表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#03 I I I I Dreamed A Dream

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/295

issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 12

「ハヤカワさん?知ってんのか!?」

その、妙な反応を察した男が、反射的に声を上げ、そのまま堰を切ったように語り始めた。

「彼は、俺の師匠で……20年来の、親友なんだ。北海道で、ずっと一緒に熊を追ってた……」


男は、すべてを語った。ハヤカワと同じく、度重なる規制と嫌がらせに耐えかねて猟師を引退し、この街に越してきたこと。偶然、故郷の味が濃縮されたかのような――あのはちみつラーメンを見つけて、心の底からの感動を覚えたこと。


その店が消え、途方に暮れたあげく、旧友の店を訪ねたこと。

けれども、そのラーメンは、彼の渇望する「何か」を満たしてはくれなかったこと――


「バイク? ああ、軽トラの前に停まってたから、どかしただけだよ。

……俺にもちょっとばかり“能力”ってのがあってな、いや、あんたらほどじゃないが。それにしたって腰はやっちまったさ」


「……木彫りの熊?北海道の人間なら誰だって持ってるもんだろ!それにあの頃の仕事は今でもずっと誇りだし」


「……鮭とば?あれは腹が減ってたからだ!仕事帰りの、最高のおやつなんだよ!」


ひとつひとつの“証拠”が、拍子抜けするほど普通の生活の断片へと還元されていく。

そのたびに、少女たちの思い込みも霧のように薄れていくのだった。


やがて、すべてを吐き終えた男の前に残ったのは、呆然と立ち尽くす4人の少女だけだった。


――つまり彼は、はちみつラーメンをこよなく愛する、ごく普通の”おじさん”だったのだ。


*


おせちは額に手を当て、肩を落とす。アシュリーは視線を宙に彷徨わせて口笛を吹き、さなは「ご、ごめんなさい!」と、涙声で何度も繰り返す――部屋に漂うのは、筆舌に尽くしがたい気まずさだけだった。


テレビの向こうから流れるお笑い芸人の高笑いが、やけに空疎に響く。


「おい、どう落とし前つけてくれるんだよ!」


男の叫びが、密室の空気を貫く。

その目には、先ほどまでの恐怖に変わって、市民としての正当な憤りがはっきりと宿っていた。


「カルテット・マジコだろうとなんだろうと、このことはキッチリ警察に通報させてもらうぞ!」


震えを押し殺しながらも、男の声は決然としている。


ヒーローチームによる民家への不法侵入と脅迫――その1件が、自分たちにもたらす社会的な破滅を思えば、背筋が凍るような思いだった。


「本当に、本当に申し訳ありません!それだけは、どうかご容赦を――!」


おせちは、ほとんど叫ぶように謝罪し、勢いよく頭を深く下げる。

その鮮やかすぎる動きに、さなもアシュリーも一瞬遅れて従うが、

はちるだけは、空気に流されきれず、どこか別の“違和感”に心を捕らえられていた。

姉妹たちの動きを半ば惰性でなぞりながらも、その視線は宙をさまよい、思案の沼に沈んでいく。


「この後、どうしても北海道に行かなければならないんです。そこでの事件が解決してからなら、今回のことは公にしてくださっても構いません。

どんな裁きであろうとしっかりと受け止めます。今回のことは、完全に私たちの失態ですから――」


だが、男の怒りが和らぐ気配はない。

無言の張りつめた緊張が、部屋を重く包み込む。

その均衡を破ったのは、実直な謝罪の円から少しだけ距離を置く“はちる”だった。


彼女は、ぺこりと頭を下げたままで、また鼻をひくつかせる。

そして、そっと顔を上げ、何かを確かめるように男の顔をじっと見つめる。


「おじさん、あのっ」


「あん?」


「……この匂い、家で再現しようとしてるんでしょ?……あのラーメン。……ウチ、作れるよ」


室内の空気が、一瞬にして変わった。男も、謝罪の体勢のまま固まった3人も、茫然としたままはちるを見つめる。


「はちる……?何を言って……」

「ホントだよ、おせち。あの味、ぜんぶわかる。匂いも、舌の感じも、ぜんぶ。今でも頭の中にあるから。それで許してくれませんか?」


その眼差しには、先ほどの迷いとは別種の、天性の資質に裏打ちされた確信が息づいていた。

男は、激情も忘れて呆けたように少女を見つめる。その表情に、ごく微かな希望の色が混じる。それを、おせちは見逃さなかった。


「……作らせて、いただけませんか。この通りです」

おせちは、もういちど深く頭を下げた。


高評価やブックマーク、本作のご紹介、Xのフォローなどで応援いただけますと幸いです。制作の大きな力になります。


https://x.com/piku2dgod


本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25490740

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26572256

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ