issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 12
「ハヤカワさん?知ってんのか!?」
その、妙な反応を察した男が、反射的に声を上げ、そのまま堰を切ったように語り始めた。
「彼は、俺の師匠で……20年来の、親友なんだ。北海道で、ずっと一緒に熊を追ってた……」
男は、すべてを語った。ハヤカワと同じく、度重なる規制と嫌がらせに耐えかねて猟師を引退し、この街に越してきたこと。偶然、故郷の味が濃縮されたかのような――あのはちみつラーメンを見つけて、心の底からの感動を覚えたこと。
その店が消え、途方に暮れたあげく、旧友の店を訪ねたこと。
けれども、そのラーメンは、彼の渇望する「何か」を満たしてはくれなかったこと――
「バイク? ああ、軽トラの前に停まってたから、どかしただけだよ。
……俺にもちょっとばかり“能力”ってのがあってな、いや、あんたらほどじゃないが。それにしたって腰はやっちまったさ」
「……木彫りの熊?北海道の人間なら誰だって持ってるもんだろ!それにあの頃の仕事は今でもずっと誇りだし」
「……鮭とば?あれは腹が減ってたからだ!仕事帰りの、最高のおやつなんだよ!」
ひとつひとつの“証拠”が、拍子抜けするほど普通の生活の断片へと還元されていく。
そのたびに、少女たちの思い込みも霧のように薄れていくのだった。
やがて、すべてを吐き終えた男の前に残ったのは、呆然と立ち尽くす4人の少女だけだった。
――つまり彼は、はちみつラーメンをこよなく愛する、ごく普通の”おじさん”だったのだ。
*
おせちは額に手を当て、肩を落とす。アシュリーは視線を宙に彷徨わせて口笛を吹き、さなは「ご、ごめんなさい!」と、涙声で何度も繰り返す――部屋に漂うのは、筆舌に尽くしがたい気まずさだけだった。
テレビの向こうから流れるお笑い芸人の高笑いが、やけに空疎に響く。
「おい、どう落とし前つけてくれるんだよ!」
男の叫びが、密室の空気を貫く。
その目には、先ほどまでの恐怖に変わって、市民としての正当な憤りがはっきりと宿っていた。
「カルテット・マジコだろうとなんだろうと、このことはキッチリ警察に通報させてもらうぞ!」
震えを押し殺しながらも、男の声は決然としている。
ヒーローチームによる民家への不法侵入と脅迫――その1件が、自分たちにもたらす社会的な破滅を思えば、背筋が凍るような思いだった。
「本当に、本当に申し訳ありません!それだけは、どうかご容赦を――!」
おせちは、ほとんど叫ぶように謝罪し、勢いよく頭を深く下げる。
その鮮やかすぎる動きに、さなもアシュリーも一瞬遅れて従うが、
はちるだけは、空気に流されきれず、どこか別の“違和感”に心を捕らえられていた。
姉妹たちの動きを半ば惰性でなぞりながらも、その視線は宙をさまよい、思案の沼に沈んでいく。
「この後、どうしても北海道に行かなければならないんです。そこでの事件が解決してからなら、今回のことは公にしてくださっても構いません。
どんな裁きであろうとしっかりと受け止めます。今回のことは、完全に私たちの失態ですから――」
だが、男の怒りが和らぐ気配はない。
無言の張りつめた緊張が、部屋を重く包み込む。
その均衡を破ったのは、実直な謝罪の円から少しだけ距離を置く“はちる”だった。
彼女は、ぺこりと頭を下げたままで、また鼻をひくつかせる。
そして、そっと顔を上げ、何かを確かめるように男の顔をじっと見つめる。
「おじさん、あのっ」
「あん?」
「……この匂い、家で再現しようとしてるんでしょ?……あのラーメン。……ウチ、作れるよ」
室内の空気が、一瞬にして変わった。男も、謝罪の体勢のまま固まった3人も、茫然としたままはちるを見つめる。
「はちる……?何を言って……」
「ホントだよ、おせち。あの味、ぜんぶわかる。匂いも、舌の感じも、ぜんぶ。今でも頭の中にあるから。それで許してくれませんか?」
その眼差しには、先ほどの迷いとは別種の、天性の資質に裏打ちされた確信が息づいていた。
男は、激情も忘れて呆けたように少女を見つめる。その表情に、ごく微かな希望の色が混じる。それを、おせちは見逃さなかった。
「……作らせて、いただけませんか。この通りです」
おせちは、もういちど深く頭を下げた。
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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