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カルテット・マジコ  作者: piku2dgod
Issue#03 I I I I Dreamed A Dream

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issue#03 I I I I Dreamed A Dream CHAPTER 03 04

放課後の教室は、夕暮れの茜色にゆるやかに染まりつつあった。

窓から差し込む柔らかな光が、床に長い影を落とし、天井の照明の残像もどこか遠くに押しやられたように感じられる。ほとんどの生徒は帰り支度を終え、教卓を片付ける日直の背中と、窓辺に立つおせちの横顔だけが、夕焼けの余韻に浮かんでいる。


そのとき、廊下を駆けてきた足音が、教室の扉の前で不意に止まる。

息を切らせ、顔を赤らめながら、シノが勢いよくドアを開けて飛び込んできた。

肩は小刻みに揺れ、握りしめた拳はわずかに震え、その瞳には、言葉よりも強い切実な訴えが宿っていた。


「おせちちゃん……お願い、聞いてほしいことがあるの」


いきなりの呼びかけに、おせちはゆっくりと振り返る。

「どうしたの、シノちゃん。そんなに慌てて――」


教室の西側の壁に、茜色の斜陽が2人の影をほのかに重ねていく。


「……前に、おじいちゃんがこっちでラーメン屋やってるって話、したよね?

最近、そのお店が、ひどい嫌がらせを受けるようになって……」


声を絞り出すシノの肩は、緊張と不安でわずかに震えていた。

おせちは少しだけ首を傾げ、問い返す。


「嫌がらせ?」


「そうなんよ……」

シノは苦しげに唇を噛みしめる。


「どんなふうに?」


「はす向かいに、最近新しいお店が建って……」

言いかけたシノを、おせちは、眉をハの字にしたまなざしで見つめる。


「それは……偶然なんじゃないかな?」


まずは最も無難な可能性を探り、順序立てて考えようとする。

その言葉に、シノはもどかしそうに首を横に振った。


窓の外では、カラスの群れがゆったりと旋回し、だんだんと紫がかる夕闇が教室の奥へと忍び寄っていた。


「でも、それがどっちも札幌ラーメンなの! おじいちゃんのお店の1番の売りなのに……」


「うーん……それもまだ、正当な競争の範囲だと思う……よ?」

おせちは、決して冷たくならぬ声で、事実をひとつひとつ丁寧に受け止めていく。

そのまっすぐなまなざしに、シノは一瞬だけ口ごもる――が、すぐに思い直したように、強い意志を込めて言葉を重ねた。


「向こうは……値段が、安すぎるの!それに、私、見たんだ。夜中に、向こうのお店の人が、おじいちゃんの店の前に何かを撒いてるのを……直接的に嫌がらせされてるのを、この目で見たの!」


弁明というより、必死に訴えをぶつけるような語調。その不安と怒りが、教室の空気にじわりと染み渡る。おせちは、ついにその表情を動かし、「直接的な嫌がらせ」という言葉の重さ、そして“目撃した”という証言の強さに、思わず身を乗り出した。


「監視カメラには、何か映ってなかったの?」


「ううん、何も……。ちょうど死角になってるみたいで、何も映ってなかったの」

力なく答えるシノの肩は、夕闇の色に沈み込むように小さくなった。


物的証拠が何もない――その現実が、どれほど彼女を無力感で満たしているのか、

おせちにも、その痛みがひしひしと伝わってくるのだった。


シノはきゅっと唇をかんで、宙を睨みつけた。次なる証拠となり得る事実を、頭の奥から必死に呼び戻そうとするかのように。

「でもね……他にもあったの!夜中に、お店の裏から物音がして……そっと覗いたら、向こうの店の人たちがいたの。それでね、厨房で使う業務用の――あのおっきな製麺機。大人の男の人でも、1人じゃ動かせないくらい重いやつを、2人でひょいって持ってきて、入り口の前に――」


そこまで語ったとき、シノの声は恐怖と興奮でわずかに震え始めた。


「まるで、空のダンボール箱みたいに簡単そうに置いたの。あれは、絶対に人間の力じゃなかった。

その人たち、まるでクマみたいだったの。ううん、クマそのものだった。音もなく、おっきな岩を転がすみたいに……。だからカメラなんて意味ないよ。

何をしたかじゃなくて、そのやり方が、絶対に普通じゃなかったんだよ!」


おせちは絶句し、無意識に窓の外へと視線をさまよわせる。

校庭の向こうを自転車が1台だけゆっくり通り過ぎ、遠くのエンジン音が薄く響いてくる。

窓辺のカーテンが、外から吹き込む風に絶え間なく揺れている。その何気ない情景さえ、いまはどこか現実感の乏しいものに感じられた。


やがて、おせちはゆっくりと言葉を選ぶ。

その声には、さきほどまでの淡い調子に、理知の重みがにじみはじめていた。


「……そっか。じゃあ、これはちょっと、簡単には片付けられないね。でも、証拠がなぁ……」


シノは、それでもおせちの確信が揺らがないことを感じ取ると、まるで最後の切り札を出すかのように声を低くして続けた。


「それでね、最近、噂を見たんだ。――クマ人間の。ホントに、それかもしれないの!」


「……クマ?人間?」

おせちはさすがに眉をひそめ、不審そうな眼差しを向ける。その声音には、

超常的な力を持つ彼女でさえ受け入れがたい、不条理な単語への戸惑いが色濃く浮かんでいた。



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本家:ページ中にキャラのコンセプトアートなどあり

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24843658

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