を寄せ合う。かつては活気があったであろうメインストリートも、アスファルトの割れ目から雑草が伸び、閉じられたシャッターが軒並み沈黙を守っている。


町の中心には、雪解け水を湛えた細流が、ガラスのような透明感で流れていた。その両岸には、人の手が久しく入っていないと思われる雑木林が、ひそやかな影を落とす。

さらに遠くには、町の名の由来ともなった、常に霧をまとう峻厳な山々が、空と大地を分かつ屏風のごとく連なっている。


耳を澄ませば、川面を撫でる水音と、まれに遠くの踏切が響かせるベルの音色だけが聞こえてくる。空気には湿った土の匂いと、どこか煤けた石炭の残り香。

商店の軒先には、色あせた木彫りの熊が、過ぎ去った日々の番人のように据えられていた。


――それは、忘れられた土地の残り香と、どこかしら美しくも寂しげな風景だった。


「……ここが、おじいちゃんの……」


シノから聞かされていたことと、目前に広がる情景とが、はちるの胸の内で静かに重なり合う。


彼女の背後――ひそかに様子を見守る3人もまた、これから始まる任務の困難さと、この町に横たわる得体の知れぬ闇を直感的に感じ取っていた。

はちるは息をのみ、じっと眼下の町を見据える。獣人だった頃より色っぽさをずっと増した目つきには、不釣り合いな幼さと不安、そして姉妹の期待に応えようとする強い決意が宿っていた。


――こうして、彼女にとって初めての単独任務が、いま静かに幕を開けたのだった。


高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


https://x.com/piku2dgod


本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ