issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 07
はちるの部屋――そこは、まるで4人の心象風景がそのまま現れたかのような、奔放な散らかり具合をしていた。
床にはゲームコントローラーやサーキュレーター、読みかけのマンガが無造作に転がり、
ちゃぶ台の上では、湯気の立つラーメン容器が5つ、まるで小さな祭壇の供物のように整然と並べられつつある。
引き戸がやや勢いよく開けられ、調査帰りのおせちとアシュリーが帰還する。
おせちは開口一番、心底うんざりした表情で宣言した。
「……もうラーメンはいいよ!」
その言葉に、ちゃぶ台を囲んでいた3人が、一斉に顔を上げた。さなは抱えていた配膳用のお盆から不満げに顔を覗かせ、はちるは畳をはたいていた尻尾の楽しげな上下運動をぴたりと止め、そして母、吉濱尊は、鷹のような鋭い視線をおせちとアシュリーに投げかけた。
「えーっ、待ってたのに!」
「ウチ、お腹すいた!」
「ワシらに食わせる分はないというのか!?」
三者三様の、非難のこもった声が部屋に響いた。
――そして、20分後。ちゃぶ台の上には空きの器が見事に積み上がった。アシュリーが頼んだ大盛り
のセットに加え、ラーメンの2杯目まできっちり完食させられたおせちは、満腹で身動きが取れず、ベッドの上で呻いている。その姿は完全に、打ち上げられたトドだった。
だが、その理知的な瞳だけは、獲物を前にした探偵の鋭い光を宿していた。彼女は、天井の1点を見つめたまま、重い口を開く。
「シノのおじいちゃんのお店……やっぱり、あの『穴もたず』なんかより、ずっと美味しい。値段のことを考えても、普通なら絶対こっちを選ぶはず。……ウェップ!立地も、営業時間も、宣伝も、独立店ってとこも、条件はほとんど同じ。なのに……客足だけが、まったく違う……オエェっ……」
その間アシュリーはというと、人間と化したはちるを背もたれ代わりに畳に寝そべっている。
うつらうつらとした瞳のまま、スマホでサッカーのニュースサイトを見ながら、彼女は満足げに息をつく。
戦いの後遺症で一時的に獣人の特性を失ったはちるは、いまやただの大人びた美少女そのもの。
慣れぬ柔らかな感触を確かめるように、アシュリーは、己の首筋の下敷きとなった腕を、指でじっくりとなぞった。
「感慨深いよ。これで私たちも、ようやく『セクシー担当』がいるグループになったわけだ。
……まあ、もふもふの公式マスコットも悪くなかったけど」
その言葉を、元の自分への純粋な賛辞だと勘違いしたはちるが、ここぞとばかりに声を弾ませる。
「でしょー!?やっぱり、フワフワのウチの方がずぅっっっっっといいよね!?」
「いや待て……」
アシュリーは、人間ソファの心地よさにまどろむ虚ろな目で、天井の1点をぼんやりと仰ぐ。
「なんかもう、昔からずっとツルツルだったような気がしてきた。ああ、そうだよ、最初から……あたしの知ってるはちるは、ツルツルの巨乳だった……」
そのままうたた寝に入らんばかりの、完全に呆けた声を上げた。
「そんなぁ!ウチのアイデンティティなのに!」
ちゃぶ台でお茶を啜っていた尊が、会話の流れを一切無視して淡々と指摘を入れる。
「いや、アシュリー。わしが拾った時のはちるは、まだ胸もそこまで大きくはなかったぞ」
「……!」
そこで、はちると尊がくだらない言い争いを始めそうな空気を感じとったアシュリーは、話を強引に本筋へ引き戻そうとする。彼女は、どこか苦しそうな
おせちの方をじっと睨んだ。
"So, what's that all about, Osechi? "
(で、おせち。結局、どういうことなんだ?)
その唐突な流暢さで投げ込まれた英語に、
「なんなの?そのイギリスアピール、いきなり……」
おせちは思わず眉をしかめる。
"Gotta do it now’n then, fam. Ain’t tryna fuhget me roots, innit."
(時々やっとかないと自分でもルーツを忘れそうになるからな、なぁ兄弟?)
しかしアシュリーは、どこ吹く風とばかりにロンドン訛りを響かせ、したり顔で続けた。
おせちはその得意げな調子にも呆れ気味で、すかさず冷静なツッコミを入れる。
「妙に発音よすぎると、かえって付け焼き刃っぽく聞こえるよ。頑張って英語のスピーチを覚えた中学生みたい」
その一言で、アシュリーの唐突なアイデンティティの主張は、拍子抜けするほどあっさりと空気に溶けていった。
「ま、現実は高校生だから、もっと手遅れかもな?でもさ、私が覚えててホントに役に立つ外国語って言ったら――『それ、隣のカボチャ頭が払ってくれるから!』ってセリフの30ヵ国語バージョンなんだよな。なあ?」
そう言うや、アシュリーは寝返りを打ち、はちるの腹に顔を半分うずめて、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
一瞬、むっつりとした顔を彼女に向けたおせちは、頭の奥で推理の糸をたぐり直すように、静かに口を開いた。
「まず前提として……シノちゃんのおじいちゃんのお店は、たしかに美味しかった。地元で愛される街中華としては、十分に魅力があるよ。でも――」
そこで一度、言葉を置き、さらに確信をこめて続ける。
「じゃあ、行列の絶えない『名店』って呼べるほどの完成度があるかって言われたら……正直、そこまではまだ達していない。これが率直で客観的な評価 だと思う」
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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり
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